第23話

 それから数日たったある日。アパートにユミルがやってきた。

 エドワードから住所を聞き出して、顔を出したのだという。

 突然の訪問に驚きはしたものの、ジャックは彼女の部屋に招き入れる。

 そこで、二人のエルフが初めて対面することになった。


 いや、初めてというわけではなかった。

 ユミルがジャックを射抜いたという話は、以前に話してあるためここでは省略させてもらおう。

 ユミルの話では、エリスとともにジャックを村に運んだのだから、お互いに知らない中ではなかったはずだ。


「久しぶり」

「うん。久しぶり」


 短いやり取りだったが、お互いにそれ以上の言葉は必要なかった。


 ユミルは早速、今日訪れた理由を説明してくれる。

 先日ジャックと約束した依頼が見つかったようだ。

 本当ならばギルドで待ち合わせていたから、その時に見せればよかったのだが、ついでだからと伝えにきたらしい。


 内容は薬草採取だが、特殊な場所に行かなければ取れないために、報酬はそれなりに高くつく話だった。

 証拠として依頼書を持っていたため、ジャックはそれに目を通す。

 確かに、ユミルのいう通りだった。


「これでいいかしら」


 異論はなかった。

 早速受理をするために、エリスに留守を任せて二人はアパートを出た。


 午前十時を少し過ぎたくらいに二人はギルドについた。

 仕事に出ているのか。それとも多くの冒険者が休養を取っているのか。ギルドの中は閑散としている。

 ユミルを先頭に、ギルドの中を進み受付へと向かう。


 受付嬢に依頼書を提示すると、早速手続きに入った。

 作業はそう難しいことはない。

 前もって受け取っていた会員証を店本人であることを確かめると、冒険者の名前が刻まれた印鑑で、捺印していく。

 それが終われば、今度は冒険者自らで署名欄にサインをする。これだけである。


 数分のうちに手続きを終えると、その足で遠征の準備に入る。

 依頼された薬草が生えているのは、帝都から二日はかかる場所だ。

 そのために最低でも食料と水を用意しておく必要があった。


 あらかたの買い出しを日中に終えて、帰宅の途につく。

 食料をユミルが、水をジャックが分担して預かることになった。

 ユミルの住むアパートまではジャックが運んだ。

 自ら買って出たというよりも、ユミルから自然に渡され、運ばされているといったほうが正確だろう。


 袋を背負って歩いてみると、なかなかどうして重く感じる。

 ユミルの住んでいる場所は、ジャック達のアパートからそれほど離れた場所ではなかった。

 似たような立地にあるコンクリートの建物。

 頑丈そうな見た目とは裏腹に、中に入ってみると、木材の温かみを感じるフロントに出る。


 大家らしき老人が、ロッキングチェアに座って、うたた寝をこいている。

 彼の首が動くたびに、椅子がゆらゆら、ゆらゆらと揺れ動く。

 ユミルとジャックはかの老人を起こさぬよう、足音を忍ばせて登り階段を上った。


 一つの階に一つの部屋という、作りになっている。

 そのため独り身には贅沢なくらいの、広い室内だった。

 リビング、キッチン、寝室。さらにはちょっとしたベランダまで。なかなかにいい部屋だった。


 広さの割に家賃が安いのだ。というユミル。

 なるほど、もう少し探していれば、こういう風な物件にも出あてかもしれないと、ジャックは思う。

 しかし、もはや時すでに遅し。いまさら変えるつもりも、変える金もなかった。


 荷物を置くと、ユミルとはその場にて解散をすることなった。


「荷物を運んでくれてありがとう。馬の方が私が手配しておくから、心配しないで。初めてのお仕事、楽しみにしておいて」


 ユミルはそういって、ジャックを見送った。


 ただの金稼ぎに、ジャックはそこまでの情熱を燃やすことはできなかった。

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