あなたの悩み解決いたします~路地裏よろず屋今日も開店です~

片目のにゃんこ

路地裏のよろず屋

その猫を見たのは偶然だった。


帰宅する人で波のよう人混みの中。

黒猫が騒がしい喧騒など気にすることなく、軽やかな足取りでスタスタ歩く。

何の変哲もないどこにでもいる猫なのに、何故か目が離せなくて……黒猫の後を追い掛け波を逆流していった。


人混みを抜けた猫は、人気のない路地裏に消えて行く。

人1人やっと通れそうな細くいりくんだ小路の先……ひっそりとただずむ一軒のお店に辿り着いた。

この路地裏にこんなお店などあっただろうかと首を傾げるが、中世ヨーロッパを思わせる繊細な造りをした外観に目を奪われてしまう。

暫くポカンとみとれていたが、ふとここまで来た目的を思い出した。


―そうだ、黒猫を追い掛けていたんだ。


キョロキョロと見渡してみたが、辺りには店以外なく行き詰まりで路がない。

となると、猫はこの店の中にいるのだろうか?


ドアを開き店内へと入る。

カラン、カラン……と来客を知らせる鈴が店内に響いた。


「おや?……こんな時間に来客とは珍しいですね」

鈴の音に、店内にいた細身で長身の男性は、ゆったりとした動作で椅子から立ち上がり微笑む。

「今日は、何をお探しですか?」

「え?……あ、買いに来たわけじゃなくて…黒猫を……」

「黒猫?……あぁ、この子ですか?」

話しかけられしどろもどろと説明するが、男性はなるほど……とカウンター近くに積まれた本の上で丸まりながら寝ている猫を指差す。

たしかに、その猫は後を追いかけていた黒猫で間違いなさそうだ。


「あ、そうです。この子です」

「たまに、フラりとお店に来てはこうしてお昼寝して帰るんです」

「そうなんですね、街で見かけてつい追いかけて来たんです」

黒猫に近寄ってみるが、よほど人に慣れているのか、熟睡したまま起きることなく夢の中だ。

ジーっと寝てる黒猫をみていたら、隣の男性はクスッと笑った。

笑われた意味が分からず、頭の中が疑問符でいっぱいになる。

「すいません、つい。あまりにも真面目にこの子を見てるものだから……そんなに、猫好きなんですか?」

「あ、そうですね……昔、実家で飼ってたぐらいです。それに今のアパートペット禁止でして」

男性に指摘され、顔を赤くする。そんなマジマジ見てたのだろうか。

「引っ越しはされないんですか?」

「今の所は考えてないです。会社から近いですし、何より給料的にペットまで飼える余裕はなくて……」

頭をかきながら、男性の問いに答えた。

会社の通勤の利便性を考えて、多少高い家賃のとこを選んだものの、生活費を引いたなけなしの給料では貯金も余り貯まらない状況だ。

ペットを飼うのは憧れだが、何かを我慢しやりくりしなければ生活できない状況で、新たに引っ越す資金など算出出来ないに等しい。

「では、知り合いに平屋の大家をしている方がいるのですけど。立地はそれなりにいいのですが、築10年以上経っていているせいか余り借り手がいなく困ってるらしいんです。どうですか?あ、もちろん大家さん動物好きなんでペット可ですし家賃は月4万5千です」

「え、ですが……」

それは、なんとも美味しい話し。

地図で示された場所も、会社から多少遠くなるものの確かに立地的に問題無しと言うより、今住んでるアパートよりも良い。

それに、何より家賃が今の所より格安だ。

条件的に考えれば、今住んでるとこよりも断然にこちらだろう。

だが、あって数分の見知らない男性の紹介とか……あやしすぎて即決するのは難しい。

だが、すごく魅力的な話しにうーんと悩んでいると、目の前で寝ていた黒猫が目を覚ました。

あくびをひとつしてピーンと背を伸ばし、黒猫は俺を見るなりすり寄ってきた。

可愛いなぁ……と癒されてしまう。


「ふふっ、悪い話じゃないでしょう?どうです?」

男性が優しく微笑む。

踏ん切りがつかないおれに、黒猫はにゃあと鳴く。


そうだな、ウジウジ悩んでいても仕方ない。

これも何かの縁に違いない。

俺は決心して隣の男性に声をかけた。



「ふぅ、なんとか片付いた」

男性の紹介通りに、この平屋に引っ越して数日。

空の段ボールが散乱してるが、やっと荷ほどきが終わりなんとか生活できる部屋になった。

部屋の隅には猫用のケージに奮発して買ったキャトタワーが鎮座している。

実家の猫が子猫を産んだらしく、その一匹を引き取る予定だ。

まぁ、まだ産まれたばかりで、引き取りまで暫くあるのだが、せっかくだからと買ってしまったが後悔はしていない。


「なんだ、やっと片付いたのか」

「あ、大家さんこんにちは!やっと終わりました」

換気のため開けっぱなしにしていたまどから、ひょっこりと顔を出した大家は、部屋を見回してにかっと笑う。

「良い感じじゃないか、若もんらしくあかるいね」

「ありがとうございます……29過ぎなんで若いつーのは無理ありかも知れませんが」

大家さんの言葉に、照れ隠しでハハっと笑う。


「そう言えば、大家さん聞きたいことがあるんです」

「なんだ?」

「ここを紹介してくれた人なんですが……」

そう、この平屋を紹介してくれた路地裏の店の男性だ。

引っ越した当日、お礼がしたくてまたあの路地裏に行ったのだが……

目的の場所に辿り着いた俺は目を疑った。

更地が広がっておりあの店の影も形も無かったからだ。

道を間違えたのかなとも思ったが、道順は間違っておらず、あの店だけがなくなっていた。


―まるで最初から無かったかのように……


「あぁ、アイツはな……気まぐれだからなぁ……何かを悩んでるヤツの前にしか現れないんだよ。そんで、悩んでるヤツをほっておけないお人好しだ」

しみじみと、まるで懐かしむような大家の言葉に、俺は無意識のうちに問いかけていた。

「また、会えますかね」

「さぁな。……だがな、お前がどうしようもなく悩んで、困った時……会えるかもな」

確証は何処にもないが、俺があの時黒猫を追いかけて、あの店に行ったのは偶然ではないのだろう。



あの店は、今日も何処かで悩みを抱えた誰かを救ってるに違いない。



「おや、お客様今日は何をお探しですか?」



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