ジグソーパズル

 私の家の近くには魔女が住んでいるという噂の森があった。おどろおどろしい雰囲気があり、魔女が住んでいても不思議じゃない森だった。

 私は輝樹てるきに手を引っ張られつつ、森に足を踏み入れた。輝樹が暇つぶしに森を探検しようと言い出したのだ。以前から興味があったこともあり、私は二つ返事で承諾した。

 木の枝に頭をぶつけないように気をつけながら、森の奥へと進んでいく。昨日は雨が降っていたからか、地面はぬかるんでいた。木には見たこともないような種類の実が成っている。見た目が黒く変色しており、あまり美味しそうには見えない。

 木の枝を避けながら進んでいくと、やがて拓けた場所へ辿り着いた。その場所には木は生えておらず、中心には屋敷があった。屋敷には蔓が巻き付いており、苔も生えている。まるで廃墟のような外観だった。

 感慨深げに屋敷を眺めていると、いつの間にか輝樹が屋敷の門を叩いていた。

「すみません! 誰かいませんか!」

「ちょっと、何してるの?」

「屋敷の中も探検させてもらおうと思って」

 輝樹は屈託のない笑みを浮かべた。その笑顔にキュンとしていると、門が開いた。とんがり帽子に杖を持った女性が出てきた。この女性が噂の魔女だろうか?

「……ウドツハ・ルズパーソグジ・ンモユジ」

 女性は何かを呟いたが、何を言っているのか全く分からなかった。

「何だ、コレは?」

 輝樹が戸惑いの声をあげた。横を見ると、輝樹の体が光っていた。すぐに光は消えたが、輝樹はジグソーパズルに姿を変えられていた。

「……私有地に入った罰よ。ジグソーパズルを完成させれば元の姿に戻る。けれど、失敗すれば死ぬわ」

「そんな……ひどい」

 私は女性を睨みつけた。しかし、女性は微笑むだけだった。

「輝樹……すぐに助けるから待っててね」

 とは言ったものの、ピースの数が多くてどこから手を付けたらいいのかが分からない。とりあえず下半身から手を付けることにした。

 輝樹は確か茶色の靴を履いていたはずだ。ピースの中から茶色の靴を探し、フレームにはめていく。

 靴下は黒色だった。ピースの中から靴下を探す。これは黒色だけど、髪の毛だから違う。靴下はどこだ? ピースを漁り、何とか靴下を見つけ、フレームにはめる。

 次はジーンズだ。これは青色だったから、すぐに見つけ出せた。ジーンズをフレームにはめていき、下半身は完成した。それから灰色のトレーナーをピースの中から探し出し、フレームにはめていく。

 私は一呼吸置いた後、ピースの中から両手を探した。問題はここからだ。この指が右手なのか左手なのかを判断しなければならない。じっくりと観察し、慎重に指をフレームにはめていく。合っているか、何度も確認する。

 あとは顔を埋めるだけだ。髪の毛と耳をはめる。それから眉毛、目、鼻、と順番に顔のパーツをはめていき、口だけとなった。口のピースをはめた瞬間、ジグソーパズルは爆発した。

 私は何が起きたのか分からず、頭が真っ白になった。

「残念でした。あなたは失敗したのよ」

「そんな……いったいどこが間違えてたの?」

「あなたは右目と左目を逆にはめたのよ。彼氏を助けたいあまり気付かなかったようだけどね」

 女性は一頻ひとしきり笑った後、屋敷の中に戻っていった。

 私は茫然自失としたまま、森を後にした。


 数日後、私は森を放火した罪で逮捕された。

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