授業

深月みつきさん、起きなさい。今は授業中よ」

 私はよだれを垂らしてもなお可愛らしさが失われない深月さんのポテンシャルの高さを羨ましく思いつつも、肩を揺らした。

「授業中に寝たらいけないって誰が決めたの? そんなものに私は縛られない。私は私のルールで生きる……ぐぅ~」

 驚くべきことに深月さんは会話が成立しているかのような寝言を言った。こんな場面で『私は私のルールで生きる』なんてちょっとカッコ良さげなセリフを吐かれても困る。凡人の私では対応できない。

「私は私のルールで生きるですって? 私も甘く見られたものね。あなたは生徒で私は教師なのよ。ここではあなたのルールじゃなく、私のルールに従ってもらうわ」

 私なりに深月さんの寝言に対応した。私如きではこのくらいのセリフが限界だ。はっきり言って深月さんの寝言についていける自信はないが、愛する生徒のためなら私は頑張れる。

「社会のルールを生徒に押し付けるの? それが大人のやり方? それが大人だと言うのなら、私は一生子供のままでいい……ぐぅ~」

 またもや深月さんはカッコ良さげなセリフを吐いた。決して寝言で言っていいセリフではない。本当は起きているんじゃないかと私は疑った。だが、深月さんの可愛らしい寝顔を見ていると、起きていようが起きていまいがどうでもよくなってきた。

「一生子供のままね。それができたらどれだけいいことか。でも、大人になることは避けられないわ。人はいずれ大人に成長するもの。中身は子供のままだとしてもね」

 足りない頭を捻って出したセリフだったが、なかなか良いのではないかと自画自賛する。クラスの皆は冷めた視線で私と深月さんを見ていた。

「そうかもしれない。けど、私はあんたみたいな大人にはならない……あ、先生、おはようございます」

 深月さんはようやく目を覚まして私にあいさつした。頬にはべったりとよだれがついている。

「おはよう、深月さん」

 深月さんにあいさつした後、私は何事もなかったかのように授業を再開した。

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