呪われた人形

 私は食器を購入しようと雑貨屋に来ていた。

 買い物かごをぶら下げ、食器を探していると、あるものが目に入った。

 それは人形だった。美しい黒髪に、端正な顔立ちをしている。とても人形とは思えないほど精巧に作られていた。人間だと言われれば、信じてしまいそうになるほどだ。

 私はその人形から目を離すことができなかった。恐る恐る人形を手に取ってみると、思ったよりも軽かった。

 近くで見るとさらに美しく、私は心を奪われてしまう。私はこの人形を購入することを決めた。値段は1000円と少々高めだが、自分のものにしたくて仕方がなかった。

 食器は日をあらためて購入することにし、私はすぐにレジに向かう。レジの精算を終え、私は雑貨屋を後にし、帰路についた。

 

 ☆☆


 私は帰宅後、すぐに紙袋から人形を取り出した。

 美しい黒髪を撫でながら、その端正な顔立ちを眺め続けていた。くりっとした瞳に透き通った鼻筋、頬には赤みが差している。こんなにも美しい人形に出会ったのは初めてだ。この世で一番美しい人形と言っても過言ではない。

 私は人形をテーブルに置き、頬杖を突きながらずっと眺めていた。ふと気が付けば、夕方になっていた。

 何時間も人形を眺めていたとは驚きだ。時間を忘れてしまうほど、この人形は魅力的ということなのだろう。

 いつもなら私はテレビを観ながら食事をするのだが、今日はテレビはつけずに、人形を眺めながら食事をすることにした。昨日の夕飯の残りを電子レンジで温める。人形を凝視しながら、白ご飯とおかずを交互に食べ進めた。

 後片付けを終え、私は人形を持って寝室へと向かう。

 人形を胸に抱きかかえ、私は眠りについた。


 ☆☆


 目が覚めた私は人形を見て、愕然とした。

 美しかった黒髪の数本が白く・・なっていた。色素が抜け落ちたのだろうか? しかし、昨日購入したばかりなのだ。数年経っているならまだしも、一日も経っていないのに、色素が抜け落ちたとは考えにくい。

 私は不思議に思いつつも、深く考えないことにし、顔を洗うために洗面台に向かった。

 鏡を見た私はまたも愕然とする。私の髪も数本白く・・なっていた。

 私は呆然としながら鏡を見ていたが、ふと我に返り、慌てて寝室に向かう。

 人形を手に取って、じっくりと見る。やはり思ったとおりだ。私と人形の白髪の・・・位置が・・・一致・・している。

 私は不気味に感じたが、人形を手放す気にはなれなかった。

 翌日も人形の髪は白くなっていた。人形とシンクロしているかのように、私の髪も白くなっていた。

 日を追うごとに人形の髪は白くなり、美しさが失われていく。私の髪も白くなる一方だ。

 一か月も経たぬうちに人形の髪はすべて白くなった。私の髪も真っ白だ。

 明日になったら人形はどうなるのだろう。髪はこれ以上白くはならない。

 そして朝を迎え、私は恐る恐る人形を見た。人形の顔に複数の線が刻み込まれていた。この線はいったい何なのだろう?

 私は動悸が激しくなるのを感じながら、洗面台に向かい、鏡を見た。


 私は――顔中シワだらけの・・・・・・・・老婆・・になっていた。

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