黒き死神が笑う日
僕は何百年も前にこの世に生を成した死神だ。孤独だった。生まれてからずっと。
この世界での死神とは、人を殺し、その者の魂を導く者のことだ。自ら殺しておいて何が導くだと思う。いや、まあ僕も死神なんだけどね。
僕は、人を殺したことがない。だから裏切り者だと罵倒される。でもそんなことで落ち込んだりはしない。これが僕の決めた生き方なのだから。褒められはせよ、罵倒される筋合いはない。
僕は、他の死神から人々を守っている。『
懐から小さな結晶を取り出した。『
む……? 中学生と思われる少女が鼻息が荒い死神に襲われようとしている。助けに行こう。
ポケットからもう一つのアイテムを取り出した。
☆☆
私は、入浴しようと風呂場に向かった。
服を脱ぎ、バスタオルを身体に巻き、風呂に入った。銭湯の気分を味わってみたくて。
身体を洗わずに片足ずつ入った。身体の芯から温まる。鼻歌で歌うか口に出して歌うか迷った。別に歌う必要はないが。
さて、私の名前をご紹介しようではないか。
突然、暗くなった。何事と思い、顔を上に向けた。鼻息が荒いおっさんがいた。何だこいつ気持ち悪い。どっから入ってきた。
「おめえ、可愛いじゃねえか。もろ好みだ。そのバスタオル剥ぎ取ってやるぞ。グハハハ」
女の子の裸が見たい変態やろうか。さて、どうしたものかな。
「おりゃ!」
飛び掛ってきた。
突如、ズズッと音がし、私とおっさんの間の空間がぐにゃりと歪んだ。そこから一人の男が出てきて、おっさんを蹴り飛ばした。おっさんは壁にぶつかり悲鳴を上げた。
「危ないところだったなお嬢さん」
「……なんだお前。どうして空間が歪んだんだ」
「ああ、それはだな。この『
「一体何者だ」
「死神だよ。名は
「かっこいい名前だな」
「そうかな?」
おっさんは立ち上がって剽窃を睨み付ける。
「貴様何をする! 愛の儀式――キスの邪魔しやがって!」
背筋に寒気が奔り、喉から嘔吐物が競り上がってきた。やべ、どうしよう。風呂場で吐くわけにはいかねえし。
「嘔吐物かい? 僕の口の中に吐きなよ。全部飲んであげるからさ」
私はコクリと頷き、しゃがんで顔を上に向けて、口を開けている剽窃に顔を近づけて吐いた。
「ゴク……ゴク……ゴックン」
剽窃は頬を紅潮させ、嬉しそうに飲み込んだ。
「お前ど変態だな」
「そう? そんな自覚はないけど、そう思うんならそうなんだろうね」
「何だよそれ」
「さあね」
と、言い、剽窃は、おっさんの方をチラリと見やる。おっさんは拳に力を込めているようだった。
「うんどりゃ!」
と、おっさんは叫び剽窃に拳を突き放った。
「ん」
剽窃はそれを思わず見惚れてしまうほどに清々しい表情で避けた。
「!」
おっさんは驚きに目を見張り、硬直した。その瞬間を見逃さず、無防備な腹に連続で拳を突き放つ剽窃。私は、それをポーッとした顔で見つめる。
「ぬおおおぉ!」
おっさんは苦痛の声を上げた。
さらに剽窃は、身体を後ろに反らせ足を思いっきり上げ、あごを蹴り飛ばした。サマーソルトだ。
「がっ……!」
おっさんは光の粒子になり、消滅した。
「消滅した? 何で?」
私は驚きを隠せない。隠す必要もないが。
「それは、そいつも死神だからだよ。死神は死んだら光の粒子となって消滅し狭間に行く」
「狭間……?」
「天国と地獄の中間にある場所……それが狭間だ」
「そうか」
私は剽窃の近くに行き、顔を近づけてキスをした。
「!」
剽窃は驚いた顔をした。
「私はお前に惚れた。好きだ。付き合ってくれると嬉しい」
「うん。付き合おう」
剽窃は嬉しそうに笑った。
私は、両手を胸に当てた。ドキドキしてる……気がする。気がするというのは、こんなことは初めてだから本当にこれがドキドキなのかが分からない。でも好きだってことは分かる。だって私は今凄く嬉しいから。
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