第103話 阿修羅神
阿修羅神
扉を潜ると、また階段だ。だが、段数は大したことなく、すぐに頂上の踊り場に着く。
「ふむ、敵は無しと。で、これはまたパーティーを分ける必要があるな」
そう、踊り場は行き止まりになっており、その左右には、白く光る球の嵌った扉がある。
しかし、その扉についている窪みの数は、それぞれ3つ。
つまり、両方とも3人までしか入れないことを意味している。
「まあ、組み分けはもう決まっとるし、これの意味する事はわいでも理解できるわ」
「そうね。コンプを狙うなら、この両方に同時に入って、更に両方クリアしろってことね!」
うん、俺もそう思う。
そして、既に俺の両腕は、カオリンとローズに抑えられている。
「はい、僕もそう思いますよ。ですが、ここは既に完全に未知のエリアです。準備とか大丈夫ですかね~? 装備はあの店で揃いましたが、回復アイテムも多めに持っておいたほうがいいのでは?」
「流石はタカピさんですわ! それにここはまだ、アクセサリー装備不可能エリアですわ!」
ふむ、クリスさんの補足で完璧だな。
今まではアクセサリーの真・八尺瓊勾玉の連続詠唱のおかげで、回復役が一人居れば充分だっが、これからはリキャストタイムがシビアになる。回復アイテムに頼らないと厳しいかもしれない。
ただ、俺にとっては、このアクセサリー不可の状態は、そんな事以上に大問題である。
「ですね。じゃあ、俺も緊急転移の石をアイテムフォルダーに入れておきますよ。レッドゾーンに入ったら、自分で発動させるしかなさそうだ」
「あははは、相変わらずシン君は律儀ですね~。ですが、今は誰も見ていません。そこまで気にする必要は無いでしょう。今は、純粋にこのゲームを楽しむのが一番だと思いますよ」
うん、このタカピさんの一言で俺も一気に気が楽になった。
今の俺にとっての最大にして唯一の課題は、如何にしてあの完全集中の状態に入るかだけだ。
姉貴じゃないが、今の俺にイカサマとか何とか気にする余裕は無い!
俺達は早速パーティーを組みなおし、アイテムフォルダーを確認する。
物理防御特化仕様の防具を装備してから、魔法防御特化の防具をフォルダーに入れ、余った空きには、緊急転移の石と、アマテラスの涙や万能薬とかを放り込んで完了だ。
「では、後はこれですね」
タカピさんが、微笑みながらアマテラスの涙を両手で差し出してくれる。
「あ~、俺達には必要ないです。その、例の件で、有り余っているんで」
「ええ、あたし達は、前にシンから貰ったわ」
「あら、そうでしたか。これは少し残念ですね」
「あ、でもそこまで沢山ではないんで、サモンさんとクリスさんにお願いします」
「まあ、余ってはるんやったら、ここは厚意を無駄にせんのが礼儀でっしゃろ。有難く頂きますわ。おおきに」
「ええ、感謝しますわ」
そう、俺とローズには、ライトのID再登録の際にねこばばした消費アイテムが溢れかえっている。ちなみに、カオリンにも既に渡してある。
ふむ、そういや忘れていたな。今度ライトに会ったら、それとなく返してやろう。と言っても、あいつも信者に寄付して貰っている可能性が高いが。
「じゃあ、これで準備完了だな。で、俺とカオリンとローズは右。サモンさんチームは左でいいかな?」
「せやな。ほんなら皆気張るで~!」
「「「「「「お~!」」」」」」
俺達は二手に分かれ、全員窪みに手を押し当てた!
扉を開けると、そこは周り中が光り輝く星で満たされた空間だった。
ふむ、宇宙をイメージしていると考えていいだろう。
足元が若干おぼつかないが、重力はちゃんと感じられる。
そして、正面には、微かに見覚えのある神様が居た!
「え? ここ、日本神話の世界よね? 仏教の神様である、阿修羅神が居ていいの?」
早速カオリンが突っ込むと、3mはあろうかという三面六臂が答える。
うん、これくらいなら俺も覚えている。
今は穏やかな顔で正対しているが、その横についている顔は、おそらく、泣いている顔と、怒っている顔なのだろう。
「ふむ、そなたらの疑問は当然であろう。まあ、友情出演と考えるがよい。日本において、神道は、もはや仏教とは切っても切れぬ間柄なのでな。そなたらは知らぬやもしれぬが、江戸時代までは、混交しておったのだ。なので、神と仏、双方祀っている施設は多々ある。では、改めて自己紹介と参ろう。我は阿修羅神! そして素戔嗚よ、高天原に帰りたくば、我を倒すがよい! 下界で得た仲間と修行の成果、我に存分に振るうがよかろう!」
俺が心の中でへ~を連発していると、隣ではカオリンがうんうんと頷き、納得した表情だ。少し悔しい。
ちなみにローズは、そんな事は全く興味無しという感じで質問する。
「それはいいんすけど、やっぱ、アクセサリーは禁止っすか?」
あ、ローズ鋭いな。
そう、アクセサリーが使えると使えないとでは、戦闘形態は別物になると言っていい。
「素戔嗚とその一行よ、ここまで辿り着いたそなたらならば、アクセサリーの力になど頼らずとも、我を倒せるはずであろう。では、挨拶はここ……」
ん?
なんだ?
この流れだと、『挨拶はここまで! かかって来るがよい!』とか続きそうなものなのだが?
阿修羅神は完全に硬直しているようだ。
さっきまでは、話しながらも、剣を握った6本の腕がわらわらと動いていたのだが?
「ん? なんだ? バグか?」
俺が首を捻っていると、カオリンが飛び出して行く!
「良く分らないけど、先手必勝よ! パワーブースト! そして、喰らいなさい! 阿修羅六臂剣!」
ふむ、本家本元に効くかは分からんが、それもそうか?
そして、それに釣られてか、ローズも盾を構えて飛び出す!
「そうっすね。先ずは試してみるっす! スーパーアイドル! で、ガードアップ!」
カオリンの剣が6本に分かれ、それぞれが阿修羅神に突き刺さる!
ふむ、ちゃんと効いているようだ。
阿修羅神のHPゲージが、僅かだか減った!
しかし、これでいいのか?
奴は微動だにしていない。
なので、ローズのスーパーアイドルも効いているかは不明だ。
続けてカオリンが連撃に入ろうと、剣を構え直した瞬間だ!
いきなり阿修羅神の顔が120度回転し、怒りの表情に切り替わる!
「ふん、これでいいようだ。おい、シン! これでようやくお前と話してやれる! お前も俺様に感謝するんだな!」
げ!
この声、そしてこの口調は!
間違いない!
こいつはあの傲慢ライト、いや、比良坂の別人格だ!
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「新庄君! これは?! こんなの聞いてないけど~?」
「い、いや部長、私も何が何やらです! 比良坂君は今、岡田部長のところで検査中です! そもそも、NPCにログインできる訳が無いです!」
「桧山ちゃん! 例の比良坂君のPCは?!」
「は、はい! あの時、比良坂さんが使ったPCはそこです! でも、回線が繋がっていいないどころか、電源も入ってません!」
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