第96話 蘇生成功?

            蘇生成功?



 周りを見渡すと、あの、最初に監禁された、ホテルの一室のような部屋だ。

 カオリンとローズも居る。二人共俺同様、きょろきょろと辺りを確認している。


「ふむ、あそこから先は、俺でも見てはいけないようだ。まあ、何となく理由は想像できるけど。」

「え? ここ何処っすか?」

「何よ! いきなり飛ばされるなんて! それでシン! これはどういう事? さっきのと併せて説明してよね!」


 ふむ、カオリンは、俺がそれ程慌てていないので、俺に振ったのだろう。


「う~ん、どこから説明したらいいものやら。とにかく俺達は監禁されたと見ていいだろう。原因はさっきのライトだ。俺の読みだと、あれはライトの抜け殻だよ。なので、もしログアウトできるのならした方がいいのかもしれない。確か、ここはアイテムの使用不可エリアだったはずだったから。」

「いや、アイテムは使えるみたいっすよ? ログアウトの表示もちゃんと出るっす。」


 あら? 俺も慌てて確認するが、アイテム使用不可エリアとは表示されなかった。


「ふむ、急場で取り敢えず飛ばしたってところか。ならば、俺達のギルドルームには入れなくなっていると考えていいか。」

「どうやらそのようね。それで、シン、どうするの? あ、説明が先よ!」

「分かった。取り敢えず落ち着こう。俺も考えを整理したいし。」


 俺はそう言って、手近にあった椅子に座る。

 カオリンとローズは並んでベッドに腰掛けた。


 俺は腕を組んで考えているが、二人の視線が熱い。

 う~ん、本当に何処まで話していいのやら。

 それに、あれは成功したのだろうか?

 まあ、連中もそれを今確認しているところなのだろうが。


「取り敢えず、言えるところまでだけかな。ライトの協力によって、蘇生そのものは既に成功しているんだ。ただ、不完全な蘇生だったらしい。詳細は言えないけどね。くらいかな?」


 うん、流石にコピーの話はしたくない。詳しく蘇生の話をすれば、必ずそこに触れなければならない。


「え? 成功してるって、やったじゃないっすか! じゃあ、次はシンさんの番っすね!」


 ローズは目を見開いて食いつく。


「だから、不完全な蘇生だったって。なので、俺はまだ無理だ。でも、糸口は掴めていると思う。そこでさっきのライトだ! もし成功していれば、明日にでも俺の番だろう。」


 そう、俺は確信している。あれは成功だ。

 どうやって既に意識のある身体に意識を飛ばしたのかは分からないが、あれはライトの抜け殻だろう。タカピさんが言っていた、自我の無い状態だと思われる。


 更に、ライトがあそこで硬直した理由も想像できる。

 彼は俺達のギルドに居れば構って貰えるのだ。しかし、あそこが無くなれば、彼の存在理由が無くなってしまう。これはライトにとっては許せないというか、認められなかったのだろう。それで感極まって、無我の境地に陥ったと。

 つまり、ライトが幽霊になった時と、同じ現象が起きたと考えるべきだろう。


「う~ん、良く分らないっすけど、なんかもう時間の問題みたいっすね。」

「ああ、俺もそう思う。ただ、俺にはあの方法では無理な気がするけどね。」

「え? シン、それはどういう意味? あたしも少しくらいは理解できるわ。あの硬直した状態は、シンとのPVPでも起きたわよね。あたし達はすぐに追い出されちゃったけど。それで、シンがこうなった時もあれが起きたことからすると、ひょっとして、彼は蘇生に成功したんじゃないかしら。」


 うん、流石はカオリンだ。まあ、あれだけヒントを出していれば解るか。


「蘇生に成功したと呼べるかはまだ分からないな。そして、以前にも言った通りだよ。俺とライトでは、無我の境地への入り方が違った。なので、ライトの意識転移は不完全なものだったんだよ。それはあいつを見れば一目瞭然だろう。」

「なら、シンが蘇生するには、あの、蟻帝国の時と同じ状態にならないといけないって事かしら?」

「うん、俺もそう思う。だが、あんな状態、そうそうなれるのかな? ライトの場合は割と簡単だ。前回も、今回も、あいつは追い詰められて取り乱した状態と考えられる。でも、俺の時は全く違うと思う。あれは、完全に集中できた結果だろう。」

「うんうん。そこまで分かって居れば、もう何も言う事はないね~。そしてローズ君、あれはお手柄だったよ~。僕達は、あのライト君は、感情に乏しいと考えていたんだよ~。なので、どうやって、あの状態にするかが課題だったんだよね~。」


 ぶはっ!

 声に振り返ると、俺の隣にエルフアバターが居た!

 松井、毎回、いきなりすぎるだろ!

 カオリンもローズも、言葉を失っているし。


 ローズがお手柄だったという意味は解る。彼女のあの言葉で、ライトは追い詰められたからだ。


 松井は立ったまま続ける。


「うんうん。なので、シン君は、後は以前の状態にどうやってなるかが問題だね~。ちょっときつめのクエストにでも挑戦する~? それとも、PVPがいいかな? サモン君あたりとやってみる?」

「相変わらずいきなりですね。それよりも、さっきのライト、あれは成功なんですか?」

「うんうん、まだ岡田部長が確認中だけど、僕は成功したと見ている。なので、今度こそ君の番だ。今からでも出来るけど、流石に僕達も今はその確認作業とかで忙しい。データの解析もまだまだだしね~。なので、少しだけ待って欲しい。まあ、どうやって集中できるか、考えておいて欲しいかな。うん、僕の言いたい事はそれだけだね。あ、ギルドルームにはもう入れるから。」


 松井は言うだけ言って、即座に消えた。

 ふむ、本当に忙しそうだ。

 そして、飛ばされた理由もはっきりした。別にNGMLは俺達に隠すつもりではなく、単に、ライトの確認作業をするのに俺達が邪魔だっただけだろう。そして、その状況は、見ない方が良かったと思われる可能性が高い。


 ただ、引っかかる点もある。

 そう、どうやって、既に意識のある肉体に、あのライトの意識を上書きしたかだ。

 何となく想像はできるが、これはあまり考えない方がいいかもな。



 その後はカオリンもローズも、どうやって俺をあのゾーン状態に入らせるか考えておくと言って落ちた。かなり興奮していたようだし、明日は日曜なので、きっと二人共、朝一から潜ってきそうだな。


 俺もギルドルームに戻るが、誰も居ない。俺はもしかしたら、まだあの抜け殻ライトが居るのではと思ったが、何処かに監禁されている可能性が高い。

 連中がそう簡単に消すとは思えないからだ。もっとも、本当に自我の無い状態ならば、問題はないだろう。単なるAIだ。しかし、そうでなかった場合は空恐ろしい話ではあるが。


 俺は一人、ギルドルームで考える。


 今までの話を総合すると、追い詰められて暴走した状態でも意識転移は起こる。また、蘇生するだけなら、強制ログアウトでも可能だ。

 だが、それでは不完全な意識転移しか出来ない。

 例えば、意識の中にABCという要素があって、強制ログアウトとコピーの時は、蘇生に最低限必要なAのみが転移。そして、暴走状態の時は、AとB。俺のように、ゾーンに入った時は、ABC全てが転移された。と、俺は勝手に解釈している。

 勿論、この仮説はライトの検査結果待ちだが、俺は結構自信がある。


 なので、問題はどうやって、あのゾーン状態に己を突入させるかだ。

 あの蟻帝国クエストの時は、こちらが不利になり、俺は前に出る決断を強いられた。その結果、普段は全く使わない戦法を取らざるを得なくなり、集中する事を余儀なくされたと見ている。更に、その戦法が予想以上にいい結果だったので、気を良くしていたというのもあるだろう。

 ならば、松井の言ったように、少しきつめのクエストにでも挑戦するのがベストか?

 うん、多分それがいいだろう。あの時は、完全に周りの状況が見えていた。PVPだと、自分と相手の事しか見なくていいが、それだと、不完全な気がする。乱戦になってこそ、普段以上に集中できるのではあるまいか?


 俺がそこまで考えると、目の前にあの三頭身美少女が現れた!

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