第95話 硬直するライト
硬直するライト
俺がギルドルームに戻ると、ライトは当然として、なんと、カオリンとローズまで残っていた。俺はてっきりライトだけだと思っていたのだが。
カオリンはモニターの前に立っており、ローズとライトはそれぞれ別のソファーに腰掛け、タブレットを出している。
そして、三人が一斉に振り向いた。
あ~、そういう事か。
モニターには歴史の教科書らしき記述が映っている。
「只今、授業中失礼するよ。ふむ、ライトもカオリンの授業に付き合わされたのか? それで、色々と教えて貰えたよ。詳しくは言えないけど、タカピさんには本当に頭が下がるな。」
色々と質問攻めに遭いそうなので、俺は先に断わりを入れておく。
「シン、お帰り。でも、あたしには聞く権利があるわよね? あ、じゃあ、ローズちゃん、今日の授業はここまでね。」
「シンさん、お帰りっす。あたいにも同じくっす! そしてカオリン、今日もありがとうっす!」
「あ、シンさん、お帰り。はい、カオリンさんが歴史の授業をローズさんにしていたので、悪いとは思ったけど、一緒に聞かせて貰ったよ。うん、カオリンさんの授業は要点を衝いていていいね。」
チッ!
ライトはいいのだが、この二人には通用しないか。意地でも聞き出すつもりのようだ。寧ろ、ライトにこそ聞く権利とやらがあるのだが。
俺が空いているソファーに腰掛けると、カオリンが隣に座ってくる。
そして、三人共、俺の顔を真剣に見る。
ふむ。カオリンとローズは当然だが、ライトも俺が何か重要な話をされたのは分かっているだろう。興味があって然るべきだ。
俺は少し悩む。
タカピさんが俺だけを呼んだ事を考えると、話していいものかどうか。
だが、特に口外するなとは言われていない。これはNGMLからもだ。
しかし、流石にライトのコピーの話とかはするべきではなかろう。もしライトが知らなかった場合、可哀想すぎる。
「う~ん、今言える事だけでいいかな? でも、その前にライト、君が知っている事を先に聞きたい。それがこの二人に言えない内容なら、さっきのパーティールームで話そう。」
カオリンとローズは不満そうな顔をするが、これは仕方無いだろう。
ライトの答えによって、言える内容が変わるからだ。
俺はライトを見る。ライトはいたって自然体だ。
「いや、僕は特に何も聞いていないよ。さっき呼び出された時も、あのホテルの部屋みたいなところで、ただ座って気楽にしていてくれって、それだけだったよ。なんか、夢を見ているような感覚だったね。」
ふむ。俺のデフラグ処理の時と似ているのかもしれない。ならば、あの時、ライトのコピーが取られたと見るべきか。
そして、やはりライトは何も聞かされていないようだ。今のライトは、今までの感じからすると、多分嘘は吐かないだろう。ならば、喋ってはいけない内容ならば、素直に『言えない』と答えるはずだ。
「分かった。じゃあ、俺も何も言えないな。カオリン、ローズ、悪いけど察して欲しい。ただ、俺にも希望が見えたのは確かだったよ。」
そう、強制ログアウトさせれば、人格はどうあれ、肉体が蘇生するのだけは証明されたのだ。ただ、人間の定義とかを考えると、蘇生と呼べるかどうかは非常に怪しいが。
しかし、この答えでは、この二人、納得してくれないだろうな~。
「仕方ないわね。でも、悪いだけの話じゃなかったようね。少し安心したわ。」
「そうっすね。それで、希望ってどんな感じっすか?」
あら? 二人共、意外と物分かりが良かった。
あ、ライトが居るからか。まあ、そういう意味で言ったのだから当然か。
「う~ん、詳しい事は未定だけど、明日、何か変化があるかもしれない。うん、今はそれだけかな。」
「シンさん、それは僕もですか? でも、今更生き返ったところで、何も無いか。」
うわ~。これは以前から聞いていたけど、聞きたくない言葉だ。
ローズとカオリンも、何か喋りかけたが黙ってしまう。
「う~ん、それも分からない。だが、ライト、その、もう少し足掻こうよ。気持ちは分からなくも無いけど、この世界だけじゃ何も出来ないし。それに、ここはゲームの世界だぞ? いくらクエストが豊富だとは言っても、そのうちすぐに飽きると思う。」
「うん、それは分かっているつもりだよ。でも、僕はそれでも今の方がいいよ。」
参ったな。
これでは何を言っても無駄かもしれない。生に対する執着が無いのではどうしようもない。
なので、俺はここでこの話を打ち切ろうかと思ったが、ローズがこれに反応した。
「じゃあ、ライトさん、もし先にシンさんが生き返ったらどうするっすか? シンさんはもうここには来なくなるかもしれないっすよ? そうなれば、多分このVRファントムは解散っすね。」
ふむ、確かに俺が生き返れれば、このVRファントムはもう必要無い。
もしログインしたとしても、ブル同様、メイガスを解除して貰って普通に遊ぶだけだ。うん、プラウに入れて貰うのも悪く無いな。当然、ログイン時間も激減するはずだ。サモン達との仕事も待っている。もっとも、NGMLに頼まれれば、協力くらいはするが。
ん? ライトの様子がおかしい。
彼は手をわたわたさせながら、しどろもどろに答える。
「あ、え、そ、それは……。あ、いや、駄目です! そ、それは駄目なんです! も、もし、そうなったら……!」
そして、ライトはいきなり立ち上がる! 今にも部屋を飛び出しそうな雰囲気だ!
これはヤバい!
「ライト! 落ち着け! 今のは仮定の話だ! そ、それに、もし俺が生き返れたとしても、事情を知っている俺には、NGMLは何らかの協力を求めて来るだろうから、このギルドは残しておかないといけないよな。」
「そ、そうっす! それにあたいもまだ居るっす! あたいの病気が治るまでは、ここはまだ必要っす!」
「そうよね……って、あれ? ライトさん?」
俺とローズで必死にフォローし、カオリンも何か言おうとした瞬間、ライトは全く動かなくなった! 身体の向きを変えようと上げていた足が、そのままの不自然な状態で止まる!
これは!
またあの現象が起こるのか?!
しかし、ライトは俺同様、幽霊のはずだ!
しかも、本体は既に蘇生している!
俺達が固唾を飲む中、ライトは硬直し続ける!
そして、俺にはとても長く感じられた後、ライトの足は降ろされ、普通にその場に立った。
表情も、さっきの切羽詰まった泣きそうな顔から、穏やかないつもの顔に戻っている。
「おい! ライト! 大丈夫か?! しっかりしろ!」
「「ライトさん!」」
俺達は必死にライトを呼ぶ!
「はい、何の御用でしょうか?」
ん? これは?
「え~っと、ライト、俺が解るか?」
「はい、ID、シンさんと認識します。」
「じゃあ、あたしは?」
「はい、ID、カオリンさんと認識します。」
「じゃ、じゃあ、あんたの名前はなんすか?」
「はい、僕の名前は、
う~ん、ちゃんと受け答えはするが、何かおかしい。AIを相手にしている気分だ。
ふむ、質問を変えてみよう。俺はタカピさんの言葉を思い出した。
「ライト、何かしたい事とか、俺に聞きたい事とかないか?」
「ありません。」
やはりか!
俺はすぐさまコールする!
姉貴、松井、新庄、桧山さん、同時にだ!
「ライトがおかしい! 自我が無いようだ!」
「はい! こちらでも確認しています! どうやら間に合ったようですね。」
返事をくれたのは新庄だ。
「え? 間に合ったって? しかし、これは明らかにおかしいだろ! 一体ライトに何をした?!」
「ちょ、ちょっと待って下さい。まだ確認中ですので。あ、はい、分かりました!」
チッ!
新庄の野郎、ここで切りやがった!
いきなり俺の景色が変わった。
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