第81話 結果の意味するところ

        結果の意味するところ



 景色が変わると、俺は闘技場の前、俺が入る時に乗った転移装置の上に居た。

 慌てて辺りを見回すと、観覧席への入り口に、姉貴以外の仲間が全員揃っている。

 さらにその傍に、先程入れなかったライトの同志も居た。律儀に待っていたのだろう。


 皆、何が起きたかまだ理解していない顔だ。全員きょろきょろしている。


「え? これ、どないなったんや?」

「せっかくいいところでしたのに、これはどういうことですの?!」

「へ? 何が起こったんすか?」

「あの現象は…? それでこれは? あ、そういう事ね!」


 ふむ、流石はカオリンだ。

 即座に自分達が追い出された事を理解したのだろう。

 だが、あの顔ではライトが死んだ事までは理解していないと見える。気付いていれば、俺みたいにかなり慌てるはずだ。


 俺は皆に向かって走りながら怒鳴る。


「あいつらやりやがった! 闘技場から強制転移させられたという事は、あれから先は見るなという事だ! とにかく一旦ギルドルームに戻ろう!」

「あ、シンさん! まだ勝負はついてなかったはずっすよね? え? でもここに居るって事は負けたんすか?」


 他の皆も俺を見つけて駆け寄って来る。


「ローズ! そんな事はもうどうでもいい! とにかく、江戸の転移装置に!」


 ローズは俺の声に気圧されしたのか、おずおずと俺に近寄って来る。

 サモンとクリスさん、そしてカオリンは、ある程度理解したのだろう。黙って俺に走って来る。


 しかし、その背後には例の茶髪イケメンジャージ姿まであった!

 しかも、なんかにやついてやがる。


「やはりライト様が勝ったんだ! ここにお前が居るのがその証拠だ! さあ、お前の秘密を全て話せ! 大体、ライト様もなんでこん奴なんかに!」


 チッ! これは面倒な事になりそうだ。


「その件に関しては既にライトに話した! そして貴方も、もうライトと俺達には関わるな! その方が貴方の為だ!」

「何を偉そうに! ライト様以外に命令される謂れは…」


 げ! 奴が消えた!

 これは強制ログアウトされたと見ていいだろう。

 俺の仲間がそうなっていないのには、NGMLとしては、この4人を関係者として認め、そして、下手な事はしないだろうとの判断か。


「うっわ~、こらえぐいわ。クリス! カオリンちゃん! ローズちゃん! ここはシンさんの言う通り、一旦大人しゅう引き上げや!」


 俺が江戸の転移装置に向けて踵を返すと、サモンとクリスさんは頷いてから、カオリンはまだ戸惑っているローズの手を引きながら、黙ってついて来た。



 ギルドルームに戻ると既に姉貴が待っていた。

 いつもは気丈な姉貴なのだが、今はソファーに座って、俯いて首を振っている。


「姉貴! 俺にはもう説明の必要は無いけど、一応教えてくれ!」


 俺は背後の4人を見渡す。

 そう、彼等にはまだ真実は理解できていないはずだ。


 姉貴が少し上を向いて考える素振りを見せたので、俺は姉貴の正面のソファーに座る。

 ローズとカオリンは当然俺の左右に腰掛け、サモンとクリスさんは隣のソファーに腰掛けた。


 沈黙が流れる。


「う~ん、私の口からは言えないわ~。だからアラちゃんに任せるわ~。」


 げ! 姉貴の奴、俺にぶん投げやがった!

 確かに、姉貴は曲がりなりにもNGMLの職員だ。守秘義務とやらがあるのだろう。


 皆の視線が俺に集まる。


 しかし、これは迷う! 

 NGMLが、ライトを俺と同じ状態にした事を教えてしまっていいのだろうか?

 ローズはまだしも、カオリン、サモン、そしてクリスさん、この人達をそこまで巻き込んでしまって許されるのだろうか?


 俺が考え込んでいると、カオリンが口火を切った。


「シン! あたしは貴方の彼女よ! 知る権利があるわ!」

「そ、それならあたいもっす!」

「ほな、わいとクリスはシンさんの仲間や。隠し事は感心せえへんで~。」

「そうですわ! もう水臭いのは無しですわ!」


 うん、そうだな。

 カオリン、ローズ、サモン、クリスさん、そして姉貴。更に、ここには居ないがタカピさん、全員、信用、いや信頼できる身内だ!


「分かった。でも、覚悟だけはしておいて欲しい。そして、当然これから話す事は他言無用。それでもいいかな?」


 全員が頷く。


「俺が死んだ、いや、俺の人格がこの状態、つまりデータ人間になった時、10秒程、身体が硬直するという現象が確認されたそうなんだ。そして、その現象がさっきのライトにも起こったと俺は見ている。今回の件で、原因は想像がつくけどまだ確証は無い。そうだよな? 姉貴!」


 俺は、俺にぶん投げた姉貴を睨む。

 姉貴は黙って頷いた。


「奴は知っての通り、NGMLのモルモットだ。俺もこうなる可能性が分かっていたから、奴には手を引けと再三忠告したんだけど、手遅れだったようだよ。現在、NGMLには、俺と同様の死因不明の死体が一つ増えたはずだ。」


 そう、俺の研究の為に、奴が犠牲になったのは間違いない!

 俺も奴を憎んではいたが、そこまで求めていない!

 せいぜい、妙な団体を解散させ、泉希に土下座させたいと思っていた程度だ。  もっとも、彼女はもう奴の顔も見たくないだろうが。


「あたしもやっと繋がったわ! そう、あの時だったのね! シンがぼさっとしてた時、あの時にシンはこうなったのね! そしてそれがあのお馬鹿にも起きたと!」

「うん、最後まで確認できなかったけど、間違いないと思う。」

「ってことは、あのお馬鹿も死んだってことっすか? あ、シンさん済まないっす。」

「う~ん、下手したら本当に死んでいるかもしれないけど、姉貴がここに居て、サモンさん達もログアウトさせられなかったところを見ると、多分、俺と同じ状態のはずだ。つまり、完全には死んでいない。精神だけはまだこの素戔嗚に残っているはずだ。ただ、俺と全く同じ状態なのかどうかは流石に分からないけどね。」


 そう、おそらく奴は、俺の最初の時と同じだろう。真っ先にログアウト機能を封印され、どこかに監禁されて、色々と質問を受けているはずだ。

 そして、完全に死んでいたのなら箝口令を敷くか、姉貴では無く、松井か岡田さん辺りが来ているはずだ。


「ところで姉貴、連中には好き勝手させないんじゃなかったのか? 流石にこれは…」

「私はアラちゃんの為だけにここに居るの! あの子がどうなろうと知らないわね。そういう気遣いは、余裕のある人だけができる特権なのよ! 私にはそんな余裕はないわね! それはアラちゃんもそう! アンダスタ~ン?」


 言われてみれば確かにその通りだ。

 乞食に金を恵んでやれるのは、金に余裕がある奴だけだ。

 今回の件、道義的にどうかと聞かれれば、確かに間違っているだろう。

 ただ、その間違いを指摘できる奴が居るだろうか?

 居たとしたら、そいつは俺に死ねと言っているようなものだ。


「分かった。確かに、俺にNGMLを批判する余裕は無いな。じゃあ、姉貴、あいつの犠牲を無駄にしないように頼む。」

「当たり前よ! 私だってアラちゃんを生き返らせる為に、彼を殺す気は無いわね! そして、どちらかが蘇生に成功すれば、当然両方助かるはずよ。」


 うん、納得だ。

 俺は全員を見渡す。


 皆、異議はないようで、頷いてくれた。


「じゃあ、この件はもうNGMLに任せるしかないな。うん、少し休憩しよう。俺も色々ありすぎて、少し考えを整理したいし。」

「せやな。ほな、クリス、わいらも一旦落ちるで。」

「シンさん、お疲れ様ですわ。」


 サモンとクリスさんが消えた。


「じゃあ、私も落ちるわね。流石に眠いわ~。」


 姉貴も消えた。

 しかし、ここで眠いと宣える姉貴の神経には脱帽だな。


 残ったのはローズとカオリンだけだ。

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