第80話 愚者の作戦

         愚者の作戦



 正面からライトが突進してくる!

 ふむ、奴らしいな。

 俺は軽く数歩だけ前へ出る。


「オールアップ!」

「オールアップ!」


 お互いに、全てのステータスを上昇させる魔法を唱える!


 うん、そろそろ弓の射程範囲に入るな。

 俺としては、射程に入った瞬間にスキル攻撃を放つつもりなので、走らず、慎重に歩を進める。


 よし! 入った!


「メテオアロー!」


 俺は迷わず弓の最上級単体攻撃スキルを放つ!


「メテオアロー!『ダメージキャンセル!』」


 ライトも少し遅れてスキルを放つが、俺と違って、弓攻撃を無効化できることは知らないようだ。

 奴のHPゲージが1/6くらいか?減ったのに対して、俺の身体は青く光ってノーダメージ!


「ば、馬鹿な! メイガスの攻撃を無効化できるなんて! あ~、確かに弓なら可能って訳ですね。じゃあ、こいつでどうです! コズミックバースト! バーニングフォール! バーニングフォール! コズミックバースト!」


 ふむ、やはり魔法スキルを取っていたか。

 しかも、読みにくくする為に、2種類使ってきやがった!

 メイガスに魔法を使われたら、無効化はまず無理だ。

 しかし、これも想定済みだ。

 俺は咄嗟に称号を攻撃系統アップの、『水龍を屈服させし者』から、防御系統アップの、『神の試練に耐えし者』に変え、ついでに防具も魔法防御特化に替える!


 しかし、4連撃を喰らって、流石に俺のHPが一気にレッドゾーン寸前まで減る!

 だが、ここもサモン達との練習で、防具と称号の付け替えさえ間に合えば、4発までなら大丈夫というデータが出ている。


「エクストラヒール!」


 これ一発で全回復だ。


「ちまちま回復しても無駄ですよ! バーニングフォール! コズミックバースト! バーニングフォール! コズミックバースト!」

「エクストラヒール!」


 うん、間違いない

 やはりこいつはアホだった。

 何も考えていない。

 現在、魔法防御特化にしている俺は、最上級魔法を喰らったところで、ダメージは2000程度。そして、全回復させるエクストラヒールにかかるMPは1000。

 対して、最上級魔法のMPの消費も約1000。


 俺が現時点で使ったMPは3500。それに比べて、奴が使ったMPは9500。

 なので、現状の俺の残MPは、1万弱。

 そして、奴のMPが俺より5000多いと考えれば、奴の残MPは約8000くらいってところだろう。


 つまり、MPの補給が効かないこの勝負、この時点で、俺は奴より優位に立ったと言える。


「やはり魔法だと燃費が悪いですね。ではこんなのはどうです?」


 奴の装備が、弓から剣に替わる!

 そして、再び俺目掛けて走り込んでくる!


 ふむ、見た感じは、攻撃力+240の『髭切の太刀』だな。

 現時点で俺が知っている剣では、最高威力だ。

 なら安心だ。

 奴は松井から三種の神器クエスト以外の話は聞いていないと見た!


 もし知っているなら、ここで奴が装備する武器は、攻撃力+300の『不動王の槍』、ないしは、俺がカオリンに借りた、貫通効果の『義元左文字・改』、若しくは俺の知らない武器になるはずだ。


 奴との間合いが詰まる!


 俺も武器を、『義元左文字・改』に、そして防具も物理攻撃特化仕様に持ち替える!

 この作業、常人なら結構面倒なはずだが、メイガスの俺には一瞬だ。


「阿修羅六臂剣!」

「阿修羅六臂剣!」


 俺達二人を、6本の宙に浮いた剣がそれぞれ取り囲み、同時に双方に突き刺さる!


 奴のHPゲージが更に減る! 今回は1/5くらいか? おそらく3000以上は削れたはず。結果、奴の残りゲージは、半分より少し多い程度だ。

 勿論俺のHPも減っているが、削られたのは2000にも満たない。

 俺達は魔法特化のステータスなので、お互い大したダメージは与えられないのだが、俺の攻撃力の方が、明らかに勝っているようだ。


 剣では大してダメージを与えられないと悟ったのか、奴は一歩下がる。


「なんか、また反則の匂いがしますね! でも、僕が勝てば全て教えて貰いますよ!」

「ああ、今教えてやるよ。実は俺、幽霊なんだ。お前も俺みたいになりたくなければ、この実験からは手を引いた方がいいぞ?」

「何を馬鹿な事を! 貴方はギャグセンスも無いようですね!」

「いや、これは事実だ! 俺は既に死んでいる! そしてお前はその幽霊の蘇生実験に付き合わされている、俺以上に哀れなモルモットなんだよ!」


 奴の目が少し泳ぐ。

 大方、意味を理解できずに困惑してるのだろう。


「モルモット? あ~、そんな事は百も承知ですよ。僕だって馬鹿じゃない。三食昼寝付きで月に50万も貰えるのは、危険な仕事だと理解していますよ!」


 う~ん、本当に理解しているのならば、俺にはかなり安いと思えるのだが?


「まあ、そんな事はどうでもいいです。これ以上貴方の嘘に振り回されるのは御免ですね。フィジカルドレイン! フィジカルドレイン! フィジカル……。」


 ふむ、前回俺が使った作戦だな。俺のHPを吸収して、同に俺のHPを削る魂胆のようだ。


 しかし、こいつはやっぱりアホだ。


 フィジカルドレインは、相手のHPをMAX値の1割吸収する。

 なので、強大なHPを誇る相手からならばかなり有効だ。

 しかし、俺のHPは奴より少ないはずだ。今までの攻撃からもそれは証明されている。

 そして、この魔法の消費MPは300。俺のHPは1万くらいなので、MP300を消費してHPを約1000回復している計算だ。確かに俺のHPも削れるが、これは燃費悪すぎだろ!


 奴が6回程唱えたところで、俺も回復させる。


「エクストラヒール!」


 俺は一発で全回復させる。

 しかし、奴のHPはまだ全回復できていない。

 そして、これで更にMPに差がついたはずだ。俺の計算だと、奴のMPは現在5000くらい。対して俺は、まだ8000ある。


 ふむ、決めてしまうか。

 俺は相手のMPを、MAX値から一割吸収する魔法を唱える。


「サイコドレイン! サイコドレイン! サイコドレイン!」


 奴も慌てて追従する!


「サイコドレイン! サイコドレイン! サイコドレイン!」


 やっぱりアホだ。

 元々MPに差がある上に、奴のMPのMAX値の方が俺よりも多い。

 どちらの回復量が多いかは、馬鹿でも分かる。


 しかし、奴は気付かないようだ。

 狂ったように、詠唱し続ける!


「サイコドレイン! サイコドレイン!……。」


 仕方がないので、俺も付き合う。


「サイコドレイン! サイコドレイン!……。」

「サイコドレイン! え? MP切れ? 馬鹿な! ありえない!」

「いや、お前、普通に考えれば誰も分かるぞ。ちなみに俺のMPはまだ3000以上ある。どうする? 終わるか?」

「馬鹿な! でも、まだ終わりませんよ! この手は使いたくは無かったのですが。」


 ん? 何だ? また何かやるようだが?

 MP切れの奴には、通常攻撃しか手段はもう残されていないはずだ。

 前回とは違って、今回は消費アイテム全て禁止だ!


「バーニングフォール!」


 俺の身体が炎に包まれる!


 え? ありえない! 奴はMP切れのはずだ!


「これは消費アイテムじゃありませんよ。もっとも、3回使うと無くなりますがね。」


 チッ!

 こいつ、こういう事にだけは頭が回るようだ!

 こいつが使ったのは、3回だけ自身のHPとMPを一割回復させる、『大黒天の小槌』だ! 良く見ると、奴のHPゲージも満タンになっている!


「ふむ、振り出しに戻った訳だ。サイコドレイン! サイコドレイン!」


 これでやつのMPは再びカラのはずだ。

 2回目で増えたMPが、1回目よりも少なくなったので、これは間違いない。


「バーニングフォール! コズミックバースト! バーニングフォール!」


 げ! 一体奴はいくつアイテムフォルダーに入れたんだ?

 しかし、これは単に前回の焼き直しだ。

 そして奴はまだ気づいていないようだ。

 スキル攻撃で削れるHPよりも、回復魔法で回復できるHPの方が、遥かに燃費がいいことを!


「エクストラヒール! サイコドレイン!」


 俺は何事も無かったように回復させる。

 サイコドレインも併用しているので、俺のMPは全く減らない。むしろ増えている。


 しかし、奴は尚も狂ったように詠唱を続ける!

 そして、奴の目が泳いで来た! 焦点が定まっていない!


「僕は負けられない! 負けちゃダメだ! せっかくここまで来たんだ! やっと認めてくれたんだ! バーニングフォール! バーニン」


 ん?

 どうした?

 奴の詠唱が止まり、何か硬直しているようだ。


 俺は理解した!

 これは不味い!

 ここで止めを刺してやるべきだ!


 俺と一緒にさせてはいけない!


「阿修羅…」


 景色が変わった。

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