第3話
唐突に話を切り替えられたことにマツリは納得がいかなかった。マツリはデンカの過去をネットで少なからず情報を手に入れていたからだ。
マツリがこのノブレスオブリージュ・オンラインを始めるにあたって、ネットでゴーグル検索をしようとしたところ、検索候補に【ノブレスオブリージュ・オンライン 晒し】というワードが上がったからだ。
マツリは興味本位でそのワードでゴーグル検索をしたところ、実際にゲームをプレイしている悪質なプレイヤーたちによる、ネット上でのいわゆる【晒し】行為が
ノブレスオブリージュ・オンラインをプレイしている人数が減ってしまったのが原因なのか、それとも、晒し行為を行っていたモノが他のVR対応MMO・RPGに移っていったのかは、マツリには判別できなかった。
しかし、そんなマツリにも、はっきりとわかっていることがある。デンカ=マケールが、かつては、ネット上において【イングランドの恥部】、【ノブオン史上、最悪の暴君】と揶揄されていたことを。
もし、この世に神様が居ると仮定するならば、何故、その神様が、あたしとデンカ=マケールが同じ
今でも時折、マツリ(
「ん? マツリ、ぼーっとして、どうしたんだ? 【バザー】を見にいかないのか? 貯金に心配でもあるのか?」
「えっ?」
考え事に意識をもっていかれていたマツリ(
「なんだよ。スカイぺ通話の着信音は聞こえてたはずだぞ? ゲーム内チャットに反応がなかったから、直接、スカイペで呼びだしたんだよ。なんだ? 無意識にスカイペの応答をしちまったのか?」
「そ、そうね。おかしいわね。いつの間にか通話許可をオンしてたわ。うーーーん。ダメね。考え事をしていたから、上の空になってたのかも……」
マツリ(
そのため、マツリ(
世の中に出ている、どのVR対応MMO・RPGでもそうなのだが、サーバーへの負荷を減らすために、ゲーム会社側では音声やビデオによる通話機能を実装していない。そのため、VR対応MMO・RPGのプレイヤーの大半は外部ツールである【スカイペ】を利用しているのが現状だ。
VR対応MMO・RPGに限らず、協力プレイ型ゲームは基本的に【スカイペ】などの音声通話ツールを使うことにより、仲間同士の連携において、それを
それゆえに、マツリ(
「えっと、バザーを見に行くんだったわよね。でも、今日はまだメンテ明けの水曜日よ? 見るなら、木曜日の夜がベストな気がするけど?」
「甘いな、マツリは。確かに、マツリの言う通り、水曜日の夜に並ぶバザーの商品は廃人たちの高級装備品ばかりかもしれん。しかし、真の掘り出しモノってのは、水曜日の夜にバザーに並ぶモノなんだよ。
デンカの自信満々な言いにマツリは本当かしら? と訝しむ。大体、あたしにバザーを見るなら、商品が充実する木曜日の夜からチェックしろと助言したのは、デンカ、あなた自身のはずよね? と思わずにはいられない。
事実、水曜日にバザーへ出品される商品は、高額なモノが多い。マツリのようなあまり収入が多くないプレイヤーへ商品を出す生産職人たちは木曜日の夜にバザーへと出品していた。マツリは経験上からも、それを知っているのだ。だからこそ、デンカの話は眉唾程度にしか思っていなかったのである。
しかしながら、デンカは10年もノブレスオブリージュ・オンラインをプレイしているプレイヤーだ。彼の助言に今回は従っておくほうが良いと思えたのは、彼女の気まぐれだったと言っても過言ではなかった。
「うそーーー! なんで、こんな良い商品がこんな格安で売っているの!?」
マツリ(
しかしながら、先週、1000万シリで売られていた、マツリが欲しいと思っていた装備品一式が、今週はなんと200万シリで売りに出されていたのである。
「ほーら、言っただろ? 真の掘り出しモノは水曜日の夜にバザーに出品されるって」
「でも、これはさすがに値を下げ過ぎよ? 何か事情があってのことじゃないの?」
「ノブオンは1カ月前にシーズン5.1にアップデートされただろ? それと同時に新生産品が来たんだ。廃人たちが装備を変えるのは必然ってわけよ。というわけで、廃人さんたちが今まで使ってきた装備品を格安でバザーに流すってわけさ」
デンカの説明に、ああ、なるほどと納得するマツリである。マツリがこのゲームを開始してから、シーズン5.0にはバージョンアップしたのだが、その時は新装備品は実装されなかったのだ。そのため、プレイヤーたちがお古の装備から新しい装備へ一斉に変える時に起きる、バザーへの出血大サービスシーズンを体験したことがなかったのである。
「と言うことは、新しい装備品の見た目変更アイテムも実装されたってわけよね? あたしは防具生産系の職業を持っていないから知らなかったのは当然として……」
ノブレスオブリージュ・オンラインは1アカウントにつき、3キャラまで作成できる。マツリ(
しかし、ノブレスオブリージュ・オンラインの装備品の見た目変更アイテムのほとんどは【鍛冶屋】職ではなくては作成できないため、その辺りを彼女は知らなかったのである。
「デンカ。あなた、サブキャラに【一流鍛冶屋】を持っていたわよね?
「倉庫キャラって……。一応、昔は合戦で前線を張っていたキャラなんだけどなあ? まあ、マツリの言う通り、今じゃめったに出番は無いけど。あれでも一応、シーズン5.1までで作れる装備品は、全部作れるまでには育てているんだぜ?」
マツリのずけずけと言ってくる言い草に、まいったもんだと思いながらも、大人の対応をするデンカである。デンカは記憶を探りながら、マツリが次に言ってくるであろう言葉を待つことにする。
「じゃあ、【魔女】が装備できる防具で、何か良いモノがなかったかしら? できれば、お友達価格で売ってほしいんだけど……」
マツリが所作『合掌』をし、両手を合掌させて、デンカに頼み込む。デンカ(
「マツリにとっては新しいのかもしれないが、長年、ノブオンをプレイしてきたプレイヤーにとっては、復刻版と言ったモノしかなかったなあ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます