第三章 春宵の夢 --- 1

  光の源よ 生命いのちほむら

  なれの放ちたる矢のたけきことよ

  かざてのひらの熱きことよ

  汝求め まなこ潰されんとも抗い開かん

  勇猛の獅子よ 慈愛の化身よ

  汝の大いなる歩みを

  金色こんじきのさざなみに佇み

  見送る我が身の哀れさ

  闇の果て 虚無の灰

  されど汝の育みし息吹を映す

  あしたの一露となる身ゆえ

  いつしか導かれし凪の地の

  懐かしき園の泉に湧く身ゆえ

  汝の叫び囁きに乙女のごとく振る舞わん

  途切れ得ぬ汝の光鎖をひたすらに手繰たぐらん


  汝 永久に輝けり


    (テイルハーサ教《称陽歌》)



 触れるだけで音がしそうなほど蒼く冴え渡った空気が、地平の彼方まで続いている。聖なる山の麓の街並みは、乳白色の朝靄に没していたが、その中で人々は皆、白き衣を纏って神殿や広場、街道に集まり、静かにその瞬間を待っていた。

 俄に北東の空が穏やかな橙色に染まった。遥かなる山々の頂きに黄金の冠がかかる。それは見る間に厚みを帯び、やがて巨大な光の塊となって宙に浮き上がった。一瞬ごとにその輝きを増しながら、さらなる高処へと昇っていく。

 太陽神テイルハーサの新生に、神の子らは次々と膝を屈し、頭を垂れた。



 聖台の上にその身を立たせた乙女は、まるで黄金の矢を自らの身体に導くかのように、ゆっくりと両手を伸ばした。純白の絹布が未だ冷気をはらむ風に翻る。そこに金糸で縫い取られた幾つもの小さな太陽が、力を得たかのように煌めいた。

 と、乙女の唇が微かに動いた。そこから聞いたこともない音色の旋律が紡がれ、ルーフェイヤにいた者たちは、思わず顔を上げた。《称陽歌》ではない、言葉を成さないただの音。しかし、その高く低く変化する様は、新生したばかりの神の姿をしっかりと捉えていた。そして始まった《称陽歌》に、人々は巫女が即興で前奏を設けたことを知った。

 最初の一節を謳い終えた時、突然巫女が聖台を降りた。《光の庭》に集った一万人の信徒たちの目が彼女を追う。乙女は柔らかな笑みを湛えながら《正陽殿》の中庭を巡り、愛と美の聖官エリシアのような姿と、その麗しい声で人々の心を魅了して歩いた。

 それが終わった時、人々はそれぞれの内に日溜まりを抱え、それを噛みしめるのに必死だった。時間神さえ心を奪われたのか、《光の庭》は長い間、その刻を止め、栄光の瞬間を留めていた。

「ピークルクルクル」

 聞き慣れた鳴声にセフィアーナが顔を上げると、神の周囲をティユーが綺麗な円を描きながら飛んでいた。少女は大きく手を振った。

 この年、《称陽歌》が終わった時の賞賛と歓喜の声は、轟きとなって遥か離れた村にまで届いたのだった。

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