第95話 とある兵士の目線

【タルバンの街のとある兵士】





「これはどういう事なんだ?」


 隊長さんがその厳つい顔をねじっこしてそんな事を呟いただ。

 この隊長さんば見た目に反しでとっでもいい人だべ。


 オラは村からこの都会っこさ来だのはほんの1年前の事だったべ。ほんどき仕事どうすっが悩んでいだどご、この隊長さんさ声かけられで「暇してるなら街の警備隊に入れ」て言われただ。


 最初声さ掛けられだどぎ、あんまりの顔のおっがなさに腰ば抜けそうになったのは良い思い出だべ。


 その隊長さんさ今は少し愛嬌のある顔さになっでるべ。


「私にもさっぱりですが・・・・・・・」


 隊長さんの隣で副隊長さんさも何だが悩み始めたべ。オラよりもずっど若ぇ副隊長さんだども、この人ばとっでも優秀な兵隊さんだべ。


 人望と指揮能力や力ば隊長さん、細かな作戦立てたり頭さ使う作業ば副隊長さん、兵士仲間ばみんなそう言うだ。


 そんな2人が珍しぐ悩んでる。


 その気持ぢわがんねぐはね。これさ見れば誰だってそうなる。


 何せ目の前にでっがい穴ぼこさいっぱい空いでんだども。ここはもどもど草のはえでだ草原だったはずだべ。それがあの一瞬でこんなごどなっでれば誰だって信じらんねべ。


 それはとんでもねぇ光景だったべよ。


 大地が壊れる、そう思えるほどの爆破さ未だかつて見だごどねだ。


 オラだちは魔物が街さ攻めでぐるって聞いでやっできただ。街のえんらい代官さまとギルドの上の人がそう言っでいだっで他の兵士が言っでただ。オラは何もぎいでねが、出ろって言われだからきでるだが、隊長さんだちはもっと詳しいごど聞いでるみでだ。オラみたいな下っ端の兵士にはそごまでの説明はね。


 んで来てみればそんりゃおっそろしい程の魔物の数に、もう死ぬがもしんねど、オラは田舎の母ちゃんの顔を思い出した程だったべ。


 んだがその魔物の群れが突然爆発しだっべよ。そんりゃびっぐりしただ。隊長さんさ初めで会っだ時より腰がぬげそうになっただ。いや少し抜けでだがもしんね。一歩も動いでねがらわがんねげど。


 轟音と響かせで次々と魔物が土の煙に飲みごまれでいぐのには、そんら恐ろしさであやうぐ漏らしでしまうどごだったべ。今もちぃっと耳がいでぇだし。ほんにとんでもねぇ出来事だったべ。


「おい誰か魔術師殿を呼んできてくれ」


 その穴ぼこさ暫く見でいだ隊長さんが近ぐの兵士に魔術師を呼ぶようにいっだ。それがら少ししてそれはめんごい女子おなごを1人連れてもどっできだ。それば見だときほんにこの子ば魔術師なんがやと信じらんねがっただ。


 ろーぶっちゅうおしゃれなべべさ着た女子ば隊長さんさ「クラリアン」と名乗っでいたべ。それはともかぐ都会の女子はほんにけしからん胸ばしてるだな。あんな胸で畑仕事ばしたら、男の視線が離れねぐなんべ。今だってオラは目が離せね。


「クラリアン殿、あの時のは何だったか分かるかね」


 隊長さんばその女子にそう質問したべ。

 隊長さんの偉いどころは、女子の胸ば全く見ないところだな、とオラは心底感心しでしまったべ。やっばり厳しい訓練うけた兵士は強い精神力をもっでいるみでだ。


「・・・・・・魔法、だと思いますわ。魔法陣の輝きがあの丘の上に見えてましたし・・・・・でも」


 すごし悩んでがら女子が話し出した。そんどき腕を組んだもんだがら胸ばきゅうっでなるもんだで、ついオラの目ば開いじまっただ。良く見ればオラだげじゃねぐ近くの兵士ばみんな見でだがもしんね。しかし胸ばともがく魔術師ば初めてみたども、こんな子供でも戦いに出るなんて大変な仕事だべ。


「あたしはあんな大魔法を知らないし、しかも・・・・・・・魔物が消えてなくなる現象なんて聞いたことも無いわ」


 女子は綺麗な顔に皺を寄せで小さく首を振っでいた。


 ほがあ、魔物が消えで無ぐなっだが・・・・・・・・・!!


 オラはそこで初めで気付いただ。


 あんれほんに魔物が無くなっでいるべ!


 あんなにいだ魔物が肉片も残っでねぇってばどうなっているんだが。良く見ればここに血の一滴もついでねぇべさ。


 隊長さんば不思議がっでいだのは、この穴ぼこの方でねぐ魔物が残っでねえ方だったべか。いやあこれは驚きだべ。


「魔法か・・・・・これを1人で出来ると思うかい?」

「無理よ! あたしは瞬間を見ていましたけど、連続して次々に魔法は撃ち込まれていたわ。魔法陣だってあんな瞬時に描くのはどんなに熟練の魔術師でも出来ない事だわ。これだけの大魔法であればそれこそ師団クラスで無いと不可能よ」

「となるとやはり複数の魔術師が絡んでいるということか・・・・・・」

「もしかして王都の魔術師団が加勢したとかは?」

「いや、それは無いだろう。時間的に考えて不可能だ。それに仮に偶々居合わせたのだとしても我々の前に姿を見せないのは不自然だろう」

「そうですね。こうなってくると私たちは幻を見ていたと言われた方が納得できますかね」

「この惨状がなければあながち笑えん話だな」


 なんだが難しい話を始めたみでだ。


 ま、オラみでな隊長さんの荷物持ちには関係のねえ話だべ。


「どうしたものですかね、結果的には助かりましたが原因不明の大魔法を使った謎の無術師団ですか・・・・・・魔物とその魔術師団、どっちが脅威かと言われれば間違いなく魔術師団の方が脅威でしょうね。まぁそれが本当にいればって話ですが」


 副隊長さんが頬を摩り目ば細めで唸りをあげだ。


「無視はしないが情報がはっきりとしないからな、現況出来ることは限られるだろう。班分けをして一つはここに残し、残りは魔物が残っていないか調査、見つければ討伐。その際にこれに纏わる情報があれば逐次連絡、できてそれくらいだろう。全く次から次へと頭の痛い話だな。これをどうやって上に報告すればいいんだか」

「心中お察しします。では私はそのように隊とギルドには伝えてきますので」

「ああ頼む。クラリアン殿も感謝いたします」


 それで話ば終わったど副隊長さんと魔術師の女子ば立ち去っでいっだ。


 どうやらこのあど奥の森にはいっで魔物を探すみでだ。戦わなぐですんだど思っでだどもそうはいがねみでだ。


 それにしでもこんなこどがあるなんで、都会はほんにこえぇどごだ。隊長さんには恩義はあるがこれが終わっだら田舎に帰んの考えだ方がいいだべが?

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