第77話 悪い噂は回避する
さて何故だか敵意を向けられているクラリアンさんから逃げるように退散し、俺はもう一つの目的を果たす為に掲示板から離れカウンターへと向かった。
それは素材の売却だ。
今日ここに来た目的はクエスト受注とこの素材売却だ。
「えっと、買取カウンターはどこかな」
どこで売ったらいいのかと迷っていると、先日の丸っこいおっさんがカウンターの中からおいでおいでと手招きをしていた。
もしかして自分を指さすとおっさんがこくりと頷く。
どうやらおっさんは俺を呼んでいるみたいだ。
仕方なしとおっさんのカウンターに行くと、おっさんは依然の事務的対応とは一変した気味の悪い笑顔でこう言ってきた。
「何かお探しでしょうか」
・・・・・何でしょう、とっても居心地が悪うございます。
でも折角なのでおっさんに訊いてみる。
「モンスタ・・・・魔物の素材を売りたいんですけど、どうしたらいいんですかね?」
「え? もう素材売却ですか? 昨日研修を・・・・・あぁ元々持っていらっしゃったやつですか。それでしたらこちらで受付いたしますよ」
「おぉそうなんですか。じゃぁこれを」
何だこのカウンターでよかったのか。背負い袋からゴブリンの核を取り出してカウンターに並べていく。数は10個なので直ぐに出し終わった。
「これは・・・・・ゴブリンの核ですね。査定いたしますので少しお待ちください」
そう言っておっさんは一つ一つ核を確認していく。
特に驚かれることも無く普通。これといったテンプレは発生しない。「な、これほどの魔物を!」とか「こ、こんなに沢山・・・・新人なのに」とかも無い。その辺りは調整して控えめにしたのが功を奏している。
ただたまにおっさんが「これも石で」とか呟いていたのは気になった。ゴブリンの核を使うのに石でもいるのだろうか?
まあいっか。
5分くらいで「終わりました」とおっさんがゴブリンの核をカウンターの上に並べて俺に言う。
「どうやって取り出したのかわかりませんが、非常に綺麗な解体をされたのですね。どれもこれも傷一つない」
そりゃあ勝手に分解されましたから。
「状態が良ですので1つ40ゴルで、合計400ゴルになります」
ほうほう、ゴブリン10体で凡そこの世界の価値で4万円、俺の日本での換金で400円・・・・・良いんだか悪いんだか分からん値段だ。でもまぁ所詮はゴブリン、初心者向けのモンスターではこんなものか。
「今後とも当ギルドを御贔屓にお願いいたします」
お金をカウンターに差し出しておっさんがそんなよろしく的な事を言ってきた。俺は「はぁ」とだけ答える。
ほんとどうしたんだこのおっさん?
むず痒さを感じつつも、おっさんからお金を受け取ってカウンターを後にする。そろそろジョシュアンさん達も落ち着いたころだろう。
おっさんの気持悪変身に首を傾げ掲示板コーナーに戻るとジョシュアンさん達が待っていた。どうやら話し合いは終ったようだ。
腕を組んでそっぽを向くクラリアンさん。私納得していませんと言わんばかりの顔。相変わらず胸はデカイ。腕を組んでいるから押し出されてローブがはちきれそうだ。
その横にはさっきと相変わらずじーと俺を見ているミラニラさん。この子はこの子でよく分からん。
少し後ろに大きな背負い袋を軽々と持ち、我関せずといったいつの間にやら居たドランゴさん。彼は俺に対して特に何かがある感じは無い。
そして彼らの前に渋い顔のジョシュアンさん。
「さっきはすみませんでした」
戻って早々ジョシュアンさんに頭を下げられた。
いや、そこまで大した事されてはいないんだが・・・・・・・でも”ゴブリン菌”はひどいかも。
「ウチのメンバーが、クラリアンが失礼なことを言ってしまって・・・・」
「ふん」
申し訳なさそうに頭を掻きながら謝るジョシュアンさんの隣で鼻を鳴らすクラリアンさん。うん、あの子絶対申し訳ないと思ってないよね。
「ほらクラリアンも」
ジョシュアンさんに促されてクラリアンさんがこっちを向く。
眉間に皺を寄せ、唇は上に寄せ鼻とくっつきそう。
「・・・・・・ジョシュ」
「ほら、クラリアン」
「わ、分かったわよ・・・・・・ごめんなさい。これでいいんでしょ」
たかだか巨乳ちゃんが発した悪口にここまでされるとは思わなかった。
真面目だなジョシュアンさんは。
でも、あんまりうれしくはないかも・・・・・。
ほら、周りの視線がまた集まってきた。
これってジョシュアンさんたちがエリートだから注目されてんだろうな。これって下手したら「あの人エリート様をいじめていたわよ」とか「エリート様にいちゃもんを付けて無理矢理頭を下げさせていた」だとか、変な噂が広まったりしそうで怖い。
こいつはクソイケメンで真面目キャラだし、きっと人望も人気もあるだろう。頭を下げたクラリアンさんなんか貴重な魔術師で、しかも巨乳美少女とくれば目立つだろうな。
拙いですよ・・・・・・ここはひとつ平穏な生活のため軌道修正をしなくては。
「あぁ、気にしてないから良いですよ」
取り敢えずこの場は収めておこうと、手を振って愛想笑いを浮かべる。出来るだけいい人を装う。
これで俺はひどい人ではないということを少しでも周りにアピールしなくては。
「同じギルドで働く仲間でもありますし、些細なことは気にしないようにしましょう」
「よろしいんですか?」
「よろしいんです」
「怒って、その・・・・・石を投げたりしませんか?」
石?
何で石?
俺がいたずら小僧みたいに石を投げるって・・・・・・無くも無いけどやらないよ。
「投げません、よ?」
「何で疑問形なのよ。本気でやめて」
クラリアンさんに突っ込まれた。組んだ腕をきゅってしたから胸がばいんてなってる。グッジョブ!
「何だか良く分かりませんが、私が年上だからと気を使ってもらったんですよね。でもそこは皆さんの方が先輩ですし、私自身そういったのはあまり気にしませんから。出来ればもう少し気楽に接してもらった方がこちらとしてもありがたいです」
「それって、親しくなりたいってこと?」
フレンドリーでよろしくとお願いをしてみたら、そこに反応したのはジョシュアンさんでは無くてミラニラさんだった。
ミラニアさんは真直ぐ俺を見る。必然的に上目遣い。めちゃくは保護欲を掻き立てられる。これで20代? 見えねぇ。
ただミラニラさんが言っていたのは俺の趣旨とはちょっと違う気がする。
「そう、ですね」
だけど概ねあっているので肯定に頷く。
因みに俺的には「よう、ハル」みたいなノリは全然ありだとは思っている。ジョシュアンさんがそうならないのは分かっているけど、そんなやり取りにちょっと憧れがあったりもする。やっぱ冒険者それくらいが良いと思う。少しくらいやぼったい方が雰囲気があるってもんだし。
そう言えばドランゴさん一言もしゃべってないな。生きてんのかこいつ?
「・・・・(そう、いいんだ)」
「ん? 何か言いました?」
ミラニラさんが何やらぶつぶつ言っていた気がするがうまく聞き取れなかった。
何にせよ、これで俺の悪い噂は立たないだろう。
しかしながらと、ふと思ったのだが。
これって・・・・【交渉】スキル、使ってるのかな?
微妙過ぎて良く分からん。
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