第63話 思いがけない再会

 俺が住んでいるアパートは兎に角便利だ。近くには生活に必要なものが何でもそろっていると言いえるくらい充実している。スーパーにコンビニ、銭湯や病院など、駅のすぐ近くとはいえ、徒歩圏内でここまで便利なところはそうは無いだろう。だから風呂無しの古いアパートの癖に家賃が高くても未だに住んでいる。


 その中にコインランドリーもある。アパートに洗濯機を置くためのスペースもあるのだが、俺の様な時間に不規則な者にとっては自分で洗濯するよりもこっちの方が便利だ。何しろ夜中に洗濯機を回したら近所迷惑だと文句を言われかねないからな。


 そんな近所のコインランドリーに、深夜の時間帯でありながら溜まっていた洗濯物を持ってきているのだが・・・・・・・・ただいま俺は絶賛動揺中である。



 な、なんだ、あれは・・・・・・。



 店内に入って洗濯物を放り込み、機械にお金を投入したところでが目に入った。それの異様さは回り出した洗濯物を強引に取り出して立ち去ろうとしたぐらい異様で不気味だった。

 そっと店内を見渡すがいるのは俺とそれだけで他には誰もいない。店自体無人なので店員もいない。


 深夜の時間帯ともなると多種多様な人がコインランンドリーにはやってくる。日中とは全然違う人間模様を見ることができる。


 アパートから歩いて2,3分。銭湯に行く道の途中にあるため、大変便利な近所のコインランドリー。

 会社に寝泊まりすることが多い俺は、会社近くのコインランドリーと風呂ついでに立ち寄れるここをいつも利用している。ここで暮らすようになって3年ほどしか経っていないがそれなりに馴染みの顔も増えている。

 この時間帯よく利用する人は主に単身赴任や独身のサラリーマンが多い。もっと遅い時間と言うか早朝付近になると夜のお仕事系のお兄さんお姉さんたちが来たりもする。夜のお姉さんたちが入ってくるとすごくいい匂いが・・・・・んん、今はそれはいいか。あとたまにだが浮浪者っぽい人が寝ている時もある。

 まぁそんな感じで日中とは違った毛色の人たちが多いという事なんだが、その人たちも大体固定の常連客ばかりだ。


 再度をチラ見する。


 色んなタイプを見かけるがこれは初めてのタイプだ。


 ここまであからさまにの奴は見たことが無い。


 もう大分暑くなってきている季節なのだが、それはロングのレインコートを着ていた。ただしファンションの為とは到底思えないやつ。

 ファッションに関しては俺も全く興味無いし、流行りものなど社畜の俺に分かる訳もないが確実にあれは違うと言える。


 例えるなら昔の漫画の不信者。

 そいつはレインコートを着た上に野球帽を目深にかぶり黒縁眼鏡とマスクと言う、極悪な組み合わをしている。


 そんな格好の人間による出会ったら人は何て言うだろうか。

 間違いなく「変質者」そう叫ぶだろう。


 ただ薄っすらと分かる体のラインからすると、どうやらあれは女性のようだ。胸のふくらみは然程感じないが細さと言うか、レインコートでも分かるくらいにくびれがある。


 あれがもし男であったなら即職質されることだろう、いやあれは女でも即職質コースかもしれない。

 だがどうやらそいつはただ洗濯をしているだけのようだ。

 まぁそれがなおの事異様なんだが。


 害はなさそうか?


 女の人のようだし大丈夫だろうと洗濯機を続行。

 すると一人大学生っぽい男性が入ってきた・・・・・・が、レインコートを目にした瞬間びくりと跳ねてすぐに出て行ってしまった。


 うん、普通はそうだと思う。俺も洗濯機を動かす前だったら速攻で逃げた。


 因みに今洗っているのは異世界での服だ。

 大分返り血(ゴブリンの)も浴びてしまったので、今日は念入りコースにした。もちろん柔軟剤も入れたぞ。


 さてどうしよう。やっぱり俺も一旦退避した方が良いだろうか。

 ここのコインランドリーは認証キーでロックされているから放置しても盗難の恐れはないしな。

 うんやっぱり逃げよう。あの変質者とずっと一緒にいるのは精神的にきつい。


 持ってきたバックを手に取って出口へと向かう途中、怖いもの見たさでまたちらっと変質者を見たら。


「・・・・・っ!」


 変質者がこっちを見ていた。


 しかもガン見だ。


 ヤバイと思ってそそくさとコインランドリーを出て行った。


「マジでビビった。あれはガチだぞ」


 取り敢えず1時間ほどどこかで時間をつぶさないとな。


「コンビニにでも行くかな・・・・・・・え、あれ?」


 と、そこで大変なことに気が付いた。


「財布・・・・・・中に忘れた」


 急ぎ反転してコインランドリーに入ろうとして。


「!!!」


 俺の財布を差し出す人の手が目の前に飛び込む。


 誰が・・・・・そんなのは分かり切っている。


 恐る恐る顔を上げると財布を差し出していたのは、変質者その人だった。


「そ、それ、俺のです。あ、ありがとう、ございます」


 冷や汗を流しタジタジと礼を告げると変質者がこくんと頷いた。


 兎に角ここは直ぐに退散しなくては。


 俺は差し出された財布を掴んだ。


「・・・・・・・あ、あの」


 が、どういうつもりか変質者は俺の財布を離そうとしない。

 そして相変わらずじーっと俺を見る。


 やめろ、超怖い。


「・・・・・・あの、結城さん、ですよね」

「え?!」


 変質者が何故か俺の名を口にした。

 それはマスクを通しているが凛とした鈴音のような声。その恰好からは想像だに出来ない声。


 俺はまさか名を呼ばれるとは思ってもいなかったので、焦り、冷や汗が出てきた・・・・・・・のだが、ちょっと待て、この声どこかで聞いた事があるような?


「あの、ウチ・・・・私です。あ、これでは分からないですよね」


 俺が不審に眉間に皺を寄せていると、慌てた感じで変質者は眼鏡とマスクを取り外した。

 そして現れた素顔に。


「・・・・・あ!!」


 俺は驚きの声を上げた。


 現れたのは見とれてしまうほどの可愛らしい少女の容姿。それは俺があまり関わらない方がいいと判断した少女の顔。


 そう、あのイケメン盗撮から俺が助け出した・・・・・。


「御堂・・・・・・・・・す、じ?」

「御堂林、です」

「・・・・ごめん」

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