第50話 新人討伐研修5

 俺がばっちぃ男認定を受けてからはスムーズに研修は進み、先ずは倒したゴブリンの死体の解体が行われた。


 ゴブリンはほとんど、と言うか素材になるものは何も無いらしく、唯一売れるのは核だけらしい。ゴブリンの核は鳩尾部分にあるみたいで、その取り出し方をみんなで実践させられた。


 ゴブリンの解剖実験だ。女の子のカツリィは涙目で何度もえずきながら頑張っていた。俺も初めての解体で非常に気持ちが悪くなった。


 死体になった後だと俺がナイフを刺しても光の粒子になって消えることはないみたいで、問題なく解体はできた。


 解体は結構大変で骨とかが邪魔で核を取り出すまで時間がかかるわ血が大量に噴き出るわで、俺を含めみんな終わったときにはぐったりとしていた。

 慣れれば鳩尾に剣を突き刺しグリグリやるだけで簡単にとれてしまうのだ、とドランゴさんは言っていたが、残念ながら今後俺がそれを試すことはないだろう。そもそも解体が必要ないしな。


 その後は移動途中に薬草や売れそうな木の実を教えてもらい採取したり、何度かスライムとかヨーンキャタピラって言うでっかい芋虫と戦った。


 スライムはトバル少年たちでも危なげなく倒すことが出来たのだが、ヨーンキャタピラが意外と曲者で、口から吐き出す糸が体に纏わりついて真面に動けなくなるわ、見た目が気持ち悪いとカツリィが逃げ出すわで大変だった。


 しかもいつの間にか俺はトバル少年たちの面倒をみる担当扱いされていた。ジョシュアンさん達はこっちには一切口も手も出してこなくなった。おい、それでいいのか指導員。



「この辺で一旦休憩しよっか」


 少し開けた場所に出たところで休憩の指示が出た。森の中だがいい日差しがさす場所で、ゴブリンの体液のにおいがついていなかったらさぞ気持ちよかっただろう。


「あ、あの・・・・・ハルさん」


 近くの倒木に腰を下ろし暖かな日差しにぼうっとしていると、可愛らしい声が耳をくすぐった。


 純朴、そう評するのが相応しい、素朴でありながら無垢で清らかな可愛らしさを持った容貌は、見ているだけで心が癒える気がする。発展途上の肢体を如何にも村人と思えるような簡素だけど丈夫そうな衣服で防備しているのも、その容姿と相まって独特の魅力を醸し出している。決して美人とまではいかないけれど、それでも彼女と言う女性は十分に魅力があると思う。


 せめてあと5歳歳をとっていればな・・・・・・純朴な少女にそんな邪な考えを抱きつつ、声を掛けてきた少女、カツリィへと視線を向けた。


 あれ、そう言えば呼び方が「おじさん」から「ハルさん」に変わっている。


「・・・・・・何だい?」


 呼び方の変更に少し戸惑いつつ返事する。よく見れば後ろにトバル少年と今だ名の知れぬぽっちゃり君も一緒にいた。


「その・・・・ありがとうございます」

「・・・・ん?」


 3人は同時に頭を下げた。


 突然のお礼に俺は首をかしげる。


「これまで気持ちに余裕がなくって、お礼も言わずにすみませんでした」

「おっちゃんあざっす」

「僕たちを手伝ってくれて助かりました」


 あぁ、そういう事か。


 これまでの戦闘で俺が彼らの指導員的な立場になっていたことへの感謝を、落ち着いたこの時に返そうとしていたみたいだ。


「いや、気にしなくていいよ。こうして一緒に行動しているのも何かの縁だからね」


 ひらひらと手を振る。

 

 実際俺は何一つ気にしていない。こうして彼らの面倒を見ているのはただ単に俺が心配だったからで、別に嫌々ではない。


 俺の軽い返答に、カツリィは強張っていた顔をほぐして安堵の息を一つつくと、後ろにいる2人と何やら目くばせをした。軽く頷いてから俺へと向く。


「そこで・・・・・・なんですけど」

「おっちゃん、俺らとパーティーを組んでくんね?」


 遠慮がちに口を開いたカツリィを遮って、目をらんらんと輝かせトバル少年が一緒にパーティーを組もうと誘ってきた。


「おっちゃんがいてくれれば俺たち強くなれると思うんだ」

「ハルさんの指導はとてもためになります。トバル君とカツリィちゃんの3人だけだとまだまだ不安が大きくって、先輩冒険者って言っても、僕たち村から出てきたばっかりでそんな伝手もないもんですから」

「ずっとじゃなくてもいいんです。あの、すごく勝手で迷惑な話をしているんだとは自分でもわかってはいるんですけど、でも今日一緒に行動させてもらって、ハルさんだったら信用してついていけるんじゃないかって、さっき3人で話してたんです。だから、もしよかったら・・・・・・」


 トバル少年は拳をぎゅっと握り自分の可能性を夢見、ぽっちゃり君はこれからの自分たちへの不安と現状の自分たちの弱さを口にし、カツリィは願うように、だけど気迫のこもった眼を向ける。


 どうやら仲間と言うよりはこれからも指導してほしいといったお願いのようだ。これはさっきジョシュアンさんに言われた事で本人たちなりに考えたのだろう。


 だから俺に一緒にいてほしい、助けてほしいと。


 うん、悪い気はしない。いや寧ろ頼られていることにうれしさを感じる。



 ・・・・・・だけどなぁ。



 正直言って彼らの為人には好感が持てる。気軽に俺に接してくるトバル少年は人付き合いが余り得意でない俺にはありがたい存在ともいえる。ほかの二人だって敬意をもって接してくれていることがよくわかるし、一緒にいてこっちも苦を感じない。何より彼らは素直だ。


 しかし彼らが真剣なだけに俺は一歩引いてしまう。


 正直俺はお遊びでここにいる。だから真剣に冒険者として名を上げようとか必死になって稼ごうとかそんな気はさらさらない。

 そんな俺が彼らと今後も深く関わるのは、友達としてなら良いだろうが仲間や指導者としてだと彼らを馬鹿にしているで気が引ける。


 ちょっと傲慢な考え方かもしれないけど。


 それに俺は単独の方が何かと動きやすい。逆に言えばだれかと一緒だと色々と活動しにくいだろう。

 神さんからもらった能力であるゲームシステムは、この世界で唯一俺だけが使えるものだと神さんは言っていた。もしかしたらそこまで秘密にする必要はないのかもしれないが、これからも自由にこの世界を旅するのであれば秘匿した方がいいだろう。


 しかし、この子たちが心配じゃないのかと言えば、それはもちろん心配で・・・・・・・・うぅん、悩ましい問題だ。


 どうしたものかと頭を悩ませていると、新たな一石を投じる者がいた。


「何よ、あなたソロで仲間がいないんでしょ。だったらちょうどいいじゃない。あなたみたいな年配者の低等級の冒険者となんて、普通は誰も組んでくれないわよ」


 クラリアンさんだ。


 魔術師らしい長いローブをはためかせ一緒に活動すればいいという。ただ所々に皮肉った言葉が混じっているのは非常に気になる。


 ちなみにこいつは今日何もしていない。いい加減魔法の一つでも見せてほしい。


「ずっと独りぼっちなんて惨めよ」


 ・・・・・・・・・・。


 くっ、確かにそれはあるな。


 街に来たかったのだって、そういった面があったことは確かだ。


 だけど、と俺は考える。


「やっぱりパーティーを組むのは難しいかな」


 そしてそれは出来ないと意思を示す。やっぱり俺にとってはデメリットでしかない。


 その言葉に噛みついてきたのはトバル少年でもカツリィでも無く、意外なことにクラリアンさんだった。


「何でよ。別にしがらみがある訳じゃないんでしょ」


 方眉を上げ不満そうに口を尖らせる。綺麗系のクラリアンさんがするとちょっとあざとい・・・・・でも可愛い。


「私はタルバンでたまたまギルド登録をしただけであって、ずっとここで暮らして行く訳ではないんです。何時、どんな理由でふらりと旅立つかも知れない身ですからね。そんな無責任な状態でこの子らを面倒見るっては言えないでしょ」


 半分出任せである。でも半分は思っていることではあるんだけど、取り敢えずの理由としてはこんなとこでいいだろうか。


 クラリアンさんは未だ口を尖らせているが、多少納得してくれたのか特に反論は返してこなかった。こんなにも気に掛けるなんて、もしかしたらクラリアンさんは子供好きなのかもしれないな。どちらかと言えば見た目から嫌いな方かと勝手に思ってた。


 「分かりました」と寂しそうに笑うカツリィ。


 ま、申し訳ないけど俺は自由に趣味を謳歌したいんだよ。



 ピロリンと脳内に電子音。



 スキル【社交】を覚えました。





 ・・・・・・・・・・ん? なんで!?

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