第43話 ジョブの確認

「旦那、一つ如何ですかい?」


 そう声を掛けてきたのは、路上で屋台を出していたおっさんだった。


 つるっと潔い頭のおっさんは、額から頬にかけて大きな傷を持った強面。日本で見かけたら確実にその筋に人、にしか見えないだろ悪人面だ。


 そんなおっさんが串物を手ににこやかな笑顔を振り撒いている。


 こえーよ。


「その串って何ですか?」


 無視しても良かったのだが、おっさんの迫力と出された串が気になって立ち止まる。焼かれている串物からはさっきからやたらと良い匂いがしている。


「こいつはビッグボアのもも肉を、数種類のブレンドした香草に漬け込み5日間熟成させたやつでな。それをこの熱した石板の上でじっくりと焼き上げた、俺様自慢の一品だ」


 ビッグボア!? 道中で俺が倒したスプリンター猪じゃないか。しかもおっさんの厳つい悪人面とは裏腹に、やたらと手の込んだ仕込みがされているみたいだ。確かにこの匂でさっきから腹がギュゥゥと鳴いている。


「いくらですか?」

「15ゴルだ」


 結構高いな。15ゴルっていったら1500円相当・・・・・・・仕込み具合から言えば、妥当か?


 何にせよ気になったので1本貰う。

 ポケットに手を突っ込みお金を引き出す。これで他からの見た目はポケットからお金を出したようになみえるが実はメニューから呼び出している。


「おう、毎度。待ってろ、今仕上げの焼きをいれるからよ」


 そう言っておっさんは串を1本石板の上に乗せた。恐い顔なのに何て客思いな人だ。

 ジュっと食欲をそそる音が耳に入る。香草の独特の香りと肉が焼ける香ばしさが鼻と小腹を激しく揺さぶってきた。

 この匂いだけでごはんがいけそうな気がする。


 「ほらよ」とおっさんから焼けた串焼きを貰うと、もう我慢できずにその場でバクリと一口。

 猪の肉とは思えない柔らかさと、滴りそうなほどの肉汁が口いっぱいに広がると、そのあまりのおいしさに俺の目がカッと見開く。


 おっさんは俺の表情に満足そうな頷きをしていた。


「うまっ」

「だろう! だから自慢の一品っていっただろ」


 物凄く子供が泣き出しそうな獰猛な笑みで、腕組みをするおっさん。やっぱこえぇよ。


「この辺で良い宿ってあります? 出来れば料理がおいしい所が良いんですが」


 恐い顔だが人が好さそうなのでついでに訊いてみた。ついでに串を更に三本追加する。


「んあ? この辺の宿か・・・・・そうだな、3つ先を左に曲がったところに、”ゲルヒの宿”ってとこが有んだが、そこだったら飯もうまいし良い宿だぞ。ただ、ちぃっとばっかし宿代は高ぇけどな」


 おっさんは俺の問いかけにめんどくさがることも無く、串を焼きながら顎で指し示しす。


「”ゲルヒの宿”ですね。ありがとうございます。行ってみます」


 焼き上がった追加の串焼きを受け取り、食いかけの最後をぱくりと頬張って、当たりだった味に満足しながらおっさんの店をあとにする。少し離れたあたりで周囲の視線を避けつつ串焼きをアイテムボックスにしまう。


「いい神さんへのお土産が出来たな」


 神さんは俺をとおして旅番組気分を味わっている。俺がこうしてここにいるのは神さんのそんな欲望を満たしてあげるためだ。その中の目的の一つにはおいしいものをってのがあったのだが、これで初めて渡すことが出来そうだ。


「にしても・・・・・・・・獣人っていないのかな」


 教えてもらった宿に向かう道すがら、行きかう人は誰もかれもが皆普通の人間。異世界だったらと期待していたケモミミの姿は未だ一向に見あたらない。そう言えばティンガル村も全員普通の人だったな。


 別にケモミミ好きって訳では無いのだが、期待していただけにちょっと・・・・・・いや、かなり残念だ。


 この世界に亜人はいないのだろうか?

 次戻ったら神さんに訊いてみよう。


 おっさんに言われた通りに道を曲がると、多分そうじゃないかって感じの看板を見つけた。看板にベッドの絵が描いてある。


 扉を開くとくぐもったベルの音が建物内に響く。


 入ると広めのフロアにいくつものテーブルと椅子が並んでいる。奥のほうにはカウンターがありその更に奥はキッチンが見えていた。


 ここは食堂なのだろう。ただ時間が中途半端だったせいか客は一人もいない。


 しばらく興味深く中を観察していたら、カウンターの奥から「わるいね、まだ準備中なんだよ」と威勢のいい女性の声がした。


「あのぉ、こちらって宿もやっていますか?」


 カウンターから覗き込みながら話しかけると、バタバタと駆けてくる音。


「あぁはいはい、お泊りのお客さんね」


 と、出てきたのは恰幅の良い女性。見た所40歳くらいか。


「ここって”ゲルヒの宿”で合ってます?」

「あぁそうだよ。あたしがゲルヒさ」


 そう言いながら自分の腰をパンと叩く女性。恰幅の良さが音に出ている・・・・・・そんな事言えないけど。


「部屋は空いてますかね? 個室が良いんですけど」

「大丈夫だよ。何泊するんだい?一泊80ゴルに鍵代が最初の日だけ20ゴルだよ。鍵代は出る時返してもらえればそのまま返金すうからね。食事がいる時はその時ここで注文してくれりゃあいい」


 一泊素泊まりで8千円くらいか、ビジネスホテルで考えると少し高めだろうか。しかし、鍵代か、所謂紛失の保険代みたいなものなのだろう。なかなか合理的な考えだ。


「じゃぁ、10日分でお願いします」

「あいよ、ちょっと待ちな・・・・・・・・ほら、これがカギだよ。泊まっている間は鍵は持っていてもらっていい」


 鍵を受け取るとさっそく部屋へ。部屋は二階の角部屋、中に入るとベッドと机に椅子が一つずつ置いてあるだけのシンプルな部屋だった。広くは無いけど意外と居心地はいいかもしれない。掃除も確りされているみたいで綺麗だ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 ベッドに寝転がってみると少し固めだが寝やすくて気持ちいい。


 このままだらけたいけど、寝てしまいそうになるので、色々確認するのを先にしておこう。


「じゃぁ先ずは光の粒子問題からか」


 どうも俺以外がモンスターを倒した場合、死骸がちゃんと残るらしい。これはティーンがる村でも見たしクァバルさんの話を聞いている。まぁ普通に考えたらそうだわな。


 この現象はこれから活動する上でかなり目立ってしまう。出来ればオンオフの切り替えが欲しい所だ。


 システムメニュー内を色々と見ていく。


 ・・・・・・・・・無かった。


 面倒だが極力バレない様に気を付けるしかないか。


 次に職業について調べることに。



職業:冒険者


Lv:12

HP:1272

MP:624

攻撃力:100

精神力:40

耐久力:75

素早さ:66

賢さ:32

体力:84

運:25


スキル

【システムメニュー】【スキル上昇Lv1】【剣術Lv2】【格闘術Lv2】【気配察知Lv1】【棍術Lv1】



 ふむ、大分強くなっている。初期が全部10だったことを考えれば物凄い成長率だ。そりゃあナイフで刺されてもほとんど傷つかない筈だ。


 さてじゃぁ何にしてみようか。


「やっぱり街中だから【商人】かな」


 微妙な職業が並ぶ中【商人】を選択。



職業:商人


Lv:12

HP:530

MP:416

攻撃力:42

精神力:51

耐久力:31

素早さ:27

賢さ:54

体力:70

運:31


スキル

【システムメニュー】【鑑定眼Lv1】【創造Lv1】



 戦闘系のステータスが軒並み下がってしまったが、賢さが上がってるのは何気に嬉しい。だから何ってのは無いんだが。


 まぁステータスは良いとして問題なのはスキルの方だろうな。随分とスッキリしている。


 正直俺は職業が微妙でも決して侮りはしない。何しろ【農民】のスキルがとんでもなかったからな。地味なスキルかと思えば恐ろしくぶっ壊れスキルだった。


 さて、早速検証してみよう。


 【システムメニュー】は全職業共通なんだろう。そして【鑑定眼】は多分あれだ、異世界物の定番中の定番。見たものの価値が分かるというチートご用達のスキル。


 アイテムボックスからナイフを取り出して鑑定してみる。



 名称:初心者ナイフ

 品質:低

 誰でも扱える低品質なナイフ。ずぶの素人しか持つ者はいない。何時までも使っているのは唯の馬鹿か愚か者。



 ・・・・・・・・・・・・・・(汗)


 鑑定結果が辛辣だった。


 まさかの俺の愛刀がディスられてしまった。いや、ディスられているのは使っている俺か。これは何だ? 些か神さんの悪意を感じるぞ。

 しかもこれ、意外MPを食うようだ。一回で20もMPが減ってる。

 今はまだMPがそこまで多くは無いから乱発はできないな。


 そうなると次のスキルはもっとMPを食いそうな気がするのだが。


 【創造】・・・・・・・言葉からすれば何かを作り出すんだろうけど。


 取り合えず使ってみるか。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 何も起こらない。


「何だこれ、どうやって使うんだ。ヘルプ機能が欲しい」


 イメージ力が足りないのだろうか。


「うぬぬんぬううぬぬんう」


 気合ではイメージが膨れなかった。残念。


「・・・・・これも、後回しかな」


 この【創造】スキルは余裕が出てきたら色々試すことにしよう。ただ何となくだがこのスキル、とってもヤバそうな臭いを感じてしまう。


 いずれにしても今は必要な事だけを調べるのが先だ。



職業:狩人


Lv:12

HP:1272

MP:0

攻撃力:84

精神力:51

耐久力:50

素早さ:82

賢さ:27

体力:70

運:25


スキル

【システムメニュー】【気配察知】【気配遮断Lv1】【射撃Lv1】【立体軌道】【千里眼Lv1】



 次は【狩人】だ。


 これは実に分かりやすい。素早さと体力の数値が高いうえにスキルが遠距離攻撃特化と居たところか。

 MPがゼロだ。てことはスキルはMP無しか或いはHP使用になるのだろう。


 かぶっているのは【システムメニュー】と【気配察知】。新たに増えているのが【射撃】と【立体軌道】に【千里眼】だ。


 【射撃】と【気配遮断】に関しては今試せないが、多分そのまんま野意味だろう。【立体軌道】も字面で見る限りは縦軸の動きがしやすいとかだと思う。


 ・・・・ふむ、試してみるか。


 壁に向かって跳ぶ。そのまま壁を蹴って天井に、そして天井の梁に乗っかる。


 おぉ、まるで忍者にでもなった気分だ。文字通り体が羽の様に軽くなって自在に動ける感じだ。


 次に天井から【千里眼】を起動。


「・・・・マジか!!」


 これはびっくり効果だった。


「壁、透視してんじゃん」


 何しろ部屋の壁をすり抜けて隣の部屋が見えている。


 おっさんが一人酒を飲んでいる。


 直ぐにスキルを切った。


「・・・・・・・やべぇ、犯罪の臭いしかしない」


 ちょっと使うタイミングは考えよう。このスキルをほいほい使うようになったら多分俺は後戻りできなくなってしまう。


 まいった、まさか男の夢、透視能力だとは。


「これはあれだな・・・・・狩人というよりは密偵か暗殺者に近い気がする」


 ・・・・・よし、次だ次。


 さて、残りはキワモノ系だが。


「【神人】だけは絶対えらばんぞ」


 こいつだけは選んではいけない。そう俺の感が訴えかけている。


 なので残り1つを試してみる。


 【農民】や【商人】以上に謎の職業、【料理人】だ。


 正直こいつが一番の謎職業かも知れない。あぁでもそれには【システムエンジニア】は除くけど。


 さて、どんな特徴があるのやら。



職業:料理人


Lv:12

HP:530

MP:624

攻撃力:84

精神力:40

耐久力:75

素早さ:44

賢さ:21

体力:70

運:30


スキル

【システムメニュー】【剣術Lv2】【調理Lv1】【調合Lv1】



 おっと、これはまたシンプルな。これと言って特色の無いステータスだ。ただ意外とMPが多いのと運が良いみたいだ。スキルは少ない。


 この【剣術】スキルが有るのは包丁を使うからだろうか? 物騒だな。


 問題は【調理】と【調合】だろうか。


 言葉通りであれば料理の腕前とスパイスの作成って事なんだろうけど。


「・・・・そのまんまの意味じゃないんだろうな。MPがあるってことはこのスキルのどちらかか、或いは両方でMPを使うってことだよな」


 思えば【農民】でも【植物操作】や【整地】などを使うとMPを消費しているのだから、MP量が多い事を考えればあっているだろう。


 今あるのは買ってきた弁当類と熊の肉くらい。これも別に今試さなくてもいい物だからまた今度にしておこう。


 取り敢えずすべての職業(神人は除く)の確認は終えた。スキルに関しては屋内では難しいのもあるので別な機会にまた確認しておこう。


 う~んと背筋を伸ばす。


「どれ、街でもぶらついてみるかな」


 部屋を出て鍵を掛け、それをアイテムボックスにしまって外へと出ていった。

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