第42話 問題発覚

「あれが、タルバンの街ですか」


 見えてきた街の姿に声が弾む。


 ティンガル村とは大違いでちゃんと街している。良かったぁ、この世界の文明が全部あの程度だったらどうしようかと思ってた。


「うん、いいね。異世界ファンタジーって感じだ」

「え? 何か言いました?」

「あぁ、いえいえ独り言です」


 野営所から出発して半日。目的地であるタルバンの街に到着した。

 街の規模はそれ程大きく無いと聞いていたが、結構それなりには発展しているようだ。


「街を守る壁とか無いんですね」


 ただ異世界の街としてイメージしていたのとは違ってモンスターから守る城壁の様なものは存在していない。その疑問に俺の意図とは違うがクァバルさんが答えてくれた。


「そうですね。ここは城塞都市では無いですからね。国境の都市や王都であれば城壁もありますが、ここは普通の宿場街ですから」


 なるほど、でもそれだとこの世界では安全じゃないんじゃないのか?だって、


「魔物とかは大丈夫なんですか?」


 ここはモンスターって言う脅威がそこかしこにいるんだし、現にティンガル村はモンスターに襲われている。人間だけを警戒すればいいって訳にはいかない。


 その問いかけにクァバルさんは俺を不思議そうに見てから「それは」と話を切り出す。


「魔物を遠ざける【魔除け石】があるので人が住んでいるところには滅多に近付いたりはしないんです。ただ完全に魔物をふせげる訳では無いので、領主が私兵を投じて退治したり、ギルドが素材回収を目的として冒険者に狩りをさせています。ティンガル村はまだ開拓途中でしたからきっと魔除け石も設置はされていなかったのでしょう。でもそんな事を聞かれるなんて、ハルさんの故郷では魔除け石使っていないのですか?」

「え?・・・・・あ、私は、その田舎の出身でして・・・・・」


 逆にそんな事も知らないのかと訊かれ焦り誤魔化す。じっと見つめるクァバルさんの視線から逃れる様についっと目を逸らしてしまった。

 間を開けて「そうですか。魔除け石があれば街はそれなりに安全です」と何事もないように続きを話すクァバルさんに俺はほっと息を吐く。まぁ納得した訳じゃないのだろうがクァバルさんはこれ以上問い質す気は無いみたいだ。さすが商人、空気を読んでくれる。

 

 クァバルさんの話ではどうやらこの世界は【魔除け石】なる物で街は守られているらしい。ただそれは貴重なうえに物凄く高価なのでティンガル村の様な小規模の村などには設置されておらず、農村などは自衛をしなければいけないのだとか。

 ただモンスターもむやみやたらと人が住む村を襲うことは無いらしい。全くという訳では無いが基本的にはモンスターは人が多く集まる場所を避けるのだとか。習性的には野生動物とそんなに変わりはないようだ。時折逸れが迷い込んだり、餌が少なければ来ることもあるらしいのだが、それだって頻繁に起こったりはしない。だからティンガル村にゴブリンが押し寄せてきたのはクァバルさんにとっても驚きだったらしい。


「そう言えばクァバルさんはこの街って来た事あるんですか? 道も迷う事無かったですし、色々詳しいですよね」

「以前仲間の商人たちと訪れた事があるんです。街の雰囲気が良かったのとその時知り合った商人がいまして、こっちで商売をするなら協力するって言われてるんですよ。そうでなければ態々敵国に来たりはしないですよ」

「・・・・あぁなるほど」


 そうだった、クァバルさんの国とこの国は戦争をしているんだった。クァバルさんがあまりにも明るく普通にしているから忘れていた。


 そんな話をしながら馬車を走らせていると、タルバンの街に着いた。


 とてもきれいな街並みは独特な建築様式が見受けられる。感覚的にはヨーロッパと中国を足して二で割ったような感じだろうか。造りはヨーロッパ、彩が中国だ。


 壁は土壁のもあれば、あれはコンクリートだろうか。地球でもコンクリートの歴史は古くからあったというからそう難しいものでは無いんだろうけど、ちょっと意外。レンガ造りとかを想像していたのだけど、逆にレンガの壁は無かった。


 街に入ると両サイドにはお店らしい建物がちらりほらりと見受けられる。

 建物の入り口に看板があるから多分そうだと思う・・・・・・のだけど。


 ・・・・・・・・・・これは困ったぞ。


 馬車が止まった。

 どうやらクァバルさんの目的地に到着したようだ。


「ハルさんここまでありがとうございました」


 丁寧に頭を下げるクァバルさんに俺は心苦しく眉を寄せた。


「お礼を言わないといけないの私の方ですよ。クァバルさんのお世話になってばかりか、迷惑をかけてしまった感じですし。道中特に役にもたてませんでしたし」


 何せ村から逃げる様に出る羽目になったのは俺の所為だし、モンスターもあの一回きりで本当に役に立っていない。


「いえいえ、そんな事は無いですよ。私は一緒出来た二日間、とても楽しく過ごさせていただきましたし、何よりハルさんとこうして繋がりを持てたのが一番の収穫だと思っていますから」

「私、とですか? 特にこれと言った特典も価値も無い普通の人間ですよ」

「はっはっは、ご謙遜んを。まぁでも、その辺りはハルさんも色々とあるのでしょうから、ハルさんがそうおっしゃるのでしたらそう言うことにしておきましょう。ですが今後もハルさんとお付き合いさせていただきたい、というのは私の本心ではありますよ。何せ特殊な技術か魔法をお持ちなのですから」


 童顔のクァバルさんが悪戯な思いついた子供のような笑みでそう言った。俺は苦笑いを返すしかなかった。


 クァバルさんが言う「特殊な技術と魔法」、それはモンスターが死ぬと光の粒子となって消えてしまうことだ。

 やはりそれは俺だけなのかクァバルさんも見たことが無い現象だったらしく、結局俺は誤魔化しきれずに苦し紛れで「実家の秘伝だ」と告げてしまった。我ながらもうちょっとうまく言えなかったのかと落ち込んでしまった。


「・・・・・・買い被りだと思いますが、そう言っていただけるのはありがたいです。こちらとしても今後ともよろしくお願いします」

「私は当面この街で商売をしようと思っていますので、何かご入用でしたら是非お声を掛けてくださいね」

「はい、宜しくお願いします」

「ではハルさん、またお会いしましょう」


 お互い笑い合い握手を交わす。

 とても良い人なのは短い間しか一緒にいなかったが良く分かったので、俺としても今後ともつながっておきたいと思う。何かと腹に抱えてそうな事はありそうな人だが、きっと商人とはそう言った人種なのだろう。


 それはさて置き、やっと来れた街らしい街だ。先ずは探索と観光を行わないと。



 降り立った道は比較的大きな通りみたいで、馬車も人もかなりの数が行きかっている。なかなか活気がある。


 来るときに見かけた看板のある店らしき建物を窓越しに覗いてみると、大量の服が棚に並べられている。


「ここは衣料品店かな」


 日本みたいにマネキンでのディスプレイは無いが店内の雰囲気はそれほど違いは無い。


 その隣の店は道具屋・・・・いや薬屋か? 怪しい色の液体が入った瓶が並んでいた。看板を見ると三角フラスコみたいな絵が描いてある。


 俺はその看板を見上げながら顔を難しそうに歪めた。


「文字が読めないってきついだろ、神さん。何だよあの幾何学模様のような、ミミズがはったような文字は、こんなの読めるか! くそぉ、神さんも翻訳機能を付けてくれるんだったら読み書きもセットにしてほしかった」


 そう、俺は書いてある文字が全く読めなかった。いや、あれが文字なのかどうかも正直判断できていない。ただ雰囲気からきっと文字なのだろう思っているだけだ。

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