第20話 1ゴルは100円?

「ここです」


 ティルルさんが元気な声を上げた。


 元寄宿舎に付いたようだ。入ってきた入り口からすると丁度反対側の村の端だった。開拓を始めたばかりの村だけあって規模は小さいみたいで歩き始めて2,3分くらいしかかかっていない。

 ティルルさんの話では70人程村には住んでいるそうだ。一家族4人くらいで考えると世帯数が20軒にも満たないくらいか。そう考えるとこんなものかもしれない。


 建物は他の家から比べるとかなりの大きさがある。

 元寄宿舎と言うことは開拓民の皆が最初はここで共同で暮らしていたのろうからこのくらいの大きさは当然なのかもしれないが、ただどちらかと言えば集合住宅と言うより倉庫に近い印象を受ける建物だ。


 ティルルさんが玄関と思しき布を捲り上げて中に入って行く。俺も続いて中に入ると日差しが殆ど入ってこない所為か中は薄暗かった。

 入って直ぐの場所にテーブルらしきものがある。頑丈そうな作りのテーブルで30人は一緒に食事が出来そうくらい大きかった。

 ただテーブルの上に置いてあるのは採れたてと思われる農作物。作業台として使っているんだろう。


「これもそこに乗せればいいですか?」


 俺がティルルさんから預かった籠を指さすと、俺に収穫物を預けていた事を忘れていたのかティルルさんはちょっと驚いてから「お願いします」と頭を下げた。

 空いている適当なスペースに籠ごと下ろした。


 それから奥の方へとすすむ。


 奥は区切られた小部屋が並んでいた。中を覗くと穀物であったり道具類であったりが押し込まれている。

 それらが乱雑に積まれた部屋を見ながらティルルさんは申し訳なさげにはにかむ。


「すみません。今は住民共通の納屋として使っていまして物がいっぱいになってしまっているんです」

 

 何となく気まずくて日本人ならではの愛想笑いを返しておいた。


 一番奥のスペースで立ち止まる。どうやらここが俺の寝床になるようだ。


 その部屋も他の部屋と一緒だ。

 床と呼べるものは存在せず完全な土間である。区切られてはいるが扉は無く、入り口に布が欠けられているだけ。外かべは穴やら隙間が多く、文字通り風通しが大分いい空間だ。


 まぁ屋根があるだけましだろう。気になるようだったら中にテントを出せばいいしな。


「こんな場所で申し訳ないんですが、ここでしたら自由に使ってもらってかまいませんので。もし必要でしたらベッド用の干し草を持ってきますけど」

「いえ、大丈夫です。場所を提供していただいただけでもありがたいですよ」

「そうですか? それなら良かったです」

「でもいいんですか、こんな道具とか置いてある場所に俺みたいなのを入れてしまって」


 そう言うとティルルさんは良く分からないと首を傾げる。


 どうもこの村の住民はおおらかと言うか疑いを持たないみたいだ。


「ほら、私みたいな余所者が、作物や道具を措いてある場所にいるってことは盗まれる心配もあるじゃないですか」


 俺がそう言うと、ティルルさんは「ああ」と頷き、顎に指をあて少し考えた後にこりと微笑んだ。


「大丈夫ですよ。持って行かれて困る物なんてここには置いてありませんし、それにハルさんはとっても紳士的な方ですので心配はしていません」

「・・・・・・・・っ!」


 女性から笑顔でそんなこと言われた事無いので言葉を詰まらせてしまった。きっと顔も赤くなっているだろう。


 恥ずかしさで黙った俺をよそにティルルさんは「まだ仕事が有るので」とその場を後にした。


「・・・・・・良い娘、だな」


 ティルルさんが去っていく後ろ姿を惚けながらそうつぶやいた。





 朝出発してティンガル村に着いた頃には陽が沈み始めていた。案内された部屋にで寛いでいたら、一日歩き詰めだった俺の腹がぐぅっとなる。


「思えば昼も食ってなかったな。折角人里まで来たんだから地の物を食べたいところなんだが・・・・」


 如何せんここは開拓村で少数の人しか住んでいない。果たしてこんな所に飲食店なんてあるんだろうか?


「それと服だよな」


 あまり期待は出来ないが村で手に入らないか訊いてみよう。


 そう思って村を歩いてみる事にしたのだけど。


「・・・・・・・あるんじゃん!?」


 露店があった。


 所謂雑貨屋だろうか、俺が欲しがっていた服は勿論の事、生活用品的な鍋であったり、鎌や斧といった鍛冶品といったものが所狭しと馬車の荷台の上に陳列されている。


「あぁそう言えば行商人が来ているって言ってたもんな」


 店主は多分中年のおっさんだ・・・・・・・いや、どうだろう。ちょっと年齢不詳気味な人だな。


 少し小太りでつぶらな瞳をした少年顔なのだが額が結構上がっている。若そうにも見えるんだがよく見ると皺があったりする。


「あ、すみません。男物の服ってありますか?」

「はいはい、ございますよ。この辺りは如何でしょうか? 中古品ではありますが品は確りとしております」


 声、渋いな!?


 バリトーンボイスの年齢不詳の商人さんはにこやかに受け答えした。


「ただ生憎と急な出立だったために数は然程ないんですよ」


 そう言って店主が手に取ったのは如何にも町人ぽい服。


「ああ、いいですね。それはおいくらなんでしょうか?」

「はい、こちらは上下セットで50ゴルとなります」


 50ゴル・・・・安!


 いや、安いのか?


 分からん。


 俺の所持金が29000程あるのだが、これはここ数日のモンスター討伐で得た金額だ。


 これは1ゴル=1円って訳じゃなさそうだな。確かゴブリン1体で40ゴルだったか・・・・・そうだな、確かにゴブリンを倒して40円て割に合わなすぎる。


 荷台の上の商品を見ていると馴染みのあるものが。


「その赤い実は?」

「ああ、はいリンゴですね」


 ・・・・・・あぁ、そのまんまリンゴなのね。


 やはりこれはあれかな、俺の脳内変換が勝手にリンゴにしているんだろうな。まぁそれは良いとして取り敢えず値段だな。


「こちらは一つ3ゴルになります」


 3ゴル、か。微妙な数字が出てきてしまった。


 日本での感覚だとリンゴが一つで100円くらいなんだが、そう考えると1ゴル30円程?いや、あれは日本の輸送や保存技術があってこその単価だから、こっちではもっと高いんじゃないだろうか?そうなると1ゴルが100円くらいと考えるのが妥当なのかもしれない。


 それで考えれば中古服が5000円、うん違和感がないな。


 ・・・・・・・・あれ、そうなるとだ。今俺って29,220ゴル持っているんだよな・・・・・・・・・・・てことは約300万弱!!


 マジか!3日間モンスターを倒して得たお金が300万っすか!


 ん、まてよ。


 この世界の日当の高さに驚くと共にとある疑問に気が付いた。


 そもそもなんでモンスター倒して金が手に入る。


 改めて考えるとおかしな話だな。あいつら貯金してんのか、んなわきゃ無いだろ。確かにゲームではそうだけどさ、現実に体感してみるととんでもない違和感だ。


 しかも俺が倒してきたのってスライムとかゴブリンばっかりだし、とても稼げるようなモンスターでも無いと思うんだが。


 これもあれだろうか。たしか神さんは俺だけがこの世界でゲームの様になると言っていた。レベルアップだったりシステムメニューだったり。そうなるとこのお金が手に入るのもその機能の一つと考えた方が良いだろう。


「お客様如何でしょうか?」


 お金の不思議について考えていると店の主人が如何にもな笑顔で手を擦ってこっちを覗き込んでいた。


「あ、はい。ではその服頂けますか。同じようなものがあればもう一着欲しいところなんですが」

「はいございます。こちらは少しお高くなりますので、併せて120ゴルになりますがよろしいでしょうか?」

「ええ、それで構いません」


 取り合えずこのことは黙っているのが上策だろうか?無いよりよりはあった方が良いいのでこれはいい事だととらえることにしよう。


 何はともあれ服が手に入った事は非常に嬉しい。ここ最近の一番の悩みでもあったし。


 システムメニュー内ストレージからお金を取り出す。


 右手の中にコインがジャララと出てくる感じは気持ち悪かった。


 何気に初めて見るこの世界の通貨ゴル。予想通りのテンプレコインが手の中に納まっていた。


 銀色の硬貨が1枚と赤銅色の硬貨が2枚。


 多分100ゴルで銀貨、10ゴルで銅貨じゃないだろうか。

 そうなると1000ゴルが金貨で1ゴルは鉄とかなのか?


 試しに1001ゴル出してみる。案の定金貨が1枚と・・・・・・これは不思議な硬貨だな、多分鉄だと思うのだけど、丸じゃなくて四角い硬貨だ。金貨の大きさは500円玉くらいだった。


 俺は金貨を見つめる。


 ・・・・・・これ、日本で換金したらもっと高いんじゃないだろうか?


 今の金相場だと1gあたり4800円くらいだったと思う。そうすると、これで1オンスほどはあるんだから、それで計算すると・・・・・・・134400円!!

 てことは29000ゴルを換金すれば役390万円になる。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、冷静に考えよう。


 そもそもあれは金の純度が高い純金での話だ。


 ・・・・・・・これ、多分純金じゃないよな。


 取り敢えず金貨の換金は辞めておこう。下手に換金して偽造だの何だの言われたら洒落にならない。


 金貨と鉄貨はストレージに戻す。変な汗をかいてしまった。


 「これでいいですか?」と、銀貨と銅貨を店主に手渡し服を受け取った。

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