第17話 第一異世界人

「ハァ、ハァ・・・・もうそろそろ村が見えてきてもいいころじゃないのか」


 舗装はされていないが均された道を歩きながら、日差しを遮るように目の上に手を添えて、遠くを見ようと目を細める。マップの表示からするとかなり近い筈なんだがまだ見えてこない。見渡す限りの平原が続いている。


 何時間歩いてきただろうか。蟻の大群に襲われて寝不足気味だからスタミナが極端に持っていかれて流石にばててきた。馬車でも通ってくれないものかと期待していたのだが、今に至るまで人ひとりとして出会っていないってどういうことだ。こうまで人と出会わないと神さんはああ言っていたが、この世界に人が存在していないのではないかと不安になってくる。


「あ゛ぁ゛~日差しが鬱陶しい」


 今日は快晴、遮るものが無い平野は暑い。森の中は快適だったなと早くも懐かしく思える。そもそも寝不足に太陽は一番堪えるんだよ。


 アイテムボックスからたミネラルウォーターのペットボトルを取り出してラッパ飲み。涸れはてる寸前だった喉がごきゅりと大きな音を鳴らし、一気に飲み干してしまった。もう何本目か分からない空になったペットボトルをアイテムボックスに戻した。

 これは帰ったらちゃんと分別して指定のゴミ捨て場に捨てる。流石に異世界でポイ捨てはしない。大人だから。


 それから更に一時間ほど歩く。

 

 するとマップにある異変が。


「マーカーに初めて青色が・・・・・」


 マップには害意が有るの生物は赤、無いのが青で表示されるのだが、この世界に来て青色のマーカーを目にしたのは初めてだ。


 う、うれしい!


 この世界で初めての友好的な存在があらわれてくれた。


 異世界に来てからマップ上は赤一色しかなかった。当然モンスターは全て赤色、動物たちも好戦的なのが多いのか全部赤色。正直俺ってこの世界に嫌われているんじゃないかと思ったよ。


 だけど。


「やっとだ、やっと異世界人とあえる」


 あぁ、さよなら俺の異世界ぼっちの殺伐としたサバイバル生活よ。


 自然と足取りが軽くなっていた。



 歩みを進めていくと道の両側が明らかに人の手が入っていると思われる畑が現れてきた。

 植えられているのが何なのか分からないが、パッと見て感じではホウレンソウに近い植物が綺麗なラインで植えられ、周りには動物避けと思われる確りとした柵が設けられている。


 これは完全に文明を感じる。


 そしてその畑の中で念願の存在を発見した。



「第一異世界人発見!」



 人が畑の中にいたのだ。


 ぱっと見では普通の人間に見える。別に角があるとか肌が青色とかではない、地球人と何ら変わらない容姿の人。それは女性のようだった。どうやら農作業をしているみたいなのだがロングスカートを穿いている。タイトルを忘れたが、あの有名な絵画の様な恰好だ。


 やっと出会えた記念すべき第一異世界人。


「ふぁ、ファーストコンタクトは大事、だよな」


 このまま話しかけもせず通り過ぎることは出来ない。出来ればコンタクトをとってみたい。


 さて、何て声を掛けようか・・・・・・やっぱり先ずは挨拶からだろう。


 そう考えた俺は片方の手を上げて声を掛けようとした・・・・・ところで止まった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待てよ。そもそもここって何語を喋るんだ?



 俺は肝心な事を忘れていた。


 日本語だろうか?いやいやありえない。じゃあなんだ?異世界語とかあるんだろうか?


 ここの世界の言語がどうなっているのか悩む。


 そもそも言語が存在しているのだろうか・・・・・・テレパシー的な・・・・・・マジで?


 そ、それだったらどうしたらいいんだ。神さんみたいに心を読むとか・・・・いやそんなのは勘弁だ。俺の思考駄々洩れ何てそんなの罰ゲームだろ。


 そうしよう会話が成り立たないって結構致命的じゃないか。


 く、考えていても答えは出ないな。ならば取り敢えず話しかけてみるか。それで言葉が通じなかったら身振り手振りで、こう・・・・・・・・・・。


 いやちょっと待て。


 話しかけた瞬間襲ってきたりはしないよな。モンスターが居る世界だから殺伐している可能性とかあるぞ。


 ・・・・・・いや、まてまて、落ち着いて考えろ。マップ上のマーカーは青なんだ。青は友好的な、或いは無害なものを指示しているはずだ。それであれば何にもなしに突然襲われるってことは無いだろう。言葉の問題は別としてこっちが不手際さえしなければ問題ないはずだ。


 そうだ、マーカーは青だ。だったら話しかけてみるべきだ。


「こ・・・・・・・」


 俺は再度声を掛け・・・・・・・ようとしてピタリと止まる。


 待てよ、もしかしたら、もしかしたらだ。

 話しかけた瞬間悲鳴を上げられる、何てことがあるかもしれない。相手は女性でしかも一人だ。そんな中で見知らぬ男から声を掛けられたら驚き怖がるかもしれない。マーカーだって俺を認識していないから青であって認識したら赤に変わるかもしれないじゃないか。


 もし女性に悲鳴をあげられた場合、言葉が通じないんじゃ落ち着かせるのも難しいぞ。下手したら俺は犯罪者として間違われて捕まってしまうなんてのもあるんじゃないか?


 それならばここは話しかけずに通り過ぎた方がいいのかも。


 いや、見つかること自体問題かもしれないぞ。ならば見つかる前にここをそっと立ち去るか・・・・・・・・・・いやでも現地の情報は欲しいからな。折角の人里なのに何もしないというのは今後の事を考えると愚策でしかない。

 だったらこっそりと村に行って陰から見ながら情報を集めるとか・・・・・・無理だ、俺にそんな技術は無い。だったら今ここで話しかけて反応を見た方がいいんじゃないか。仮に騒がれても女性が一人きりだったら何とか出来るんじゃ、て俺は何を考えている。それじゃまるっきり暴漢と変わりないじゃないか。


 くそ、俺は一体どうしたらいいんだ。


「・・・・あの」


 頭を抱えて考え込む。


 そうだ考えろ、このピンチを乗り切るための方法が必ずある筈だ。これを乗り切らなくては今後の異世界生活に大幅な支障をきたしてしまう。異世界まで来てぼっちな生活など断固として避けなければならない。街にも寄れないんじゃ何が楽しいのか分からんぞ。


「あ、あの?」


 あぁ、でもぼっちな俺が想像できてしまう。何処に行くにしても何と戦うとしても一人、一人で敵に突っ込み、一人で宝を手にし、一人で稼いだ金で一人で野外食事なんて悲しすぎるじゃないか。そんな生活に俺は耐え・・ら・・れ・・・・・・・。


 あれ?ちょっと待てよ。


 よく考えるとそれって今の俺の生活となんら変わらないんじゃないだろうか?


 今の俺って友達らしい友達はいない。学生時代に友人たちとは仕事が忙しくてここ数年あっていない。ホームセンターで会った高橋が久しぶりだ。

 それに会社だってチームを組んではいるが所詮ゲーム作成のプログラミングは個人作業だ。一人パソコンに向かってシステムを組み上げ、会社にいながらも基本的には誰かと話をすることなど無い。打ち合わせくらいだけでそれ以外はトラブった時ぐらいか。社内に居ながらにして何日も人と会話をしないなどざらだしな。だから当然食事は一人。


 ・・・・・・なるほど、そう考えればそれはそれで問題無いのか・・・・・・慣れてるし。


「あの、もしもし・・・・・・」

「悪いけど今考え中だからちょっと待って」

「え!?あ、はい。すみません・・・・・・・・・」


 まったく、何だよさっきから五月蠅いな。途中で話掛けられたから思考がおかしな方に行ってしまったではないか。


 てか俺はぼっちに慣れてなどいない、好んでぼっちになどならないぞ!


 兎に角だ。話をしてみない事には今後の見通しも立てられない訳だが、このが女性なのが悪い。例えばこの人が老人であったならば問題なく話せるんだが、俺は意外と年配者の方が話がしやすいたちだからな。だったらここはスルーして意を決して村に行ってみるべきか・・・・それはそれで博打だ。


 ・・・・・・・あぁ、どうしようのじょ、せい・・・・・・・・?


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 俺は悲鳴を上げたのと同時に甲高い悲鳴も上げられる。


 物思いにふけっている間にいつも間にか異世界人が目の前に来ているじゃないか!


 やばい、やばい、やばい。


 どうする?どうしよう?どうしたらいい?


 ・・・・話しかける・・・・・・・・そうだ、話しかけてみればいいんか?言葉が通じなくてもボディーランゲージを使えば何とかなるか?


 乾いた喉に唾を一飲みし、意を決して口を開く。


「え、えっと、こんにち、は?」

「あ、はい、こんにち、は?」



 ・・・・・・あれ?



「あの、頭を押さえてらっしゃいましたけど、どこか怪我でもされたんですか?」


 女の人が心配そうにこちらを見ている。



 え、あれ?



 ・・・・・・言葉が分かるぞ。


「あの、もしもし、聞こえていますか?・・・・・・・・・わゎ、もしかして言葉が通じないのかしら」


 女の人がわたわたと手を振って慌てだす。


 俺は女の人を見ながらん~と首を捻った。


 何故分かる?これ日本語?


 いや、何か違う気がする。


 言葉が通じているけどどこか違和感を感じる。理解をしているのは日本語だけど・・・・・・これ聞こえてるの日本語じゃ無くね?


 何て言うんだろうか、こう、まるで脳内変換されているような感覚。


 むぅ、これも神の加護ってやつなんだろうか?

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