第9話 アイテム入手とスキルの検証

「どうしよっかなこの肉」


 両手を組んで考えこむ俺の前には巨大な肉の塊がある。あの熊の肉だ。


 流石にあのデカさの熊だけに、肉になってもバカでかい。アイテムボックスから取り出した時はそりゃあ驚いたものだ。

 俺としては某原始人アニメの様な骨付きマンモス肉の小型版を想像していたのだが、その予想に反して嫌に現実的な肉感を確りと出してきている。

 だが下処理はきっちりされていて、血抜きも終わっていれば骨や内臓も無くなっている。妙な親切設計のシステムだ。

 ただ骨などは無くなっているのに形が何となく熊だったと分かるところがとてもグロい。


「食べてみたいとは思ったが・・・・・・・・」


 料理をしたことが殆ど無い俺にこれはハードルが高いのではないだろうか。しかもこいつは熊であって熊でない。ただのモンスターだ。


「食っても大丈夫なのだろうか」


 腹を壊したり変な病気になったりしないか心配だ。


 だけどドロップアイテムとして肉になるということは、そう言うことなのだろう。


「ふむ、これも異世界冒険の醍醐味だな。よし、今度焼き肉のたれを持ってきて焼いてみるか」


 取り合えず熊肉はアイテムボックスにしまっておく事にした。


「アイテムの入手条件って何なんだろう?」


 熊肉を見ていて思ったのだが、勝手に解体されてアイテムとして手に入るのは良いのだが、スライムとゴブリンは核だけ、熊は毛皮と肉が貰えた。


「考えられるのは価値があるものってところだろうか」


 ゴブリンはどう見ても食えそうになかったから肉とかは出ないんじゃないだろうか。出てきたとしても食べたくはないけどな。


 よし分かった。良く分からないけど、凄く便利だという事は分かった。アイテムに関する考察は終わり。


 さて、もう一つついでに検証してみよう。


 新スキル【気配察知】だ。


 新たに手に入ったスキルだが、機能としてはマップに敵とそうでないものを色分けしてマーキングしてくれるというもののようだけど。


 取り合えずマップの縮尺を変えて広域にしてみる。赤いカーソルが至る所に浮かび上がっている。


「おぉこれは便利だな、って、ここにいるの全部赤じゃん」


 マップ上は赤のマーカーで埋め尽くされている。赤は敵意があるものだ。俺に敵意の無い青マーカーが一つも無いことについ突っ込んでしまった。


 敵だらけの森の中に驚愕しながらも、別な検証をしようと色々と試してみる。

 するとマーカーが洗濯できることに気が付き、俺の近くにあるマーカーを選んでみた。


 ウィンドウがぴょこんと現れる。



 【ゴブリン】



 モンスターの名前が出てきた。


 最初「え、それだけ」とも思ったのだが、まぁこれはこれで便利だ。


 人だったら名前が出るのかもしれない。もしそうであれば人の顔と名前を覚えるのは得意じゃない俺としては超便利機能だ。


「レベルが上がればもっと多い情報が見れるようになるんだろうか?敵の強さとか・・・・・HPとか出てくれると助かるんだけどな」


 取り敢えず【気配察知】スキルのシステム的な部分の確認すべきところははこんな所だろうか。


「あとはこの何となく伝わってくる気配みたいなやつだが・・・」


 何となくスキルを入手してから感覚が研ぎ澄まされたというか、何かがどこにいるみたいなものが分かってくる。


 なので少しだけ実験をしてみる事にした。


 マップのマーカーを見ないようにして感じる気配だけを頼りに移動してみた。


「おお、いるじゃん」


 すると俺が向かった方向に数匹のゴブリン達が休憩しているのか座っていた。どうやら感じる気配は間違いがないようだ。


「不意打ちとか防げそうだな」


 使い勝手が良いスキルにニンマリとする。

 これが有ればあの熊みたいなことはもうないだろうしモンスターの位置が分かるから効率よくレベルアップが出来る。


 森の中を彷徨うだけというのも飽きてきたところだっただけに僥倖だ。


 という事で、


「おらあぁぁぁあぁ」


 休んでいるゴブリンへ俺は特攻を仕掛けあっと言う間に瞬滅する。こいつらはストレス解消にもってこいだ。


 それからはマップのマーカーを見ながらモンスターどもを大量に倒していく。レベルが上がって体力も大幅に増えた俺の体は、1時間や2時間動きっぱなしでも平気なくらいになっていたので、手当たり次第に葬って行った。ローラー作戦だ。


 気が付けば上がり難くなってきたレベルも2つ上がって7になっていた。


 今日はすっきりしたのでそろそろ帰る事にしよう。






「ただいま」


 気分が良かった俺が神さんににこやかな笑顔でそう言うと、神さんは珍獣でも見る様な呆けた顔をした。


「・・・・おぉ、お帰りなのじゃ。お主が笑顔などと奇妙な出来事に一瞬躊躇ってしまったのじゃ」

「おいおい、言うに事欠いて俺の笑顔を奇妙といったか・・・・・・」


 随分な物言いに俺はむすっと年甲斐にも無く頬を膨らませた。

 人の笑顔をみて奇妙とは何たる言い草だ。俺だって笑う時は笑う・・・・・・いや待て、最近笑ったのっていつだったか、社会人になって・・・・からは無いような気がするな。じゃあ大学では・・・・ふむ。


「なるほど、否定できないな。確かに奇妙かもしれん」


 昔を思い出しながら近年笑っていなかった俺が笑顔を作った事実に、俺自身確かに奇妙だなと妙に納得してしまった。

 そんな事を考えながら俺がうんうんと頷いていると、神さんは呆れたとばかりに息を吐き出して「素直なのかひねくれているのか」といった。

 俺はそれをさらっと聞き流し今日の事で少し思った事を訊くことにする。


「なぁ神さん」

「ん、なんじゃ?」

「例えばなんだが、向こうで手に入れた肉とかをこっちに持ってきたりとかできるのか?」

「寄生虫がついていたり病気持ちとかで無ければ問題無いのじゃ。ドラゴンの肉なんかは非常においしいらしいからのう。もし倒したらお土産に欲しいのじゃ。あ、じゃが大っぴらに変わったものを持ってきて売ったりすると、お主が後々面倒事に巻き込まれるから、自分で食べる程度にしておいた方が良いのじゃ」

「おお、そうか。なるほどなるほど、ドラゴンは美味しいのか、それは楽しみが増えたな。でもドラゴンって強いんだろ」

「向こうの世界では最強クラスなのじゃ。じゃからお主がドラゴンを倒せるようになるのはもっと先の話なのじゃ」

「やっぱりあの世界でもドラゴンは強いんだな、ん? そう言えばあの世界って妙に出てくるモンスターとかが俺らの馴染みあるゲームと似ているような気がするんだけど」


 スライムもゴブリンもこちらの人間が勝手に空想した生物の筈なのに、異世界には普通に生息しているのって偶然なのだろうか。

 そんな事を考えていると、神さんが「ケケケ」と妖怪じみた笑い声をあげる。


「そりゃあそうじゃ、あの世界はこちらのゲームっちゅうものを研究してわしが作った世界じゃからな。ゲームの世界に似ていて当たり前なのじゃ」

「え、何でそんな事をしたんだ? ゲームに似せたって何だかあの世界の住人が可哀想に思えてきたんだが」

「楽しそうだからに決まっておろう」


 何当たり前な事をみたいな顔で神さんが言い放つ。


「そりゃあ・・・・何て言うか、気の毒だな」

「ああ、お主何か勘違いをしている様じゃから教えてやるが、世界観や種族とかは真似て作っておるが、今ある国や生活の習慣などはわしは絡んではおらんからの、あそこはちゃんと独自の発展をしておるのじゃよ。それに命の営みが確り出来るように繊細なバランスもとっておるんじゃ、生き物が違うくらいでこの世界と何ら変わらんのじゃよ。それにゲームをまねたとは言ったが、前にも言ったがあそこの人間どもにお主の様なスキルとかレベルとかは存在せんしのう」

「ああ、確かにそんな事言ってたな」

「そうなのじゃ。お主以外のあの世界の住人たちは日々努力して力をつけ、技術を学び、少しづつ自分を鍛えていく、それこそここの住人達と何にも変わらんのじゃ。ゲームシステムなどと奇妙なものを持っているものなどお主以外一人もおらんよ」

「・・・・・・おぉ、それはありがとうというか、何て言うか、ちょっと恐ろしいと思ってしまったのだが」

「まぁ何にせよお主に与えたスキルと加護は特別という事じゃ。それをどう使うかはお主次第じゃし、それが怖いものになるのか、ただ便利なものになるのかもお主の考え一つなのじゃ」


 真面目な顔で神さんが諭すように語ると、これで終いとばかりに手にしたお茶をすする。俺は意外と重い話の内容に神妙な顔で突っ立っていた。


 どうやら神さんが俺に与えたものは相当やばいものだったらしく、今後街とかに出た時は気を付けようと心に決めた。


 それはさておき、向こうの肉を持って帰ってきていいという事は、こちらの食材とかも持って行っていいという事になる。

 これはいい事を聞いた、と今後の楽しみ方の計画を思い描きながら俺は一日を締めくくった。

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