飛ばす語り

作者 水上千年

6

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★★★ Excellent!!!

このお話の面白さは、とても多面的なのでどこから語ろうか、悩んでしまいます。
というのは、鎌倉時代の女流文学『とはずがたり』をベースにしています。
『とはずがたり』といえば後深草院を始め、多くの男性と浮名を流した女性によるR18文学(?)で、これをリライトするだけでも十分作品として成立します(実際、いくつかコミカライズされており、どれも面白いです)。

しかし、何とこのお話は、『とはずがたり』が世に知られるようになった過程に注目しているのです。
鎌倉時代の作品ではあるものの、「発見」されたのは昭和15年とのこと。
なので、このお話の舞台は昭和15年から始まります。

さらにさらに、面白いのは、この「発見」の時代に作者「アカコ」(後深草院二条)本人が転移してしまうというところ。
『とはずがたり』を「発見」し公開しようとする男・広瀬(これには実在のモデルがいます)との攻防、そして……。

『とはずがたり』を知らなくても、この状況だけで面白いと思います。
アカコと広瀬がどうなっていくのか、これはまた、太平洋戦争期の話としてじっくり楽しめるものです。

が、『とはずがたり』を何らかの形で読んだことがある人にはさらに美味しいです。
というのは、当然、『とはずがたり』の作者が主人公なのですから、その執筆過程についての言及もあります。
ここのところで「それはありかもしれない」と思えるようなフィクションが巧妙に散りばめられています。

楽しく読めるので、気にしなくてもいいのだろうなあと思いつつも、「作者さん、何を読んでこういう話書いているのだろう……」と気になっていました(笑)。
それが、何と最終話の後、「参考文献一覧及びあとがき」というものが!
うわあああああ!
これ、嬉しい人にはとっても嬉しいやつですよね。
ここからまた読書の世界が広がります。

話は軽快で、現代ドラマとしても楽しめる… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

 「最強の力をもって異世界に転生」が流行っている昨今だが、本作の主人公はレベルが違う。
 鎌倉時代という「異世界」から、戦前という「異世界」(多分多くの人にとってヨーロッパ中世風ファンタジー世界の方がはるかに馴染みがあるだろう)へ転生(憑依?)したヒロインは、その時代に「発見」され、歴史に名を刻むことになる作品の作者、つまり、英雄どころかある種の神だ。
 現時点では、それを本当の意味で認めているものはいないようだ。医者の応答はカウンセリングのようにも見えるし、広瀬もまだ心底信じているようには見えない。本人にも「神」としての意識が低く、黒歴史と承認欲求の狭間で揺れ動いている様子だが、今後の無自覚な神の行動が楽しみだ。

 現時点ではまだ書いた記憶がないという四巻以降の本当の書き手が誰か、鈴木家の本当の娘、鈴木閼伽子自身はどうなったのか、など、さりげなく謎を置いていく書き方も面白い。

 「増鏡」はともかく、「とはずがたり」の存在自体知らなかったが、「古典をぜひとも一度読んでみたい」と思わせてくれるのも、ライトノベルという自由な表現形態の一つの在り方だと思う。