第21話彼女のほほになみだが光っていた

21 病床日記(いつか青空)

P 8.18 Friday 熱6.2~7

●彼女のことばかりかんがえて、今日も過ごした。

病室からは出られないが、いくらでも考えることはできる。

●彼女はあまり喋らないたちだ。

無口というほどでもないのだが。

女のこのあのお喋りはしない。

●家でぼくとの交際を反対されているような気がする。

やはりぼくが病気になったことが一番の原因だろう。

はやく元気になりたい。

そればかりかんがえている。

●おなじことを何時間もかんがえた。

悲しいかんがえだ。

●会いたい。

彼女に会いたい。

こちらからは会いにいけない。

ざんねんだ。

くやしい。

悲しい。

●さいきん、よくおびえる。

彼女にはもう二度と会えないのではないか。

●美智子さんの黒くしなやかな髪と黒い瞳をおもいうかべる。

そして、彼女はここにいる。

ここにいる。

思うことにしている。

そのほかに彼女のなにをぼくは知っているのだろうか。

顔の輪郭や、肌の色、手のひんやりとした肌ざわり。

●そして、それらすべてのものを。

失ってしまうのではないか。

とまた不安になる。

●やっと……彼女が部屋にはいってきた。

ぼくは彼女の手をにぎりしめた。

なにもいえず、そのままじっとしていた。

●「まめにこられなくて、ごめんね」

●声だけがのこって、彼女は消えてしまった。

ぼくは夢をみていたのだ。

●夜遅くなって、もう彼女は来ないだろう。

とあきらめかけた。

●だから、やっと彼女が扉の所に現れたとき。

また夢かと思った。

●「どうぞ、まだ起きていたから」

●扉はあけたままにしておいた。

●彼女は椅子に座った。

それだけでいい。

なにも話さなくてもいい。

●彼女の鼓動がする。

走ってきたのだろう。

彼女がこの部屋にいる。

それだけでうれしい。

たまらなくうれしい。

ありがとう。

ぼくは上掛けからそっと手をだした。

彼女がぐっとにぎりしめた。

「はやく、よくなって」

彼女のほほになみだが光っていた。

なにか、辛いことがあったのだろう。

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