第19話ベッドに起き上がって日記が書けた

19  病床日記(いつか青空)

P 8.16 Wednesday 熱6.8~7

●2時半頃、彼女が来てくれた。Weekdayだが、盆休みなので午後から来られたのだろう。彼女のことだから、朝のうちは家事を手伝い、身の回りの整頓をしたりして、こまごまと動きまわってからかけつけてくれたのだ。ありがとう。

●カミュの話、とくに太陽の光について知らぬ間に話していた。もっとロマンチックな話をすればいいのに。輝く太陽のもとでの発砲について話していた。なんて話題を選ぶのだ。もっとロマンチックな話はできないのか。と思いつつも、文学の話からぬけだせなかった。

●彼女から見舞いいただく。ありがとう。

●どうやら、日記をbedに起きあがって書きこむことができるようになった。長い時間話していてもあまり、咳きこまなくなった。咳をしている姿を彼女に見せるのは辛い。

●この病気は伝染するから(いくら菌が出ていないといっても年配のひとには通じないだろう)そばに寄るな。と町ではいわれているのだ。そんなぼくのところに見舞いに通い続けてくる彼女の心情を思うと辛い。

●はやく良くなりたい。はやく元気になって彼女と街を歩きたい。千手山公園に行きたい。あの階段はいまでは、登れないだろうな。息切れがしてとても無理だろう。はやく、あの階段を登れるほどに回復したい。

●窓から見える貝島橋方面の畑の中に点在する住宅。日常の健康な生活がある。いいなぁ。

●はるか東の台地の丘の稜線。風に騒ぐ木々の濃い緑の群葉。

●畑に、住宅に、丘に、木々の葉に、それら存在するものの上にふりそそぐ夏の光。風。

●ぼくは健康であるものたちをうらやましい。

●ぼくはそれらのものを妬んだ。

●はやくぼくも健康になりたい。健康な日常を過ごせることの幸せをぼくは悟る。

●平凡な生活でもいい。はやく彼女と一緒になりたい。彼女と結婚できるなら30まで生きられればいい。孫太郎さん(わが家で信仰している岩船山にある仏様)ぼくをもういちど助けて下さい。

●廊下の配膳ワゴンまでトレイを返しにいくことができた。うれしかった。

●隣の部屋のドアが開いていた。Bedの横に畳を敷き、片膝をたてて食事をしている中年の男がいた。その背に寂しさがいっぱい。


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