第18話彼女は清楚な白いバラ
18 病床日記(いつか青空)
P 8.15 Tuesday 熱6~6.8
●今夜も彼女はきてくれるはず。「あしたも来るわね」と約束してくれた。うれしい。
●当然のことながら、夜のくるのが待ち遠しい。
●彼女のことばかり考えていると、言葉などは頭の中をただすべっていくだけだ。彼女の姿だけがはっきりとした輪郭をもって、うかびあがり、いつまでも消えない。言葉はほんとうになんにもならない。言葉ではだめだ。イメージのほうがぼくのこころを和ませてたくれる。言葉の無力感に苛まれる。
●病床に在って、もし、あなたという恋人がいなかったらと思うと、ぼくは戦慄する。
●うす曇りの夏の午後。平和な住宅街の光景を病室の窓から見下ろしていると、ぼくもああしたのんびりとした生活がしたいとあこがれる。たぶん、ぼくの性格からして、それは無理だ。お盆なので仕事がやすみなのだろう。家族でなごやかにささやかな庭で洗濯物をほしている。子供が母親を手伝っている。父親は縁側で皐の手入れをしている。のどかだ。
●7.45分。花をもって彼女が来た。花瓶に菊の花を生けてくれた。彼女のしぐさを眺めているだけですごくたのしい。生け終ってからしきりと愛らしい頭をかしげている。菊のすこし長すぎる茎を縮めようかしらと気にしていた。
●彼女はひさしぶりに陽気な声をたてて笑った。9時まで話して帰った。
●箸を洗ってもらったり、湯呑に水をくんできてもらったりした。いろんなことをしてもらった。ありがとう。
●菊の花言葉を調べた。高潔。清浄。
●ぼくは、「野菊の如き君なりき」という映画を思い出した。そのぼくがいま、あどけなく、清らかな人と出会って恋をしている。
●美智子さんにはどんな花が似合うのだろうか。
●やはり薔薇だろう。白い清楚な薔薇のような女性(ひと)だ。
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