ひとりにしたりしない

 シノとユキは、二人で階段を駆け上がっていた。

 シノは真っ青な顔で、槍を握りしめて歯を食いしばっている。

 前を行くユキも、思考を全速力で回転させて先のことを考えていた。

 ジウたちが、シノから灯を受け取り外へ向かった直後、ジュナも移動を開始したと、カラスが言った。今、どの辺りにいるのか……。

 ユキは、ジウが部屋を出た時のことを思い出した。



 ジウは、外への通路に繋がる扉の前で、不意に立ち止まった。

『なあ。兄さんはどうして消えたんだ。駆動限界ってのには、なってなかったんだろ』

 こちらに背を向けたままそう言ったジウの表情は、見えなかった。

 カラスは目を閉じてそれに答えた。


『お前の兄さんは、魔術を施された兜が割れたことで、止まっていた時間が急激に流れ、それに身体が耐え切れず、壊れてしまったんだ』


 ジウは全く動かなかった。

『――いや。違うな。壊れてしまったんじゃない。死んで、しまったんだ。すまない。我々が殺したようなものだ』


 カラスは俯いた。


『アンタのせいじゃない』


 そう言ったジウの声はかすれていた。

 カラスはジウの背中をじっと見つめてから、その背中に向かって深く頭を下げた。


『ありがとう』


 泣きそうな声だった。


『全部終わらせてやるから、もう、気にすんなよ』


 ジウはそう言うと、振り向かないまま扉を開けた。


 ジウは昔からそうだ。

 全部全部一人で抱え込んで。

 苦しいときも、痛いとも言わないで、ずっと一人で迷い続けて、助けを求めたりしない。

 全部どうでもいいようなフリをして、本当は何一つ諦めきれないでいる。



 ユキは回想を止めて、眼前に近付く扉を睨みつけた。


 だから、これからは、皆で分け合うんだ。


 自分は守護者になる。

 ジウを置いていかなきゃいけない。

 だから、ジウの心の荷物を半分持ったところで、いつかはその荷物を放り出さなきゃいけない。

 そんなんじゃ、持つ意味なんてない。


 ずっとそう思っていた。

 けれど、全部終わりにすれば、放り出さなくていいんだ。

 皆で終わらせるんだ。


 塔の屋上への扉にたどり着く。

 扉に指先が触れる。

 カラスの言葉がよみがえる。


 ――エトランゼを止めることは、シノ。お前にしかできないだろう――


 ――結界が解ければ、街は混乱する。だが、その時に私は助けてやれない。すまないが、どうにかして混乱を乗り切ってくれ。人々を導いてくれ――


 ユキは、シノを振り返った。

 今まで見たこともないほど、苦しそうな顔をしていた。


 ユキは、いざと言う時は自分が手を下す覚悟を決めて、シノに手を差し出した。

 シノが、ハッと顔を上げた。


「シノ。一人にしたりしない。一緒に行こう」


 シノは両目にいっぱい涙を溜めて、ユキの手を取った。


 二人はまるで幼い子供のように、手を繋いで、扉を開けた。

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