月を頂く塔、切迫

 ユキが素早く瞳だけを動かして、正面玄関口の方を見た。

 ジュナに立ち塞がれた扉の他にカラスの部屋に戻るには、一端外へ出て、大樹の根本のレンガ造りの階段から、地下通路に戻るしかない。

 アヤとシノも同じことを考えたのか、ユキと目を合わせて頷いた。

 しかし、直後、まるでこちらの考えなどお見通しであるかのように、ジュナが無表情のまま片手を上げた。

 すると、階段からたくさんの金属質な足音が響き、ぞろぞろと守護者たちが下りてきた。


 四人とサヨはあっという間に守護者たちに取り囲まれてしまった。

 自然と、アヤとサヨを中心にして、シノとユキとジウが背中合わせになった。三人ともそれぞれ、地下の部屋から拝借してきた槍や剣を構えたが、なんとも心もとなかった。


 ユキとシノはそれぞれ武芸も学んでいたし、ジウも、不真面目であったとは言え、一応剣の稽古は受けた。だが、守護者を、しかもこれだけの人数を相手にしたのでは、何の意味もないように思えた。


「なあ、どーすんの、これ」


 ジウは目線は守護者たちに向けたままで、すぐ隣のユキに言った。


「さあ、どうしようか」


 ユキも小声で答えた。


「何とかして、下、戻らなきゃ」


 反対側からシノがそう言った。


「ジュナだっけ? 彼女を突破する自信はないな」


 ユキが冷や汗を額に浮かべて言う。それについては、全員が同意見だった。


「気をつけろ、さっき天井から槍が落ちてきたのは、明らかに魔法だ」


 アヤが背後から言う。


「気をつけろって、気のつけようあんの?」


 ジウは思わず笑いながら言った。八方塞がりとはこういうことを言うのかと、呑気なことを思った。



「危険因子」



 ジュナの声が、冷徹に響いた。


「排除する」


 その言葉と同時、周囲の守護者たちが一斉に動いた。

 槍をこちらに向かって、一糸乱れぬ動きで全員が突き出している。

 ジウたち一点に槍が集中する。


 ガシャン――と揃った音が、大きく鋭く響く。


 ジウは眼前に剣を掲げ、槍を防ごうとしながらも、己の身体が貫かれることを覚悟して目を閉じた。

 しかし、痛みどころか、剣に何かが当たる感触すらなかった。


 恐る恐る目を開けて見ると、守護者たちの槍は寸でのところで全て止まっていた。


 守護者たちの腕や足は震えており、槍の切っ先も僅かに揺れている。

 まるで、見えない何かに阻まれているようだった。



「何だ?」

 ユキが震える声で言った。

 ジウはジュナを見た。表情は全く変わっていなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る