それは悲しみか憤怒か戸惑いか

 少女はハッとして顔を上げた。

 守護者の気配が一つ、消えた。


 ――これは。この気配は。


 いつも自分をベッドに連れて行ってくれたあの守護者のものだ。

 どうして。何故。

 彼はまだ駆動限界まで何十年とあるはずだ。

 こんなことは今まで無かった。

 エトランゼの手を強く握ってみても、答えは返って来なかった。

 アサの気配がジュナと共に移動を始める。

 ずっと隠されてきた、禁忌の一つ。

 タイヨウを呼び寄せる危険因子。

 とうして突然出現したのか。

 あんなものが現れなければ、こんなことにはならなかったのに。

 少女は自分の中に渦巻く、名前も忘れてしまった感情を、どうすることもできないまま、だた、エトランゼの手を握っていた。



 ――逆らったのか。

 男は静かに、青年の冥福を祈った。

 とうの昔に、心は死んでしまっていたようなものだったが、それでもその心は、最期に息を吹き返した。

 男は涙を流していた。

 運命としか言いようのない奇跡に。

 その悲しみの深さに。

 止まっていた時が、急激に流れを取り戻すと、壊れてしまう。

 最初に説明されたリスクを思い出した。

 ――ああ。それでも。

 この街はもう目覚めなくては。


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