憂慮

 動き出した。

 少女は顔を上げた。

 すぐ前に、ジュナがいる。

 少女がジュナに命を下そうと口を開いた瞬間。

 握りしめているか細い手から、ぐるぐると渦巻く激情が流れ込んでくる。

 部屋の入り口に、非常事態を告げる為に守護者が駆け込んできた。

 少女は意識を塔内部に集中する。

 この気配は――。

「タイヨウが、動いたの?」

 初めてのことだ。

 ジュナは無言だが、気配を察して殺気立っている。

 ――この忙しい時に。

 少女は本当に久しぶりに、ひどく困惑した。

 こんな時、何て言うんだったか。

 少女には、口をついて出ようとした言葉が何だったか、解らなかった。


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