蔦の隠れ道
ジウとユキは、こんなに必死になったことはないというくらい、必死で駆けていた。
いくつかの角を曲がり、ユキは大きな屋敷の前まで来ると、壊れて曲がった柵の隙間から敷地内へ入った。
「お、おい!」
「大丈夫、空き家だ! 早く!」
ジウはユキの行動に驚きながらも、言うとおりにするしかなく、渋々柵の隙間をくぐった。
屋敷は、すっかり暗くなった中でも、その大きさがよく分かった。敷地は広く、闇の中にさらに黒くそびえる館の影も、ジウの家より大きいように見えた。空き家となって随分経つのだろう。庭は雑草や小石や、瓦礫などで荒れ果てていた。
ユキは迷うことなくどんどん進み、裏庭の端にある白い蔦でできたトンネルのような所へ入った。
よそ見をしていたジウは、慌てて後を追った。
「おい、ユキ」
中はさらに暗く、すぐ目の前のユキの背中がようやく見える程度だった。
入ってすぐ、ユキは足を止め、ジウを見て人差し指を口元にあてて静かにするよう指示し、トンネルの中から外の様子を探った。
「もう追って来ないみたいだな」
そう呟いて中に戻ってくると、足元にある木箱を開け、慣れた手付きで蝋燭と燭台を取り出してセットし、コートのポケットからマッチを取り出して火を点けた。
「は? 何それ」
「灯りがなきゃ、危ないでしょ」
ジウの問いに、ユキはいたずらっぽく笑って答えた。
「落ち着いて話せる場所までもう少しだ。行こう」
ユキはにっこり笑ってトンネルの先を指した。
ジウは先程から、日常からかけ離れたことばかり起こって、もはや投げやりな気分になっていた。
「もうどうにでもしてくれよ」
ため息混じりでユキの後に続く。ユキはいつもより早足で歩いていく。
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