屋上にて2

 アヤは急いでサンドイッチを口に詰め込むと、もぐもぐと咀嚼しながら、本を受け取った。

 茶でサンドイッチを流し込んでから、一項目をめくって、そこに書かれている文章を指さして話し始めた。

「ここには、この本を封印するっていうような内容が書いてある」

 シノが首を傾げて「フーイン?」と言った。

「簡単には見れないようにするってことじゃない?」

 とユキが答えた。

 アヤは、文章を指でなぞりながら読み上げた。

「この記録を、我が血族の末裔たる者が望む時まで封印する。再びこの記録が顕現する時は、カゴミヤ計画終了の時であると強く願う」

 アヤはそこまで読み上げると、次の項へ進んだ。そこから先は、手書きの文字でびっしりと紙面が埋め尽くされている。シノが「うえ」と声を上げ、ユキも目を見開いた。

「王歴一〇七八年。赤の月十二の日。戦況の深刻な悪化が予想される為、カゴミヤ計画を発動可能状態まで進めることを、王に進言する。以後の記述は、王に献上した計画書と相違無きものであると、ここに宣言する――ここは、この文章で始まってる。解読できたことを全て読み上げることもできるが、ここで全てを読み上げるにはあまりに膨大だ」

 シノは既に「難しくてよく解らない」と言いたげな顔をしている。

 ユキが、教師に質問でもするように、手を軽く挙げた。

「ね、王ってさ、王様ってヤツ?」

 この街には、遥か昔「王様」なる人間がいたらしい。今では、満月の塔が全てを管理しているが、古代には「王様」と呼ばれる代表者が、多くの実権を握り、街を統括していたらしい。アヤのような研究者達の努力により、その存在が知られるようになったが、いつ頃からいなくなってしまったのかは不明なのだそうだ。

 今は、アヤが所属している「王立」研究所のように、団体や施設の名前に「王」という文字が残っているだけだ。

「そうだ」

「でも、王様って、今はもういないんでしょ」

「ああ」

 ユキの問いにアヤが答える。ユキはどんどん眉間のしわを深くしていく。

「しかも、いなくなったのがいつかは、昔すぎて解んないんだよね」

「ああ」

 この辺りで、ジウもユキが考えていることが解ってきた。シノは一人解らないらしく、きょとんとしている。

「え、ナニナニ、どうしたの?」

「この記述が本当で、本当にこれと同じものが王様に提出されたんなら」

 ユキがほとんど独り言のように呟くと、アヤが続けた。

「王がこの街にいた時代。何百年も、下手したら千年以上かもしれないくらい昔に書かれたものってことになる」


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