第72話 再戦、唯とビューリカ

 輸送ヘリから飛び出した唯と彩奈は、接近する魔物の群れへとたった二人で立ち向かっていく。ガーゴイルのような形状をした飛行型魔物は一体でも厄介なものだが、それが数十体の軍勢として現れれば脅威である。


「いくよ、彩奈。敵を引き付けよう」


「ええ、そうね。まずはヘリの着陸が無事に完了するよう私達で陽動をしないとね」


 味方のヘリは着陸の体勢を取っているが、それが終わるまでは無防備な状態だ。そこに攻撃が叩きこまれれば一巻の終わりである。

 唯は持ち出したヤクト・バズーカを構え、トリガーを引く。もはや狙いなど定める必要もなく、目の前に迫る敵へと弾頭が発射された。


「よし、まずは牽制になったな」


 弾頭は飛行型魔物の一体に直撃して爆発、周囲を飛んでいた二体をも木っ端微塵にして陣形を崩すことに成功した。

 そこに彩奈が斬り込んでいく。素早く敵軍の懐へと潜り込み、刀を振るって近くの個体を両断する。


「もう一撃……なにッ!?」


 再びバズーカを構えた唯だが、鋭い殺気が向けられているのを感じ取って回避行動に移った。

 直後、彼女がいた位置を魔弾の光が駆け抜けていく。


「チッ、ヤツか!」


 魔弾はかなり正確な狙いで、直感と同時に行動していなかったら撃たれていただろう。こういう思い切りの良さは流石歴戦といったところで、不慣れな者であったら感づいても避けられなかった。

 その射撃がした方向に目をやると、他とは違うプレッシャーを纏った人型が杖を構えているのが見えた。距離はあるものの魔力によって強化された視力で捉えており、ミリアの姿をしたビューリカで間違いないと確信する。


「ビューリカめ…!」


 唯はビューリカを視界の中に置きながら、飛行型魔物への対処もやってのける。バズーカを撃ち込み、至近距離まで肉薄してきた敵は剣で切断した。


「唯さん、ヘリは全機着陸しましたわ。コチラも援護を行います」


「頼むね。私はビューリカを見つけたから、アイツを狙う」


「お気を付けて」


 ヘリが着陸したのなら敵の気を引き続ける必要はなく、唯は地上からの魔弾による援護を受けながらビューリカへと飛翔していく。この怨敵さえ倒してしまえば事態は収拾できるわけで、敵将の首を討ち取るという気迫に満ちた唯はビューリカへと弾頭を撃ち出す。


「オマエとやり合えるのを楽しみにしていたよ!」


 弾頭を躱したビューリカは、杖から剣へと魔具をチェンジして斬りかかる。彼女にとっても唯は計画を台無しにしてくれた恨むべき人間であり、自らの手で仕留めたい相手であった。


「今度こそ貴様を仕留める、ビューリカ!」


 近接戦では不利となるヤクト・バズーカを捨て、唯は右手に剣、左手に刀という二刀流スタイルへと切り替える。この戦い方は神宮司のものを真似たやり方で、見様見真似であるが充分な実力を身に着けていた。


「こんな魔道巡洋艦を手に入れてどうする気!?」


「何故にオマエに私の考えを話さなければならんのだ? 関係ないだろう」


「関係ないわけないでしょ! 貴様さえ地球にやって来なければ、私は…!」


「ふ、メイムに弄ばれたことか?」


「貴様ッ!!」


 メイムに捕まって辱められた時のことを嫌でも思い出し、唯は強い殺意を宿しながらビューリカの頭部を狙う。


「怒りで鈍っているぞ?」


「クッ…!」


 激怒の感情は身体の力を増幅させる効果があるが、動きの精彩を欠くという欠点もある。事実、唯の剣筋は乱れ、ビューリカは容易に躱してみせた。


「ダメだな、こんなでは……もうコイツだけには負けるわけにはいかないんだ!」


 ここでヘタを打って敗北すれば、それこそ過去の二の舞だ。今度こそ確実に殺されてしまうだろう。

 唯は昂った感情を必死にコントロールし、ビューリカの斬撃を防御する。


「よくも防いだな」


「負けるわけにいかないと言ったでしょ。貴様に好き勝手されて、これ以上の被害を出されては困る」


「オマエ達のような虫ケラがどうなろうと知ったものか」


 ビューリカは唯を弾き飛ばし、更なる追撃を行う。このまま力で押し込んで勝負を終わりにしようと考えたが、


「させない!」


 間に彩奈が割って入る。飛行型魔物の半分を撃破し、残りは対空射撃を行える舞に託して唯の支援に来たのだ。


「オマエも弱いクセにでしゃばるな!」


 後少しで唯を仕留められたというのに邪魔をされ、ビューリカは不愉快そうに眉を下げながら彩奈の連撃を的確に防御した。


「確かに私個人ではアナタ以下かもしれないわね。けれど、コッチは一人じゃないわ」


 彩奈と鍔迫り合いをするビューリカの背後に唯が迫る。挟み撃ちをするようにしてビューリカを撃破する算段のようだ。


「だからどうした。私ならば二人同時に相手をするなど造作もない」


 焦る様子もないビューリカは彩奈を蹴り飛ばして、唯の刃から急降下して逃れる。翼を用いた飛行戦においてもビューリカに分があり、唯と彩奈の気配で位置を感じ取りながら双方の攻撃に対応していた。

 そのビューリカの善戦もあり、スムーズに魔道巡洋艦の修理を終えたエリュアはブリッジに移動して機器を操作する。スマートフォンなど他の機械類には疎いのだが、以前に居城としていた魔道戦艦の操作経験が活き、似た構造であるこの艦艇も上手く操ってみせた。


「よく分かりませんが、前に乗っていた艦はこんな感じで動いていましたし、大体同じやり方でいけるでしょう……それ!」


 操舵スティックを引き起こすと、エンジンが唸りを上げて艦体が浮上を開始する。全長約二百メートルにも及ぶ巨体が重力に逆らってグングンと高度を上げ、その様子を唯も目撃した。


「しまった…!」


「エリュアめ、よくやってくれたな」


「しかし、ここで夢幻斬りを叩き込めれば!」


「やらせんよ!」


 必殺の一撃である夢幻斬りを発動するべく唯はビューリカから離れるが、そのビューリカからの魔弾攻撃に晒されて回避に専念せざるを得ない。

 しかも、魔道巡洋艦に搭載された砲塔が稼働して、ビューリカを支援するべく魔道光弾を連射してきたのだ。


「唯さん、作戦は失敗です。そこは危険ですから後退してください!」


「けれどッ…!」


「ここは作戦を変更するしかありません。追撃戦をやるにはリスクが高すぎますし、唯さんも彩奈さんも失うわけにはいかないのですわ」


 空中戦をやれる唯と彩奈ならば追う事も可能だが、おそらく決着が付く前に魔力切れが先にくるだろう。そうなれば墜落して死は免れられない。

 二人を失いたくないという本気の心配を見せる舞の言葉に唯は頷き、やむを得ず戦闘を中断して彩奈と共に引き上げる。


「所詮はガイアの民モドキといったところか。そんなんで私に張り合ってくる度胸は認めるが、勝てはせんよ」


 あざ笑いながら見下すビューリカは、生き残った飛行型魔物を連れてエリュアが操る魔道巡洋艦へと乗り込む。

 唯は拳をキツく握り絞めながらも、大空へと消えていくその艦影を見送ることしか出来なかった。

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シフト 裏世界への扉 ヤマタ @YAYM8685

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