16.景色描画
消えろ消えろ
消えろ無くなれ私
息ひきとることなく絶えて
そのとき昼見た橋の
光景を思っていた 手にペンをもち何度
思い起こしても言葉に尽くせない
景色は
情動を喚起し情動は
景色を構成した諸要素によって
諸要素が分かちがたく描かれた景色によって
私をして構成し
ひとつの印象を
一挙に映しあげていた
用紙の上空で宙吊りのペンは
風のように吹く無数の言葉に晒されて留まり
景色をほどくための
断つべき玉止めを探して迷っている
これを採ればあれを捨てる
あれを採ればそれを捨てる
どれをか採るとき捨てられるその他をまで
書き付けられないなら書けない
光景
絶句ののち
意を決し
他を滅し
言葉を選び
雲間を裂いて
紙面にむけて
滑空へ移る
が
がっ
と風が阻む阻んだ風は
励起し 吹き上げた
それで
中空で 埋められるべき
一字目を
いつまでも
決めかねてまだとどまる
描写不能
景色はいち時にあり
いち時に情動のわけがある情動の
わけを語る言葉は景色を拒む 用紙の上の
乱流がこそ書かれるべき
乱流がこそ
景色だった
言葉 言葉
渦なす比喩の
すずろなしじま
間に間に浮かぶ
意識の綱をつないで
なつく言葉はなく
言葉 言葉
しじまに絶した
消えろ消えろ
消えろ
無くなれ私
無くなれ
無くなれ
無くなれ
私
景色静謐
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