【小説】『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』を読みました。思っていた以上にアクションものだった

2022年3月21日






 先月は第9回ハヤカワSFコンテストの受賞作を読みましたけど、そういえば去年の受賞作品を読んでいないことに気がつき、いい機会というか、そのままの流れで第8回ハヤカワSFコンテスト受賞作を読んでみることに。


 タイトルは『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』ですけど、まあ、このタイトルも紆余曲折でタイトルだけは知っていた作品でもあったのですけどね。








  書籍情報



  著者:竹田人造


 『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』


  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版


  刊行日:2020/11/19



  あらすじ(Amazonより転載)

 首都圏ビッグデータ保安システム特別法が施行され、凶悪犯罪は激減―にもかかわらず、親の借金で臓器を売られる瀬戸際だった人工知能技術者の三ノ瀬。彼は人工知能の心を読み、認識を欺く技術―Adversarial Example―をフリーランス犯罪者の五嶋に見込まれ、自動運転現金輸送車の強奪に乗り出すが…。第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。人生逆転&一攫千金!ギークなふたりのサイバー・ギャングSF。








 去年のことですけど、ネット上において少し話題になった改題騒動の作品がこれ。改題前、応募時のタイトルが『電子の泥舟に金貨を積んで』で、そこから『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』に改題されたことが賛否両論となりました。その騒動故にタイトルだけは知っている作品となったわけです。


 まあでも、どうなんでしょうね? 改題前は文学的なセンスを感じさせる一方、改題後はまるでライトノベルだとして否定意見が多数ありましたけど、むしろライトノベルというよりは新書のタイトルっぽいかな? でもまあライトノベルとかに見られる説明系タイトルのように「ああ……人工知能で10億ゲットする話か」とタイトルだけでなんとなく内容を察してしまうのですけどね。商業作品で売上を出さなきゃならない以上わかりやすさ重視なのは理解できますので、まあ仕方がないのかもしれません。


 この改題騒動のまとめがありましたので一応貼っておきます。



 小説の新人賞受賞作が激論の末改題→賛否の声が続出。改題の意図とは。何故否定的意見が散見するのか

https://togetter.com/li/1608999






 さて実際に読んでみた印象としては、これは改題後の方が相応しいのでは、と思えましたね。というのもこの作品は所謂クライムもの、もしくはサイバーものであり、実にエンタメ的な物語となっている。所々に映画作品のパロディネタがあり(というか主人公の相方が映画マニア)、エンタメ作品としてのノリのよさみたいなものがありますね。


 そして大掛かりで大規模な犯罪を仕掛けるストーリーは緊張感があって、クライムサスペンスとしての面白さもあるといったところ。アクションシーンなんかもあって、これ映画にしたら映像映えしそうだなあと、読みながら思いましたね。


 というか人工知能で10億ゲットする話として読みはじめましたけど、想像以上に主人公たち自身が活躍していました。人工知能ものということでサイバー作品的なカチャカチャカチャ……ッターン!みたいなシーンは意外となく、結構派手なシーンばかりでしたね。








 まあその、カチャカチャカチャ……ッターン!みたいなシーンはないものの、とはいえ人工知能を題材にしたサイバー作品ですので、技術的な説明は多め。というかSFらしい科学的描写の代わりに技術的な描写をしている感覚がありましたね。まあ科学的と技術的のどこがどう違うのかはわかりませんが。科学は科学でも工学的なアプローチなのかも。


 そしてこの技術的な話が、まあその結構難解でして、ITに対して一般ユーザーでしかない自分としてはよくわかりませんでした。とはいえなんとなくリアリティありそうかなと感じる程度には理解できたかと思います。まあわかってないのですけど。


 このあたりは今年の受賞作である『サーキット・スイッチャー』の方がうまかったですね。


『サーキット・スイッチャー』もIT系のクライムサスペンスという点においては似ているのですけど、『サーキット・スイッチャー』では専門家の人物の他に素人の人物も登場して、話の都合上この素人の人物に説明して理解させることで間接的に読者に対しても簡潔な説明に落とし込むことができるという、創作テクニックを工夫されていました。また説明シーンを地の文ではなく解説役と素人役の会話劇にすることもできるので、よりわかりやすい描写になったのかも。


 一方今回の『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』では、主人公が専門家として地の文で説明しているのですけど、見方によっては結構独りよがりな説明になっていまして、ある程度技術的な知識があることを前提とした書き方になってしまっているのは惜しいなと感じました。なんでしょう、相方に説明するていで会話劇に落とし込めそうでもありましたけどね。









 という感じで去年の受賞作を読みましたが、クライムSFとして読み応え抜群で個人的にとても楽しめました。これ優秀賞ですけど、大賞でもよかったのではと思いました。



『電子の泥舟に金貨を積んで』改め『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』の感想でした。








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