第45話・初めてのパーティー

 文化祭も無事に終わって十二月に入ると、あとはいつもの様に年が明けるのを待つだけだ。

 こう言うとクリスマスはどうするんだと言われそうだけど、俺にとってのクリスマスってのは、部屋でのんびりとゲームの美少女達と過ごす日である。

 言っておくけど、そんな過ごし方を寂しいと思った事など一度も無い。沢山の美少女達とイチャラブできるんだから、楽しい事この上ない。


「お兄ちゃん。飾り付けは終わった?」

「おう! もう少しで終わるぞ」


 冬にしては珍しく、太陽の光が眩しくも暖かく感じる午前九時頃。

 リビングの壁にクリスマス特有の飾り付けをしていた俺は、明日香の問い掛けにノリノリでそう答えた。すると作業の手を止めていた明日香はそんな俺を見てにっこり微笑んだあと、再びツリーの飾り付けを再開した。

 俺達がしているのは言うまでもなくクリスマスの準備だが、去年までの俺ならゲームの美少女達と過ごして終わりなだけの日だった。

 それじゃあどうして今年はそんなに浮かれてクリスマスの準備をしているのかと言えば、去年までは独りだったからそうしてたけど、今年は明日香が居るのに部屋に引きもって美少女ゲーとかしてたら明日香に悪いからだ。

 それに明日香にとっては初めてのクリスマスだし、楽しませてあげたいと思うのが兄心ってもんだ。

 そして今日は十二月二十四日のクリスマスイヴ。人によっては強く記憶に残るであろう特別な日だ。だから今回、俺にはどうしてもやりたい事があった。


「みんなとクリスマスパーティーなんてワクワクするなあ。ねえ、お兄ちゃん」

「そうだな。楽しいクリスマスパーティーにしような」

「うん♪」


 満面の笑顔を浮かべて元気に返事をする明日香を見ながら、俺は更に気合を入れて飾り付けを進める。俺がここまで気合を入れて準備をしている理由。それは、明日香の生前に大きく関係している。

 俺は以前、サクラの力によって明日香の生前の一部を見て来た。そしてそんな明日香の生前は、お世辞にも幸せだったとは思えない。

 生前の明日香はクリスマスイヴの夜に寒空の下の公園でその生涯を閉じた。言ってみれば今日は、生前の明日香の命日みたいなものだ。だけど明日香はそれを覚えていないし、それを知られてはいけない。今の明日香が今の明日香で在り続ける為に。

 まあ結局のところ、俺は明日香にクリスマスパーティーを思いっきり楽しんでほしいだけだ。それにこのクリスマスパーティーでは、ささやかながら生前の明日香の望みを叶えてあげたいと思っている。


「――おっし! できた!」

「私も終わったよ!」


 ご近所に住んでいる老夫婦から頂いた、俺の背丈ほどの高さのクリスマスツリー。椅子の上に立ってそのツリーを飾り付けしていた明日香が、綺麗に飾り付けたツリーを見ながら満足そうに頷いていた。


「おー、凄いじゃないか。綺麗に飾り付けできてるな」

「えへへっ♪」

「よし。それじゃあツリーに電飾を巻き付けるとしますか」

「おーう!」


 俺はリビングの床に置いていたツリーの飾り付け用電飾をツリーへと巻き付けていく。


「どうだ明日香? こんなんで良いと思うか?」

「お兄ちゃん。どうせなら電気を入れてみない?」

「そうだな。その方が分かりやすいか」


 俺は電飾のプラグを近くのコンセントへ差し込み、ツリーから延びる電飾のスイッチを入れた。


「わあー! きれーい!」

「おおー。こうして見ると結構雰囲気良いな」


 クリスマスツリーに飾った電飾は、赤色・青色・緑色・黄色と様々に色を変えながら点滅と点灯を繰り返し、その光はラメ入りの飾りなどに当たってキラキラと反射している。

 スイッチを入れるまではこんな感じでいいのかと思ったりもしたけど、こうして見るとその出来栄えはなかなかのものだ。


「バッチリだね! お兄ちゃん」


 クリスマスツリーを遠目に眺めていた俺に向かい、明日香は右手を真っ直ぐ前に突き出して親指を立てた。


「そうだろ?」


 それを見た俺はちょっとしたドヤ顔を浮かべながら、明日香と同じ様に右手を前へと突き出して親指を立てた。そしてそんなお互いの姿を見た俺達は、どちらともなく笑い始めた。

 そんな和やかで楽しい雰囲気の中で作業は進み、お昼を迎えるまでには飾り付けの全てを終える事ができた。

 そして飾り付けを終えて軽く昼食を済ませたあと、俺達は今日の夕方から自宅で開催するクリスマスパーティーでやるプレゼント交換会に出す品物を買う為に、一駅離れたデパートへと電車で向かっていた。


「プレゼント、何にすればいいかな……」


 クリスマスパーティーをやると決めてから今日までの間、明日香はずっとプレゼントの事で悩んでいた。本当ならパーティの前日までにはプレゼントなどは揃えておくべきだろうけど、考えがまとまらない明日香の為に、ギリギリまで買いに行くのを待っていたのだ。

 しかしパーティの開催を決めてから二週間が経っても明日香の考えはまとまらなかったらしく、電車に揺られているこの瞬間も、こうして口癖の様にそんな事を呟いている。

 俺もこうしたパーティーをするのは初めての経験だから偉そうな事を言えたもんじゃないけど、自分がこれを貰ったら嬉しいと思うものでいいんじゃないか――という事だけは明日香に伝えておいた。

 だけどその発言が更に明日香を迷わせる事になったらしく、今日までプレゼントを用意できなかった原因の一つとなったのは間違い無いだろう。

 まあ、せっかくのクリスマスパーティーなんだから、悩めるだけ悩んでみるってのも悪くないと思う。なぜならこうして悩んでいる時間でさえ、あとになれば楽しかったと思えるだろうから。


「――それじゃあ、ここからは別行動だね」


 デパートへ着いた俺達は、さっそく目的のプレゼント選びを始めようとしていた。


「そうだな。とりあえず一時間後には決まらなくてもここに集合だぞ?」

「うん。それじゃあ、色々と見て来るね」


 そう言って軽く手を振りながら、明日香はエントランスホールを離れてエスカレーターの方へと向かって行った。

 何度か明日香とこうしてデパートへ買い物に来た事はあったけど、こうした高層の建物で買い物をする際には、必ず一番上の階まで行ってから順に下の階へ店を見て行くのが我が妹の恒例買い物パターンとなっている。ちなみに俺は、見て回る順番に特別なこだわりはない。


「さてと、俺も行くか」


 小さくそう呟いたあと、俺はエントランスホールにあるお店の位置を示した案内板を見に行った。

 このデパートは地下一階から八階まであるけど、じっくりと店を見て回るなら一時間くらいではとても足りない。明日香もそのあたりはちゃんと考えているだろうから、俺もそれなりに見当を付けて店を見て回る必要がある。

 案内板を見ながらいくつか見て回る候補の店を選び、そのまま明日香と同じ様にエスカレーターへと乗って候補の店がある階へと向かう。

 地下一階と一階は食料品関係のフロアになっているので、最初っから除外。俺は雑貨店などが集中している四階と五階部分を中心に見て回る事にした。


× × × ×


 いくつか候補の店を回ったあとで最終的に決めた品を買った俺は、明日香と待ち合わせの約束をしたエントランスホールへと戻りながら、プレゼント用に包んでもらった品を見て満足していた。


「あっ、お兄ちゃん!」

「待たせたか?」

「ううん。私もついさっき戻って来たところだから」

「そっか。で、散々悩んだ末に選んだプレゼントは何なんだ?」

「ん? えっとね、色々と迷っちゃったけど――あっ!? 中身はパーティーまで内緒だもん」


 ついつい中身をばらしてしまいそうになった事に気付き、明日香は慌てて持っていた箱を抱き包む様にしてから口をつぐんだ。そんな明日香の仕草が、なんとも可愛らしい。


「そっかそっか。それじゃあ帰ったら、琴美の手伝に行こうか」

「うん!」


 二人で大事なプレゼントを抱えてデパートを出る。

 そしてそのまま今日開催するパーティーの話をしながら、俺達は楽しく自宅へと帰った。

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