第43話・ちっちゃ可愛い女の子
怪しげな行動を見せるサクラに気付かれない様にそのあとを追っていた俺達四人は、サクラが入って行った出店にこっそりと入店し、サクラの視界に入らない位置の席に座ってメニュー表で顔を隠しながらこっそりとその様子を窺っていた。
「ねえ、お兄ちゃん。サクラは何をしてるのかな?」
「さあ? でも、誰かのあとをつけている様に見えたけどな」
教室内に長机を並べたこの店は、俺の所属するクラスと同じく喫茶店をやっているみたいだけど、お昼時を過ぎたというのに、未だ多くのお客さんで賑わっていた。
少し縦長の教室内にある長机は、黒板のある方から横向きで二列、それが同じ様に八列ほど配置されている。
そして俺達は一番後ろの廊下側に近い席でサクラに背を向ける形で座り、適当に飲み物を注文してからサクラの様子をチラチラと見ていた。
そんなサクラは前から三列目の校庭側にある席に座っているんだけど、そこでメニュー表で顔を隠しながら、廊下側にある前の方の席を見ている感じだった。
「サクラは何を見てるんだ?」
「どうもあそこに座ってる子を見てる感じがするね」
サクラと同じ様にメニュー表で顔を隠しながら様子を見ていた拓海さんが、俺の呟きに対してそう言いながら指差しをした。
そして俺がその指差された方を見ると、そこにはゲームに出て来る魔法使いが被っている様な、黒のとんがり帽子に黒のローブといった格好をしている人物の姿があった。
その人物が居る机の上には可愛らしい仔猫のイラストが描かれた黄色の小さな鞄があり、それを見る限りではその子は女の子だろうと思えた。
それにしても、その人物はかなり背が低い。座っている椅子から見える足はプラプラと前後に揺れていて、まったく地に着いていない。
「かなり幼い子に見えますね」
「そうだね。見た目で言えば、小学校一年生くらいってところかな?」
俺の言葉に拓海さんがそう答える。上背だけで考えれば、拓海さんの言っている予想は正しいと思う。
それにしても、その子の様子を窺っている時に見せるサクラのニヤニヤとした表情は、見ている俺としてはかなり不気味だ。
それにこちらの予想通りにあとをつけていた相手があの子だとして、サクラがあんな小さい子をつけ回す理由とはなんだろうか。
――まさかアイツ、実はロリコンなのか? だから好みの幼女を見つけてあとをつけ回しているとか? いやいや、いくらなんでもそれは考え過ぎだよな。いくらサクラが変わった奴だと言っても、そんな事は無いよな。ハハハッ……。
そんな事を思いつつも、その考えを完全否定できない自分が居るのも確かだった。
「あっ、お兄ちゃん。サクラが移動するみたいだよ」
「よし。俺達も行くか」
「ここの支払いは僕がしておくから、涼太君は二人を連れてサクラさんの方を頼むよ」
「了解しました」
探偵の真似事の様な事をしているせいか、俺達は妙な連帯感でサクラの追跡を続行する。
それにしても、あの拓海さんまでもがこの追跡を楽しんでいる感じに見えるけど、拓海さんも案外こういったノリには乗っかる方なのかもしれない。ちょっと意外な感じはするけど、俺もこの雰囲気に飲まれてワクワクしているんだから、人の事をどうこう言う事はできない。
そしてそれからしばらくの間サクラの追跡を続けた結果、やはり例の黒とんがり帽子の女の子のあとをつけているのは間違い無い――という結論に俺達は至った。
「――涼太君。そろそろサクラさんに声を掛けてもいいんじゃないかな?」
「そうですね。これ以上観察してても何も分かりそうにないですし」
なぜか喫茶店ばかりに入る事になって三件目。俺は拓海さんにそう言ってから席を立った。
そして俺は黒とんがり帽子の女の子を見ているだけのサクラに対し、いよいよ接触をしてみる事にした。
「サクラ」
「ひゃうっ!?」
近付いて横から声を掛けると、サクラは相手を見る事に集中していたからか、ビクッと身体を跳ねさせて驚いた。
「な~んだ、涼太君か~。ビックリした~」
「何やってんだ? こんな所で?」
「ええーっとねー、それはねぇ――」
サクラは視線をあちこちに泳がせながら、言葉を選んでいる様に見えた。
「どうしたんだよ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ、涼太君。今どう言い訳をしようか考えてるんだから」
「…………」
語るに落ちるという言葉が世の中にはあるけど、この場合はサクラの単純な自爆としか思えない。
まあ、コイツは性格からして嘘をつくのが下手そうだし、いかにもサクラらしいと思う。
「サクラ隊長!? こんな所で何をしてるんですか!?」
腕を組んで言い訳を考えているサクラを見ていると、少し離れた場所からそんな声が聞こえてきた。
「ヤバッ!!」
その声を聞いたサクラは組んでいた腕をサッと解き、素早く机の上にあったメニュー表で顔を隠した。
そして俺が声のした方を見ると、例の黒とんがり帽子の女の子が、険しい表情でこちらの方を見ていた。
「なあ、サクラ。あの子は知り合いなのか?」
「ワ、ワタシハ、サクラデハアーリマセン」
俺の質問に対し、サクラは
そんなサクラを見たあとで俺が再び女の子の方へ視線を向けると、その黒とんがり帽子の女の子は、相変わらずの険しい表情でこちらへと歩いて来た。
「サクラ隊長ですよね?」
「ヒ、ヒトチガイデース」
「さっきから何なんだ? その似非外人みたいな喋り方は」
思わずそう言った俺に対し、サクラはこちらに顔を向けて口元に人差し指を当て、シーッと言ってくる。
どうやらこの女の子と接触するのがマズイみたいだけど、既にこうして本人が来ている以上、ここから誤魔化すのは不可能だろう。
「もうっ! サクラ隊長! いい加減にして下さいっ!」
「あっ!?」
女の子はサクラに向かってそう言うと、メニュー表で顔を隠しているサクラからメニュー表をサッと取り上げた。
「やっぱりサクラ隊長じゃないですか……」
「えへへっ♪ 見つかっちゃった♪」
「こんな所で何をしてるんですか? サクラ隊長。確か今日は、天界で大事な報告会があるとか言ってませんでしたか?」
「あー、えっとー、それはねぇ……」
「サクラ。この子は知り合いなのか?」
「あっ、涼太君は会うの初めてなんだっけ? この子はね、私の妹みたいな子で、それでいて私の部下なの。名前は――」
「あれっ? やっぱりプリムラちゃんだ」
サクラが女の子の名前を言おうとした瞬間、後ろから由梨ちゃんの声が聞こえてきた。
「揉めてる様に見えたから来てみたんだけど、まさかプリムラちゃんだったとは思わなかったよ」
「あっ、由梨さんに拓海さん……」
二人にプリムラちゃんと言われた女の子は、少し恥ずかしそうにしながら顔を俯かせた。
――なるほど。この子が明日香の言ってた、由梨ちゃん達側の天生神か。聞いてた通りに可愛らしい子だな。
「今日誘った時には来ないって言ってたのに、どうしてここに居るの? プリムラちゃん」
「そ、それはその……」
「プリムラは甘い物に目がないから、大方文化祭のパンフレットでも見て、喫茶店に出てるケーキに興味が湧いたんでしょ~」
「うっ……」
サクラの言葉はどうやら図星だったらしく、プリムラちゃんは顔を真っ赤にして更に顔を俯かせた。
そんなプリムラちゃんの恥ずかしげな様子はなんとも可愛らしく、思わず頭を撫でてやりたくなる。
「そうだったんだ。それならそうと言ってくれたら良かったのに」
「だ、誰もそんな事は言ってないです! 勘違いしないで下さい!」
拓海さんが微笑みながらそう言うと、プリムラちゃんは慌てた様子でそう否定してきた。
「隊長も隊長です! 私が甘い物が好きだなんて嘘をつかないで下さい!」
「ええー! だってプリムラ、天界ではよくケーキの食べ歩きをしてたじゃない。私知ってるんだよ~?」
「そ、そんな事はしてません!」
「もぉ~、そんなに隠す事じゃないじゃないでしょ~? でも、そんなところも可愛いんだけどねぇ♪」
「ちょ、ちょっと隊長!? 止めて下さい!」
サクラはプリムラちゃんをキュッと抱き締め、身体のあちこちをヨシヨシと撫で始めた。
「やっ……そんな所を撫でないで下さい……」
「プリムラは本当に反応が可愛いなぁ~。ついつい苛めたくなっちゃう♪ ホレホレ♪ ここがええのんか~?」
「きゃっ!」
俺達四人が見ている前で、プリムラちゃんにセクハラ行為を繰り返すサクラ。
プリムラちゃんは恍惚の表情を浮かべるサクラのセクハラを受けながら、顔を紅くして悶えている。
「ここはど~お~? プリムラ~♪」
「い、いやっ……誰か助けて……」
そんな二人のやり取りを、苦笑いで見つめる拓海さんと由梨ちゃん。そして明日香は、サクラにセクハラを受けるプリムラちゃんを微笑ましそうに見ている。
そして俺はこんな状況の中、どのタイミングで助けに入ればいいのか分からず、結局サクラのセクハラ行為が終わるまでの間、その様子をじっと見ている事しかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます