第68話 last case エピローグ

 戦いすぎて、夜が明けて。

 すっかりと朝日の登ったカッパファームに、パチパチパチと場違いな拍手が響いて来た。


「いやー、みなさんお見事でーす」

「ザビエルてめぇ、何処に隠れたかと思ったら今更現れやがったのか」

「No、No、Noりんたーろうさーん。そんな怖い顔やーめて下さーい! ハッキリ言ってキモイでーす」


 飄々とした態度で現れた、包帯まみれのザビエルに対し。幾度も死闘を乗り越えた挙句、奥の手である河童インパクトまで使用した倫太郎は、息も絶え絶えながら緑色の顔でそう威嚇する。


「まて、倫太郎! 奴は何かを持っているぞ!」


 洞ノ助もまた緑の肌を晒しながら、倫太郎を止める。二人とも既にキュウリは咥えていない戦闘態勢を解除しているにもかかわらず、青々とした毒々しい緑色だ。

 それもそのはず、河童インパクトを使用すると、搭乗者は副作用として、一定期間河童の姿になってしまうと言う呪いが付いているのだ。

 哀れ二人のムサイ親子は、皮膚は緑で、手足に水かきが付き、頭には皿、背には甲羅と、何処に出してもおかしくない河童の姿となっていた。


「プッ、倫太郎君。プッ、そうよ、プッ、彼に戦う意思はなさそうに見えるわ」

「笑うか喋るかどっちかにしやがれ! この天狗女!」


 プルプルと肩を震わせながら倫太郎を諌める翔子に、倫太郎は突っ込みを入れつつ、ザビエルに先を促した。


「HAHAHA、いやー全く愉快な姿でーす。いいものを見せていただーきましーた」


 そう言ってザビエルは手にしたタブレットPCを倫太郎たちに向ける。そこには黒い画面が映っていただけだった。


「ん?」

「HAHAHA、大物がサウンドオンリーなのはお約束でーす。それでは皆さん、ボスとの対話をお楽しみくださーい」


 ザビエルがそう言って、PCを弄ったその後だった、画面にノイズが走り、暗闇の向うから声が聞こえて来た。


「テステス、アー、マイクテス。うーん、久しぶりに、一見さんと喋るのは緊張するのう」

「……あれ? 馬鹿じゃねこいつ」

「しっ! 倫太郎君! ここで突っ込むのはマナー違反よ!」

「あははは……」


 画面から聞こえて来たその恐るべく威厳溢れる様な気がしなくも無くも無い声に皆が一様に固唾を飲んだり飲まなかったりした後だ。

 その声の主は溢れんばかりのオーラを込めて、こう続けた。


「……ふっふっふ、一般労働者階級の諸君」

「やっぱ、馬鹿だろこいつ」

「しー、だから黙ってて倫太郎君! 倫太郎! ステイ!」

「翔子様、倫太郎さんは犬じゃありません」


「あー、ゴホンッ!

 諸君らの戦いは一部始終観戦させてもらった。いや見事、実に見事久しぶりに腹を抱えて大笑いさせて頂いた」

「んだと、このくそ爺。テメェ調子こいてんじゃねぇぞ!」

「はっはっは、元気の良い若造だ。じゃが忘れるな今の儂はカッパファームの大株主じゃぞ?」

「くっ!」


 ああ悲しきは資本主義経済。その一言はカッパファームに置いて必殺の一言だった。


「とは言え、儂は十分楽しませてもらった。今回は儂の負けじゃ、責任を取って原状回復させてもらおう」


 帝王から発せられた予想外の敗北宣言に、河童陣営から驚きの声が上がる。引き際が良すぎると言うよりもなお軽い。全くの遊びだったと言うような発言だったからだ。

 そして、事実この老人にとっては全てが遊び、ひと時の暇つぶしだったのだ。

 こうして、味気ないと言えばそうであるが、倫太郎の母美奈子の洗脳を含め、あっさりと全てが元に戻った。





「若さ、倫太郎さん。まだ元にもどんないんですかー?」

「うっせえな、俺に聞くな」


 あの事件から3日間。倫太郎は相変わらず河童姿のまま、事務所でひっそりと隠匿生活を送っていた。

 河童忍者の秘伝曰く。河童変化の期間は河童インパクトの操縦時間に比例する。秘伝書の通りだと、倫太郎の姿が元に戻るまでおよそ3週間の時間が必要とするだろう。


「でも、結局人死にも出なくてよかったですねー」


 散々暴れ回って敵味方とも被害甚大であったが、喧嘩が終わればノーサイド。洗脳から目覚めた美奈子の進言もあり、怪我人まるっと秘伝の河童軟膏での治療が行われたのだ。


「まぁ、一番の被害者だった母さんの命令なら仕方ない」


 デスクに座った倫太郎かっぱはやれやれと肩をすくめる。原状復帰の契約もそうだが、帝王からは見物代慰謝料も頂いてある。

 最初は100億円やろうと、金銭感覚のとち狂った提案があったが、それは此方も公安や税務署が動く騒ぎになってしまうと丁重にお断りし、現実的な金額に落ち着いた。


「まぁ取りあえず一件落着って事ですかね」

「そう言う事なのかねぇ?」

「あはははー、倫太郎さんは不完全燃焼かも知れませんが、現実的な落としどころとしちゃ十分上出来ですって。

 あのお爺ちゃんも話してみれば良い人みたいですし」

「良い人って、唯の我儘爺じゃねぇか。金と権力持ってるだけ性質が悪いタイプの」


 その性質の悪い老人とは現在も繋がっている。被害を受けた土地家屋人員の原状回復こそなされたものの、老人に取得された株はそのまま彼の元にあるからだ。

 それについては、美奈子もあえて本格的な対策することなくそのままにしてある。危険極まりない人物だが、あえて繋がりを残しておくと言う、彼女の攻めの決断だった。

 そしてその繋がりは唯の株券を介した繋がりと言う訳ではない、何処から調べたのか、いやかの老人にとっては容易い事だろう。倫太郎のSNSには老人のアドレスがいつの間にか登録されていたのだ。





 こうして、老人のお遊びに付き合わされた、河童探偵社の最も長い一日は数々の伝説や遺恨その他もろもろを残し幕を閉じた。

 今後も様々な怪事件が倫太郎を待ち受けているだろう。

負けるな倫太郎!立ち向か河童忍者!この町の平和は彼の肩にかかっている!

 河童倫太郎の愛と勇気が世界を救うと信じて!



Last Case 忍者探偵・河童倫太郎 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

忍者探偵・河童倫太郎 まさひろ @masahiro2017

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ