第67話 last case 決着編 5
「なに! 背後に食いつかれただと!」
全面、天狗忍者達と洞ノ助の猛攻の対処に全力を持って臨んでいたダニエルは、先ほど後方より聞こえて来た爆発音で全てが片付いたものばかりと思っていた。
だが、事の真偽は真逆のモノ。高々忍者一匹が張り付いた位どうと言う事ではない筈だが、気分の良いものではない。
等と、甘く思っていた。
そう、彼は忍者と言うものを甘く、甘くみていたのだ!
「後方! 敵忍者勢いが止まりません!」
「前方の奴らまだ粘ります! 増援を!」
「くっ!」
こちらは圧倒的多数、武装も練度も極東の猿共には及びもつかぬはず、そう思っていたダニエルの予想は裏切られた。
あとは包囲しすり潰すだけと思っていた予想は脆くも崩れ、たった一人に背撃されただけで、陣形に綻びが生じ始めていた。
「しょうがない、アレを使うぞ!」
今回ダニエルが用意して来た超級のプライズは2つある。
一つが、永久の妖精郷と呼ばれる、防御用プライズ。その効果は1日5回の完全回避、任意の集団を一時的に別次元へといざないあらゆる攻撃を無効化するものだ。
そしてもう一つが攻撃用プライズである。その名も――
「汝は大いなる災いの化身! 闇を総べる竜の王! 此の世すべての財を守り! 此の世全ての欲望を敷く! 顕現せよ! 汝の名は邪竜王ファヴァニール!!」
耳を劈く邪竜の咆哮がカッパファームに鳴り響く、そこに現れしは身の丈は10mを優に越し、尾の長さも含めれば全長は幾つになるのか見当もつかないと言う大邪竜であった。
ダニエルが携えたもう一つのプライズとは、この規格外の存在を召喚するものだったのだ!
「あわわわわ、なっなんですすすか、あれは!?」
「お父様! なんですのアレは!?」
「むぅ、奴らとんでもないものを持ち出してきやがったな」
そのあまりにもな存在感に明は元より、流石の翔子も度肝を抜かれる。
「天山! アレは例の!」
「おうとも洞ノ助! アレは確かに邪竜ファヴァニール。ひとたび召喚されちまえば辺り一面灰燼に帰さねば収まらないってとびっきりの厄ネタだったはずだ」
「くっ、奴らなんてもんを持ち出してきやがった」
しかし、洞ノ助の嘆きは邪竜には届かない。プライズ、邪竜王の逆鱗によって召喚されたファヴァニールはチャージタイムに数10年の時を必要とする代わりに、絶大な破壊力を持つ超級のプライズ、しかもその制御は基本的にほぼ不可能。大体の敵味方の識別こそつくものの、召喚された場所を彼のものの気が済むまで破壊しつくさなければ収まらないと言った、とびっきりに取扱いの難しい品物だ。
そして、その牙が目の前の洞ノ助たちを襲う。
絶体絶命のピンチその時だった!
「河童忍刀秘奥義、
召喚の隙を見た倫太郎が一気に軍勢の隙を見て、邪竜へと接近。高く、高く飛び上がった倫太郎は
「倫太郎!」
「小童!」
「倫太郎さん!」
「倫太郎君!」
地獄の闇よりなお暗い漆黒のブレスと、八岐大蛇にも例えられる苛烈かつ鮮烈な濁流が激突――!!
ぺちん
「うごげががが!!!」
――しなかった!
邪竜はブレスをキャンセル。まとわりつく小蠅を振り払うようにぺちんと倫太郎を叩き落とした。
邪竜にとっては軽く叩いた程度だが、叩かれた倫太郎にとっては大ダメージ。倫太郎は錐揉みを描きながら、地面に突き刺さる。
「てめぇこのトカゲ野郎! 何てことしやがる!」
ガバリと、血塗れになった頭を引き抜き倫太郎が抗議の声をあげると同時に、邪竜の口から暗黒の炎が放出される。
「ちょまっ!」
河童忍者は逃げ足にも長じる、倫太郎は流れる血を霧としながら目にも留まらぬ速度で逃げ出した。
「ちぃ、あのトカゲ野郎。思ったより知恵が回りやがる」
「当たり前ですわ! いきなりあんな大技使っても当たる訳がないですわ!」
「あわわわわ、翔子様! ドラゴンがこっちに来ます!」
どさくさに紛れ、本陣と合流した倫太郎だが、ピンチはびた一文遠ざかってはいない。邪竜のブレスは超強力。このままでは、買収云々の前にカッパファームが物理的に全滅するのは、それこそ火を見るよりも明らかだった。
「ちっ! クソ親父! こうなったら例のアレを使うぞ!」
「うむ、こうなっては是非もない。これより河童忍者の秘宝でもって害獣駆除に当る!」
倫太郎の提案に、洞ノ助が同意する。
「河童忍者の秘宝!」
それを聞き、明は午前中に社長室で聞いた事を思い出した。あの時は『河童忍者以外に価値は無い下らないもの』と濁された。こんな状況で不謹慎ながらも、他流派のプライズを見る事が出来ると言う事に彼女の薄い胸が高鳴る。
そして、その声はダニエルにも届いていた。そう、疑問と同時にだ。
彼が持っている情報では、河童忍者のプライズとは不老不死の妙薬のはず、この場で使ったとしても一挙逆転の手としては相応しくない。
そして、親子の声が上がる。
「「河童忍者超絶最終秘奥義!
その雄叫びが天に吸い込まれる。それと同時に分厚い雨雲が何処からともなく現れる。轟く雷鳴、降りしきる豪雨。天は割け地は怯える。そして空間に亀裂が入る。そこから現れしは――
「かっーーーーーーーーーぱぁーーーーーーーーー!!!!」
嗚呼、見よこの威容、この巨体! 天に轟くこの咆哮!
時空の裂け目よりカッパファームに舞い降りしは、これそこ河童の至宝、機械仕掛けの
「「………………………」」
その威容に、明とダニエルは閉口する。翔子は見て見ないふりだ!
アオウと邪竜が吼える。
かっぱと河童インパクトが応答する。
今ここに超弩級怪獣大決戦が開始された!
邪竜ブレス!
河童超パンチ!
邪竜薙ぎ払い!
河童超キック!
この巨体であれば、振るう攻撃全てが必殺技なのはお互い様。邪竜は必殺のブレスを何度も繰り返し。河童親子の操る河童インパクトもそれを耐え抜き、何発もの拳を叩き込む。
そして闇が晴れる。
深夜を過ぎ、朝日が闇を蒼に染める時。
満足そうな顔をした邪竜はその姿を薄めていった。
「なっ!? 何故帰るファヴァニール! 私はそんな命令を下した覚えはないぞ!」
だが、ダニエルの叫びは邪竜には届かない。邪竜は親指を力強く上げながら去っていく。
「なんでしょう、満足しちゃったんですかね」
「これはアレかしら。河原で殴り合って友情が芽生える敵な」
明と翔子はボソボソと語り合う。そこに河童インパクトから声がかかる。
「なんだかトカゲは逃がしちまったようだが、てめえらは五体満足で帰れるとは思うなよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます