第63話 last case 決着編 1

「それにしても、やけに上の動きが鈍いと思ったら、噂の帝王様が絡んでいたとはね」


 晴彦は、忍者使用のGTRを繰りながらそう独り言ちた。まぁそれを抜きにしたとしても、彼の務める組織、否、忍者と言う存在自体が、対して協調性のない自分勝手な人間の集まりだ。

 例え河童忍者がつぶれたとこで「奴らは忍者の中でも最弱」「部外者に潰されるなど忍者の面汚しよ」と本気で言いかねないものばかりだ。一致団結して事に当るなど高望みもいい所だ。

 最も、自分でさえも倫太郎と個人的な繋がりがあるから、こうして車を走らせているのは否めないのだが。


「よし、見えて来た」


 高級住宅街の中でも一際立派な本城家が見える、人払いの結界は張られているようだが、晴彦の忍者視力には、その中で戦闘が行われていることもしっかりと見て取れていた。


「とは言え、勢いでやって来たものの。僕って荒事苦手なんだよねー」


 晴彦は情けない声を出しながらも、速度を一切緩める事無く、本城家の正門に突っ込んだのだった。





 戦闘音を住宅地へと響かせないための消音結界が仇となった。突然鳴り響いた車が突っ込む衝撃に流石の襲撃者の連携も乱れる。


「今にゃ!」

「ほいよ!」


 その隙とばかりに飛び出したのは野生の2匹。姫が包囲網の綻びを突き破り、空いた隙間に、由紀子を抱えたマミ蔵が続き庭へと飛び出した。


「あはははは、2人ともお疲れ様。無事に包囲を抜けれたみたいだけどこれからどうする?」

「そんな! お母様が!」


 晴彦の冷徹な判断に、由紀子は抗議の声を上げるが、彼女も心の中では分かっていた。今の状態で1人や2人の助太刀が来たところで、事態は好転しないと。それほどまでに、素人の自分が見ても襲撃者の戦闘力は完成されていたのだ。


「そんにゃもん、勿論」

「ああ、そうだの」


 再包囲網が敷かれつつある中、2匹はそろってこう言った。


「5000兆倍がえしにゃ」「やられっぱなしは趣味じゃないのう」


「了解、僕も微力を尽くすよ」


 やれやれ仕方がないと、包囲網が敷き直された中、晴彦は肩をすくめたのであった。





『一つ、注意してもらいたいことがある』


 晴彦は、忍法以心伝心テレパシーを使い、2匹にそっと語り掛ける。


『僕は、逃げ足にこそ自信はあれど、腕力には覚えがない。そこらの喧嘩自慢と戦っても、勝てるかどうかは運次第だ』


「おいこいつ、倫太郎あの男とは別のタイプの駄目男にゃ」

「かっかっか、そいつは困ったのう」


『あっはっは、厳しいね君たち。

 だが、それでもだ。それでも僕が来たからには、この程度の敵、君たちには圧勝をプロデュースしよう』


 自分でそう言った通り、晴彦は攻撃型の忍者ではない、情報収集および分析を専門とする、裏方・事務方の忍者である。

 だが、それ故に出来る役割があった、それ故の戦術があった。


「犬飼忍術、千里眼」


 晴彦の目が赤く輝く。


「犬飼の千里眼は、遠目を見通すだけにあらず。の千里眼は全てを見通す。それ即ち未来視の如くなりってね」


『右剣上、左剣横、前槍突き、後弓足』


「にゃ?」「心得た!」


 指示されて戦うことになれていない姫は一拍遅れるも、普段から群れの長として活動しているマミ蔵は晴彦の指示に素早く反応し、葉っぱで作った盾を言われた通りの方向に差し出す。


『前上、後下、僕が由紀子ちゃんを守るから、左右横、二人は攻撃よろしく』


「にゃにゃ!」「はいな!」


 今までは由紀子と言うお荷物を庇いながらの戦闘だった。それが無くなっただけでも遥かな負担の軽減だ、それに加え敵の出方を前もって知らされる。

 晴彦と言う指揮官が加わったおかげで、戦場の勢いは姫たちに一気に傾いて来た。


「ちっ! 獣どもの分際で!」


 ついさっきまでは、得物をいたぶる余裕さえあったのが、青二才が加わっただけで、一気に拮抗するまで持ち返された。そのことが、今までにやけ笑い以外浮かべなかった分隊長の口から苛立ちの言葉を引き出した。


『流れが変わる! 苛烈になるよ!』


「にゃにゃ!」

「ほいな!」


 晴彦の分析通り、敵の攻撃は激しさを増す。8人が絶え間なく攻撃をし続ける。その狙いは由紀子ではない、最早最初の狙いなど忘却の彼方だ。

 始めに目標は完了した、後は追加ボーナス目当ての余興だった。何時でも終わりに出来ると言う経験に基づいた実感があった。

 だがそれもすんなりとはいかなかった。そのうちに増援が1匹現れ、そしてまた1人加わった。

 極東の田舎者たちに、魔術の本場欧州で名をはせた自分たち戦闘団が手玉に取られている。しかも薄皮一枚の手玉、あともう少し、ほんの一押しで破れると言う確かな手ごたえを感じながらの戦況でだ。

 そんな事が許される訳はない。

 ここまで泥仕合を演じてしまった以上。完勝をもって帰らないと、不名誉な噂が先行してしまい、今後の任務にも影響が出てしまう。


(最早情けなど無用。猿共を皆殺しにするしかない)


 分隊長がそう決断を下したその時だった。

 登場してから今の今まで、猫と狸の間で縮こまっていた青瓢箪が、登場してからずっと変わらぬにやけ面を浮かべたまま、猫たちの巣から無防備に歩きでて来た。





『姫さん、マミ蔵さん。君たちのコンビネーションは十分見せてもらった、今から必勝の策を授けるよ。合体戦術だ』

「んにゃ?」

「ほう?」


 敵が総攻撃に入る前に出来た一瞬の呼吸。その隙に晴彦は姫たちに策を授けた。そして晴彦が囮になり、その隙を広げた瞬間に2匹は行動を開始する。


「「合体妖術、招き狸にゃ(じゃ)!」」


 そこには、マミ蔵の勾玉の力で強度が増幅された木の葉手裏剣を全身に身に纏ったフルアーマー姫が居たのだった!


「分隊長! どいつを狙います!?」


 今、この場には3対の敵とがいた。

 一つは、にやけ面を浮かべて肩をすくめる優男。

 一つは、全身葉っぱまみれになった猫。

 一つは、葉っぱを失い、丸腰となった狸だ。

 その3つは、1人の少女を中心に3角形に陣を張っていた。


 だが、分隊長の結論は決まっていた。その中で、最もむかつき、最も弱そうな奴が最初の標的だ。





「あっはっは、そう来る? そう来ちゃう? いやー僕って人気者だね」


 だけど残念。

 そう言い残し、晴彦の姿が曖昧になる。


 分隊長を残した全員での総攻撃は晴彦にかすり傷一つ残せない。


「分隊長! こいつ何か特殊なスキルかプライズを使っています!」

「慌てるな! 物量で決めろ! 面で攻めるんだ!」


 刃が空を切る感覚に、隊員たちが焦りを見せる。幻術の類ではない、自分たちは完璧な対策を持ってここに来ている。だがしかし、目の前の男のにやけ面には薄皮一枚傷つけられない。


「あはははー。残念、特別なプライズを使ってるわけじゃないよ、これは単純な体術だ。僕はね、逃げ足だけは自信があるんだ」


 晴彦は、超々単距離ワープとでも言うかのような歩法を使い、雨の様な攻撃を捌いてゆく。


 集団戦に置いて、弱い奴を第一に叩き、敵の数を先ず減らすと言う事は有効なセオリーだが、それにしても今回のケースでは、分隊長の思いきりの良さが仇となった。


「何処を見ているにゃ!!」


 晴彦にくぎ付けとなった隊員の背後に、威力を増した姫の爪が襲った!


 「うにゃれ鉄拳! 夢とか希望とか恨みとかその他もろもろにゃんやらかんにゃらを乗せて!!!」


 姫は全身に纏った木の葉を右手に集約させる、叫びと共に繰り出された超巨大化した猫パンチが襲撃者たちを纏めて吹き飛ばした!


戦闘終了であった。

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