第42話 case6 決着編 2
「あっ、倫太郎さんだ。どうしたんです?」
「いや、妙な騒ぎがあるってことで、様子を見に来たんだが」
倫太郎が見つけた鈴子は、完全に観戦モードに入っており、ポップコーン片手に近所の爺ちゃんと一緒に、二人を見守っていた。
どうやら、ここにいるギャラリーの半分は、あまりにも息の合った姉妹喧嘩に、何かのパフォーマンスだと思っている様だった。
「っち、予想以上にグダグダな展開になって来ちまったな」
そう言うと倫太郎はこの不毛なやり取りを止めるために動き出す。
スパーンと、鈴子と同席していた爺ちゃんの持っていた新聞で作った紙鉄砲が。姉妹の眼前で炸裂した。
「はい、しゅーりょー」
「倫太郎さん!」「何ですか貴方は」
綾子は、昨夜自分を助けてくれた
紬は、突如現れた
「まぁなんだ、取りあえずはビックリするほど愉快な見世物になっているから、取りあえず事務所に場所を移したらどうだ?」
倫太郎はそう言うと、周囲のギャラリーににらみを利かす。愉快なコスプレ男倫太郎はご近所では、遠目に眺めている分には面白いが、間近で関わるとめっぽう面倒くさい事に巻き込まれるとの評判だ。
それを知るギャラリーは三々九度と散っていく。残ったのは少数の命知らずと、もぐりの人間だけだ。
「はいはい、わかったら大人しく、事務所に戻りましょうねー」
「はい! わかりました」「冗談じゃない! お姉さまそのコスプレ男から離れてください!」
「あー、ステレオで話されてもよく分からんのだが」
姉妹の絆は花丸印。言っている内容は正反対だが、喋るタイミングは今回も全く同時だ。
そして、話の主導権を握るのは今回もまた紬だった。
「お姉さま! ああお姉さま! お姉さま!
この薄汚い男が、どこの馬の骨かは知りませんが。きっとお姉さまの美貌と優しさに付け込んで悪事を働く族に決まっております!
お姉さまを真に思っているのはこの紬だけでございます! どうかお気を確かに! お目覚めなさって!」
「おいてめー、さっきから随分と良い空気吸ってるじゃねーか」
一度ならまだしも、流石に何度も
「ほら! 本性を現しましたはこの男!
男はみんな野獣ですわ!
野獣死すべし! おいでませ狗神様!」
テンションノリノリ絶好調の紬(平常運転)は、そう言い放つと、狗神を召喚した。
紬の着物からずるりと3頭の犬、地獄の番犬ケルベロスが現界する、平和な商店街は突如異界と化した。
もぐりの人々は突然の事態に逃げ惑い、常連の人々は歓喜の悲鳴を湧き上げる。商店街は混乱の坩堝となる。
「てめぇ正気か! こんな真昼間からなんてもの出してやがる!」
「なんてものとは失礼な! 我が家に代々伝わる由緒正しき狗神様のご威光にひれ伏しなさい!」
「はっ! 阿呆が! 手前らが狗神使いだって事は調査済みだ! 対策の一つや二つ事前に用意済みだ!」
何たることか! 倫太郎がそう言って懐から取り出したるは、光り輝く至上の一品!A5ランク最上級黒毛和牛のサーロインステーキだった!
ペチリ、と狗神(愛称、ケルちゃん)はその肉塊を叩き落とす。
「なっ! なんだと!!!」
「笑止! あまりにも笑止! その程度のモノ、毎日のお供え物に献上済みです!
ケルちゃんを満足させたければ、A5はA5でも、特定指定農場の特急品をお持ちくださいな!」
そう言い、紬は高笑う。
このクラスの食事を毎日!? そのあまりにもな現実に、倫太郎は崩れ落ちかける。だが! 我らのヒーロー河童倫太郎はくじけはしない、窮地こそはヒーローの主戦場だ!
「こうなったら、プランBだ!」
「プランBですって!」
「いくぜ! プランB!
力いっぱいぶん殴る! 右ストレートでぶん殴る!!」
体高2mはある血に飢えた巨獣の一撃は、かすっただけでも常人ならば致命傷である。
倫太郎は繰り出された爪の一撃を掻い潜り、3つある頭の1つに、全力で蹴りを叩き込んだ!
「な! 卑怯ですわ!」
「喧しい! 卑怯なのはテメェだ! 生身の人間相手になんてもんけしかけやがる!」
そう、倫太郎は今回変身を封じられている、衆目の前で真の姿を晒すのはヒーロー失格だからだ! 決して、みっともないから変身しない訳ではない! そう決してッ!!
倫太郎は、河童体術
「てめぇ、このクソ犬! ふざけんな! ぶち殺すぞ!」
「ガウガウガルン!!」
「今です! ケルちゃん! 右です右!」
「あーテメェ火を噴きやがったな! 商店街ではたき火禁止だこの野郎!!」
「バウバウバルン!!」
「おしい! あと一歩! いや半歩の踏み込みです!」
狗神の呪いって随分と物理的なんだなー。鈴子はそう思いつつも観戦を続ける。事ここに至っては彼女に出来る事などなにも無い。しいて言えば、新商品の明太子バターチーズポップコーンを食べ続ける事だけだった。
倫太郎が死闘を広げ、鈴子はポップコーンと格闘を続けている所だった。
戦場に、ギターの音が鳴り響いた。
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