第30話 case5 追憶編 6

「それが倫太郎さんの初陣ってことです」


 又聞きや想像を挟んだ話だが、あの夏の武勇伝はカッパファームでは内緒で内々の語り草となっている。


「むー、やっぱりとんでもないやつにゃ、逆らうのは決定的な弱みを見つけてからにするにゃ」


 懲りない様子で、そう答える姫。だが、3歩歩けばその様な事は忘れて、仲良く喧嘩する事だろう。


「それにしても、結局そ奴らの目的とはなんだったのかにゃ?」

「ああ、それがですねー」


 馬鹿馬鹿しい話ではある。

 はぐれものむしょく生活を送っていた豚山三兄弟は、貧すれば鈍すると言うべきか、小道具市で宝の地図を発見した、それには失われた親魏倭王の金印の事が記されていたと言う。

 そうして、彼ら三兄弟は昔志賀島の畑で金印が発掘されたのを前例に、金印発掘兼食い倒れツアーを計画。出鱈目な地図を頼りに、あっちの畑はこれが取れる、こっちの畑はこれが旨いと、目的と手段が入れ替わったような旅をし続け、とうとうカッパファームへたどり着いたと言う訳だった。


「むー、にゃんとも馬鹿げた話じゃにゃ」

「あははは、まぁそうですよねー」

「それで、その後その豚どもはどうしたのかにゃ?」

「ええ、勿論警察のご厄介になりました。ただ、そこからがご当主様の懐のひろさで、出所した彼らの面倒を農場でみる事となったんです」

「にゃんと、盗人に追い銭と言う奴じゃにゃ?」

「あははは、微妙に違いますが、それでもいいです。「行く当てがないなら俺のとこに来い」って、それまで被害にあった農家の家に一緒に頭下げに行って、おかげで3人はすっかりご当主様に惚れ込んで、今でも元気に働いていますよ」

「むー、そいつも倫太郎に負けず劣らず変にゃやつだにゃ」

「まぁ確かに、ご当主様が一番の変わり者かもしれませんね」


 そう言って二人は笑い合う。そんなところに倫太郎が帰って来た。


「ったく、言うなって言ってんのに、余計な無駄話しやがって」

「にゃしししし、聞いたにゃ聞いたにゃ倫太郎、貴様の武勇伝は確かに聞いたにゃ」


 不機嫌そうな倫太郎に、ゴロゴロと姫がすり寄ってくる。


「だったら何だってんだ、どうせ貴様の記憶力じゃ3日と持たねぇよ」

「にゃしししし、儂を侮っておるのも今の内にゃ。ズバリ貴様の弱点は貴様の親父にあると見たにゃ

 貴様の親父を我が術でたぶらかし、貴様にぎゃふんと言わせてやるにゃ!」

「おーおー、そりゃいい、やってくれ。猫又如きにご当主様が操られたと有っちゃ河童忍法はお家断絶、そうなりゃ俺も大手を振って農場に戻れるってもんだ」

「ぬにゃ?」

「あははは、若様とご当主様のご関係は、ご本人たちにもよく分からなくなってるぐらい複雑ですからね。他人が彼是横槍を入れようとしても無理ですって。

 それに、ご当主様は少なくとも若様と同程度にはお強いですよ、それでも姫さん、チャレンジしてみます?」

「むー、今回は見逃しとくにゃ」


 そう言い残すと、姫は猫形態になって本格的に昼寝の準備に入った。

 河童探偵社は本日も平穏無事であった。



Case5 在りし日の思いで  完

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