第2話(綾編)
早い時間に目を覚ました。
――よく寝た。
まだ真新しさの消えない天井を見つめながら思った。起床後の爽快感に夢を見なかったことから快眠だったと断言していい。
「――起きる」
早いけどベッドから離れた。今日は日曜日だからこのまま起き続けることにする。少しすればまた眠くなりそうな気がするけれど、休日なので問題はない。
洗面所でいつものことをした後は台所でミルクたっぷりのカフェオレを作った。部屋で動画でも観ながら飲もうかと思ったけど、ふと見た窓の外が気になってそっちへ向かう。
寒そう。
一旦戻って壁に掛かっているコートを肩に掛ける。湯気を放つマグカップも一緒に持ってベランダの窓を開けた。
侵入してくる外気は冷えるけれど風はない。あったかい飲み物もあるしこれなら平気だとそのまま出て、手摺にマグカップを置いてそれを両手で支えるようにしながら暖を取る。
気になったのは遠くにある山だった。
新居のベランダからよく見えるそのてっぺんは今、燃えるように赤くなっている。あの裏に隠れていた日が山を越えようとしているのだ。
日はもう少しでその姿を現す。それまでゆっくり待つことにした。
早起きをした際、こうして朝日を眺めることが多くなった。
以前は見向きもしなかったそれを綺麗だと感じるようになって、今では私の新しい趣味となっている。
これからもきっとそうした趣味は増えていくだろう。
みんなのおかげだ。
感じていた恐怖もなくなって毎日よく眠れて、いろんなものが綺麗だと思えるようになっている。暗い気持ちになることも大分少なくなった。
それだけにみんなには感謝だけじゃ足りない。
いつか返せれるようになりたい。
特に愛海には――。
「……」
何してるんだろ。
最近、こんな風に考えることが多い。
今寝ているか起きているか。起きているとしたら配達終わりの志穂と一緒にいる可能性が高いなとか、そんなところまで考えてしまう。
私に恋をしてくれた女の子。
私を救ってくれた女の子。
そんな彼女の恋が終わっても、以前と変わらない空気で接してくれている。
二人きりでも気まずさはない。だから二人だけで遊びに行くこともできる。
彼女といられるのは正直嬉しい。
そのせいか一緒にいたいと思うことが多くなっていた。ずっと学生でいられればいいのになぁーと現実逃避までしてしまうほどに。
「――あ」
いつの間にか日が顔を出していた。
山のてっぺんに突き刺さった状態でいる。
じっとそれを見ながら最近こんなことが多いなと思う。
少しでも彼女のことを考えてしまうとこうなる。
目の前を向いているはずなのに、見えているはずのものが見えなくなってしまう。少し前から顔を出していたはずなのに、その一切が目に入らなかった。
眺める朝日は時間の経過と共に少しずつ山から離れていくと徐々にこちらへ向ける光を強めていく。
――この瞬間が一番好きかもしれない。
そっと近寄って優しく触れてくる赤い光。
秋の青空よりも強く映えるそれは静かに私の体だけでなく、瞳の奥までも赤く染め上げていく。
いつか愛海が私に向けてくれたものと似たそれを目を逸らすことなく見つめる。
――私にも。あれがあるのだろうか?
男の子じゃない。女の子に対して始めて手にしたこの感覚はまだハッキリとしない。
憧れか。
友情か。
それとも――恋か。
「……」
知ろうとすることの怖さはない。むしろ早く知りたいとさえ思っている。
でも知ろうとすると体がなかなか動こうとしない。
このままではダメなんだと思う。
ずっと待ち続けたって、何もおこらない。
だから歩み寄らないと。
愛海の顔を思い浮かべながら。そう決意を抱く。
今の自分を知りたい。
彼女と一緒にいたいというこの気持ち。
それが何から始まっているのかを知りたい。
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