第37話(志穂編)
綾と別れて、真っ直ぐ家に向かって自転車を走らせる。
日はもう山の中へと隠れていた。
残り僅かな日の光と自転車のライト。帰り道はそれを頼りに車輪を静かに回す。
夜を混じらせた風は薄闇が増すほどに、冷たさも増していた。信号が赤になって停まると、少し身震いする。
山の方の赤い光はもう頂上付近にしか残っていない。名残惜しくも真っ赤に染めた山頂をじっと見つめる。
さっきの公園も、もう冷たくなってるだろうな。
初めて立ち寄った公園(なんて名前の公園だったかもう忘れた)だった。街から離れていて日当たりもよく人がいなくて静か。シーズンオフのせいだと綾が言っていたけれど、それでものんびりできる園内に利用者が一人もいないことを不思議に思う。
――でも、おかげで大事な話はできた。
周囲に人がいたらあんな話はできなかったと思う。
綾と二人で話をしたかった。
本当は明日にしようかと考えていたのだけど、今日放課後にめんどくさい用事を済ませた後で、偶々一人で帰ろうとする綾を発見したのだ。
そして綾を寄り道に誘うことに成功した。
……言いたいことも全て言えた。
彼女に語り掛け、手を包んで微笑んで、過去を話した。
私を救った愛海のこと。
ポンコツな私が忘れていた大事な思い出。
それを綾に渡して、私と同じようになれると伝えたかったのだ。
彼女の励みになるように。
少しでも彼女の背中を押す為に。
「……」
それは修学旅行のときにやろうと決めていたことと、全然別のことだった。
自分の恋を進めさせる。
そう決意していたのに、後回しにしている。
おかしいのかもしれない。
バカなのかもしれない。
でも仕方がない。私も愛海と同じになってしまった。
――助けたいって私も思ったんだ。
愛海の恋を綺麗だと言ってくれた。
気を失うのを覚悟で愛海に訴えてくれた。
そんな彼女を私も救いたいのだ。
「だから――今はこれでいい」
そうつぶやく。
私の恋なんて、後回しでいいのだと。
信号が青になったのを確認し、ペダルを漕ぐ。
家まであと少しだ。
帰ったら、お腹いっぱい食べていつもより多めに寝ようと決めた。
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