第23話 dungeon Seeker 1

 目が覚める....

 何事も起きない快適な朝....

 だが、早く寝すぎた....

 時計は5時15分


 目は冴えている....

 お腹が減っていた....そりゃ、昨日は胡桃しか食べていないんだから....


 飯盒に米を入れる....

 門の外には河川が流れており、F田川という看板がある....綺麗そうに見えるけど....飯盒に淹れる気にはならない....バックパックに入れたペットボトルを出して、飯盒に水を淹れる....スライスした干し肉と乾燥椎茸、少しの醤油を入れた....

 バーナーを組み立てて、燃料を付ける....

 カチカチと点火....

 火力が安定したら飯盒をのせる....

 後は炊くまで放置....そして蒸らす....


 水は何処かで安全な水源を探さねば成らない....

 或いは、活性炭を活用しての浄水器....

 そうでないと恐ろしい程の重さの水を運ばねばならない....


 飯盒から言い匂いがしてくる....

 干し肉や乾燥椎茸は良い味付けに成ると思っていたが、予想通りだ....


 お焦げが少し出来ていないか期待する....


 飯盒を開けるとホンワカと米の甘い匂いと醤油の香りが鼻をくすぐる....


 既に旨そう....


 スプーンで飯盒の中のご飯を混ぜる....

 当たり....

 底にはお焦げ....

 そいつをスプーンで満遍なく混ぜる....芳ばしい香り....


 そのまま食べる....

 ペットボトルの水を飲む....


 予想通りの、いや予想以上の旨さ....干し肉と乾燥椎茸から旨味が出て素朴だが飽きない味

 空きっ腹に染み渡る....


 数分で食事が終わる....


 門を開けるのが面倒で....よじ登る....川で飯盒を洗い....拭く....スプーンを飯盒に放り込み....バックパックに入れる....


 バックパックを担ぐ....動体センサを外して仕舞う....


 バイクを始動させる....

 コイツはcab車だから、チョークを引き暖機させる....

 エンジンのアイドリングが安定するのを待っている間に、正門の閂を外して開場する....


 バイクが通れる程度開ける....


 アイドリングが安定した様だ、チョークを戻す....

「スタタタタタッ」という軽やかなエンジン音....


 バイクに跨がり、門の隙間を通り抜ける....閉門する....


 先ずは、N古屋市駅周辺まで行き駅ビルを探索する事になるだろう....目的地迄10km程度か....午前中には到着出来るだろう....


 少々寒いかも....まだ朝の6時過ぎ....仕方無い....


 走りはじめてしばらくしたら、太陽が昇って来た、暖かい。


 順調に行程を進める....これなら、10時前には到着できそう....

 何度か右折を繰り返しながら、予定より早く、9時には目的のN古屋市駅周辺に到着した。


 ....Nちゃん人形ってどれだ....


 まぁ、予定通り見当たらない....もう風化して無くなっているんじゃ....


 ....デカイ建物が見えて来た....


 Bカメラという店舗....パンデミック前の家電量販店なんだろう....建物の上に白地で赤い店舗名がデカデカと書かれている....


 壁にはメーカーの名前が貼られていたが、多くは外れて地面に落ちていた....


 入口横にバイクを停める....

 ヘルメットをハンドルに掛ける....


 探索するにうってつけの場所だ....


 電子機器

 記憶媒体

 その他付属品


 こういった電子機器はパンデミック以前は小型化が驚異的に進んだ....コンピュータは掌サイズ、記録媒体は小指の爪程度といった具合だ....

 持ち帰るにも都合良く....おっさん先生なら有効活用してくれる....


 大容量の輸送が出来ない僕だから、これはうってつけの宝物だった....


 入口の自動ドアは破壊され....

 僕は靴底を切らない様に注意して店内に入る....


 風除室には店舗の案内図壁に掛けられている。

 地下1階上は5階の6階層を持つ大型店舗。


 僕の居る1階は、小型通信端末の階らしかった。

 様々な端末が置かれていた棚があり、未だ数種類の端末は薄汚れながら展示されていた....

 どの端末も、表は全て液晶画面でキーボードなど無かった....


 地下1階にドローンやお酒と書かれてある....僕はお酒は呑めないけど....ドローンは気になった....

 最早階段になったエスカレーターを降りる....


 ....地下1階に到着....


 目の前に双眼鏡や望遠鏡の売場がある....


 幸運だ....超小型のMemoryCardだ

 ....カウンターの裏に保管されている....本来施錠されていたのだろうが、今は破壊されていた....容量を確認して大きめのMemoryCardを10枚程度頂戴する....

 そして、次はドローンの売場だ....


 バイクに積載或いはバックパックに収納可能な超小型のヤツが欲しい....おっさん先生も病院の空いた時間で作成しているのだが....一から作成するより、出来上がった製品の部品を拝借しながら作成した方が効率が良いだろう....


 ....ガラスケースの中にドローンが並んでいる....天井から吊り下げて有るヤツもあるが、これはモックだろう....


 ガラスケースは割れていたが、手を突っ込むには危険な破片がぶら下がっている....LEDライトの先端でつつく....ガラスを綺麗に落としてから、出来るだけ保存状況の良いドローンを取り出す....十分にバックパックに入るサイズ....同じ機体を2体入れる....バックパックはもうギリギリ....これで止めとこう....


 ....ゴトッ....


 微かな....僕の背中で小さな物体が落ちた音....

 僕の頭にアラート....LEDライトを握り直す....


 ....振り替える....僕の靴の下にあるガラス片が「パリッパリ」と音をたてる....


 ....

 ....

 ....猿....なんで、こんなビル街に、サル....

 ....『えっーと....これは、いわゆる日本猿....赤いお尻の、TVで温泉に浸かっているヤツ』僕は観た事無いけど....


 ....思わず....プロテクタージャケットの前面のチャックを一番上まであげる....無意識に首を守る....



「ギャ....」という鳴き声....

 ....これは威嚇?それとも喜び?何なんだ....全く判らん....


 ....あっ、犬歯を剥いてる....『ごめんなさい、ご立腹ですね....おやすみ中でした?....僕、喧しかった?....』僕は頭の中で考える....


 猿ってどうだろう?何が危険....何が弱点....『ヤツら』なら退治方法思い付くけど、サルは知らない....


 体格は小さい....体重は10kg無いかも....パッと見なんとかなりそう....しかし出来ることなら逃げたい....


 先ずは相手から目を離さず....後退り....

 僕が1歩後退り....サルは1歩前進....

 僕が1歩後退り....サルは1歩前進....

 猿は僕の前方8m程度を保持

 ....


 なんだよ、着いてくんなよ....

 猿の口から涎が垂れている....


 それを見て僕は戦闘モードに切り替わる....

 こいつは噛もうとしている....


 背中に在るドローンのガラスケースに空いた手を手探り....

 落としたガラス片を掴む....そのまま、また数歩後退り....猿は数歩前進....


 ....

 ....


 突然「ギャイーーー」猿は叫び、4本脚で助走をつけて飛び掛かって来た....

 疾っ....

 思わずLEDライトを横殴りに振る....

 遅い....

 僕が....

 猿にライトは当たらず、ライトを握った拳が当たる....猿の首が少し横向くが....こんなの対した打撃じゃない....猿は凭れ掛かる様に抱き付く....

 猿は僕の胸部プロテクターの上から爪を立てる....しかし文字通り歯が立たない....しかしもう一方の手でLEDライトを握っている腕を掴む....

「イデデーーー」僕は叫ぶ....猿がプロテクターの無い僕の前腕の内側に爪を立てている....

 そして僕を噛む為に顎を開く....

 僕は空いている手で掴んでいるガラス片を猿の顔にを突き刺す....


「グギャーー」猿は叫び声....

 ガラス片は頬骨を滑り、鼻を横に切り裂く....


 勝機だった....


 僕はLEDライトで猿の頭を殴る....ラッキーだった....左眼窩にライトの先端が食い込む....

 猿、更に絶叫....

 両手で顔を押さえた猿を足で蹴る....

 吹っ飛ぶ猿....


 ....猿に走り寄り....ゴルフのスイングの如くLEDライトのを振る....猿の横っ腹にライトがぶち当たる....

「ゴフッ」猿の口から空気が吐き出る....


 ....ゴロゴロゴロ....


 猿は三回転した後に、「キュー....キュー....」と弱い呼吸をしながらうずくまる....


 ....考える....息の根を止める....鉈を握る....

 猿と目が合う....

 僕がライトで殴った左目だ....

 赤く充血している....

 僕を見る....

 鉈を握る力が抜ける....

 もう一度力を込めて握る....「殺した方が良い」と、僕を俯瞰で見つめるもう一人の僕が諭す....

「また噛まれないとも、引っ掛かれないとも、限らない....いま殺しておけ....」もう一人の僕は冷徹だ....


 ....目に涙を溜めている様に見える....

 だめだ....

 感情を感じる....

 怖い....

 痛い....

 悲しい....


 鉈から手が離れる....振り返り、その場から離れる....

 1階に戻るエスカレーター口に向かう....


 エスカレーターを上る....前腕のジャケットには引っ掻き跡がある程度で何も傷付いていない....

 これなら爪からの雑菌混入も無いだろう....

 ケブラー製で良かった....

 胸部も問題なし....


 エスカレーターを上がる途中、下で踞る猿が見える....


 僕が対応を間違えたのかもしれない....

 野生の生物はこっちがビビったら襲い掛かって来る....

 彼等の習性だ....


 I市に戻ったらおっさん先生に訊こう....

『ゴメンなお猿....』


 ....少しの後悔を感じ....

 俯きながらエスカレーターを上る....

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