展望

 後悔しないように、やり残さないように、生きてきただけです。

 外にいた頃はよかった。

 僕は自由でした。時間もそれなりに与えられていましたからね。

 こんな空っぽの部屋で出来ることなんて、無いに等しい。

 時間はあれど、自由がない。

 上手くはいかないものですね、人というものは。

 何かを得た側から、何かを失う。

 幸福と不幸の総量は変わらない。

 時間も自由も与えられたのなら。

 自由の概念が僕に再び与えられるかどうか、甚だ疑問ですが、仮に2つの要素が僕に返還されたとき。僕はどうなるんでしょうか。自分でも想像がつきませんよ。

 生きてきた中で、多くの美しいものを視界に捉えることが出来ました。

 もう一度だけ、この目で見届けたい景色がある。なんてことのない光景です。実に簡単で、人によっては取るに足らないとさえ思えるような風景です。

 誰かの決意が瓦解する瞬間は、綺麗で愛おしいと思いませんか。

 心の焦点が定まった横顔も見事なものですが、壊れる景色は、それ以上に見応えがある。

 いつか崩壊すると分かっているから美しいと感じるのか、美しいものは皆、後で壊れると決まっているのか、どちらだと思いますか。

 後に崩れ、褪せるものに人は美を見出だしてきた。僕もまた一人の人間ですからね。至極真っ当で当たり前の感覚ですよ。

 その基準で言えば、凡そ全ての人間は美しいと言える。

 無限は無意味なんですよ、無限に興味はない。有限の事象にこそ、意味は在る。

 永遠の命なんて願い下げですが、それに近しいものが欲しい。

 人類の最後の一人になれるものなら、なってみたい。

 終わりの景色を目に留めて、自分も彼らと共に歴史から去るのです。

 命は繰り返される。

 何万、何億という年月を費やしても、この星は生命を内包していた記憶を忘れはしない。

 途方もないほどの未来を経ても、いつかきっと、海から命が這い上がってくるときが必ず訪れる。僕はそう信じてやまないのです。

  

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