第258話 管理者
ナハルの震えがやっとの事で落ち着き、待ちくたびれていたペインは欠伸を噛み殺して居住まいを正すと、集まっていた村の責任者達を見る。
「して、我輩達に話したい事とは何であるか?」
ペインが尋ねると、皆はどう説明したら良いか迷よっているのか隣の者とヒソヒソと相談し、代表としてハミルが立ち上がった。
「我々がお話ししたい事についてですが、実は破壊された森について少し面倒な事になってしまいまして・・・」
「面倒な事であるか?」
「ええ・・・」
「ふむ・・・破壊された事以上に面倒な事など無いと思うのは我輩だけであるか?」
「私もそう思います」
ペインの至極当たり前の発言にアンネが頷くと、ハミルは苦笑しながら首を振った。
「それはまぁ、確かに面倒ではありますね・・・ですが、正直我々にとってはそれ以上に厄介な事になってしまったのですよ」
項垂れてしまったハミルを見てペインとアンネが首を傾げると、ナハルがゆっくりと立ち上がった。
「じちゅを言いましゅと、先じちゅペイン殿達が帰られた後、森の管理者を名乗るドライアドが怒鳴り込んで来たのでしゅ・・・しょれはもう怒り心頭でごじゃいました」
「管理者が居たのであるか?」
「ええ・・・私が小しゃい頃に父母から話は聞いていたのでしゅが、これまでお会いしておりましぇんでしたので忘れていたのでしゅよ」
「そうであったか・・・まあ、奴等は滅多に人前に姿を現さぬから仕方ないであろう・・・正直、我輩も長いこと生きてはいるが、奴等に会った事など数える程しか無いであるからな」
「あの、その管理者様は何か仰っておられたのでしょうか?」
アンネが遠慮がちに尋ねると、ナハルを始めハミルや他の者達は皆困惑した表情を浮かべた。
「一応、経緯をしぇちゅめいして怒りをおしゃめていただけたのは良いのでしゅが・・・」
「何か無理な条件でも出されたのであるか?」
「待たせたわね!!」
ペインが口籠ったナハルに尋ねた瞬間、集会所の扉が勢いよく開き、木の葉の衣装で全身を包んだ美女が現れ、偉そうに胸を張った。
突然の美女の荒い訪問に驚いたのか、アンネに抱かれて眠っていたアリーが不機嫌そうに目を覚ます。
「んーっ・・・」
「大丈夫ですよアリー」
不機嫌になったアリーに気付いたアンネは、冷や汗を流しながら宥める。
それを見た美女は、アリーと目が合って首を傾げた。
「あら、それってアルラウネじゃないの、人に懐くなんて珍しいわね?」
美女はズカズカと中に入って来ると、アリーに近寄って柔らかそうな頬っぺたを軽く摘んだ・・・そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さで繰り出された蔦が、美女の目に吸い込まれる様にクリーンヒットした。
「目がっ!目があぁぁぁぁっ!?」
「んっ!!」
「ア、アリー!落ち着いきなさい!!」
「ちょっ、待って!私が悪かったから!癖になっちゃうからやめて!!」
アンネの必死の静止にも耳を貸さず、アリーは美女に対して何度も蔦で打ち付ける。
しばらくして怒りの治まったアリーは、疲れてしまったのかまたアンネの膝の上で不貞寝をし始めた。
「だ、大丈夫であるか?」
「これが大丈夫に見えるのかしら・・・?」
ペインがうつ伏せのまま床に倒れて動かない美女に尋ねると、美女は痛む身体に鞭打って仰向けになり、目だけをペインに向けた。
アリーの怒涛の攻めを受け続けた美女は、木の葉で出来た衣服が破れ、拷問を受けた女囚の様な姿になっている。
ペインは清宏から貰っていたポーションを美女に飲ませると、立ち上がるのを手伝って椅子に座らせた。
「災難であったな・・・」
「本当よまったく・・・何なのこの子、アルラウネなのに強くない?」
「それはまぁ、訓練をしているのであるからな」
「訓練だけでこんな強くなるとかどんだけよ!!てか、あんた達も見てないで助けなさいよね!?」
美女はナハル達を睨み付けて怒鳴り、破れた衣服の補修を始める。
美女に睨まれたナハルは嬉しそうに身震いすると、立ち上がって頭を下げた。
「申し訳ごじゃいましぇん、あれを我々に止める事は不可能でごじゃいましたので・・・」
「身を挺して守ってくれたって良いでしょ!?私の森に住まわせてあげてんだから、そのくらいのお返ししてよ!!」
「我々も命は大事でしゅので・・・」
「・・・この恩知らずめ!」
ナハルの言葉を聞いた美女が吐き捨てると、様子を伺っていたペインが美女の前に立った。
「話の内容からして、貴様がこの森の管理者で間違いないのであるか?」
「どっからどう見てもそうでしょ?平伏して崇め奉っちゃっても良いわよ!」
「・・・貴様、面倒臭い奴であるな」
「しょうでございましょう?」
「面倒臭いって何よ!あんた達酷くない!?」
同時にため息をついたペインとナハルに対し、美女は破れた衣服を投げ付けた。
すると、ペインは投げ付けられた衣服を難なく避け、ナハルは素早くキャッチして懐に入れ、嬉しそうに上から撫でている。
ペインは不機嫌そうな美女に再度ため息をつくと、腕を組んだ。
「我輩を前にしてそこまで不遜な態度をとれるとは、貴様からは清宏やラフタリアと同じ匂いがするのである・・・よって、面倒臭い奴決定である!」
「ちょっと!あんな奴等と一緒にしないでくれないかしら!?」
「むっ・・・貴様、何故彼奴らの事を知っているのであるか?」
「私はこの森の管理者なんだから当然でしょ!この森で起きた事は、どんな些細な物事でも情報が入って来るのよ!どうよ、凄いでしょ!?」
「本当に偉そうであるな・・・まあ、我輩は清宏で慣れている故気にしないでおいてやるのである。
して、貴様の事は何と呼べば良いのであるか?」
ペインが名前を尋ねると、美女は椅子から立ち上がって胸を張った。
「そうね・・・なら、特別に私の事を麗しく気高き森の管理者ドリー様と呼ぶ事を許してあげても良いわよ!!」
「うわぁ・・・麗しさと気高さを微塵も感じぬのに、ここまで自信満々に名乗れるとは哀れに感じてしまうのである・・・貴様、自分で言ってて悲しくはないのであるか?」
「自分で言わなきゃ誰が言ってくれんのよ!?私は自分が大好きなの!例え世界中の生物が滅んだとしても、私さえ無事なら無問題よ!!」
「んっ!!」
「また目!?」
あまりの煩さに目が覚めたアリーにより、ドリーはまたもや鞭打ちの刑に処される。
今度はアンネも止めようとはせず、皆は2人を放置して話し合いを続行した。
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