第241話 暇を持て余した神々のボイチャ①
「メジェド神達が戻って来んのってそろそろじゃね?」
「ロキよ・・・1時間ごとに同じ事を言っているが、貴様は他にやる事は無いのか?」
「困った事になーんにも無えなぁ・・・こないだフレイヤにオレオレ詐欺したら、兄貴の方にぶん殴られちまってさ、いまだに寝床から出られねーんだわ・・・お陰様で、最近は自宅警備員としての誇りが芽生えて来たところだな」
「貴様は自業自得と言う言葉を知っているか?」
「知ってはいるが興味無えな」
とあるボイスチャットルームでロキと呼ばれた男が何者かに呆れられているが、ロキはまったく悪びれもせず答える。
「んで、ヘファイストスの旦那は何してんの?仕事は?」
「貴様と違って済ませて来たに決まっているだろう・・・」
「くけけ・・・親父殿と違って真面目だねぇ」
「貴様と一緒にするな」
呆れていた男をヘファイストスと呼んだロキは、欠伸を噛み殺しながら下卑た笑いを漏らす。
ヘファイストスはやや不機嫌そうに答えると、しばらく2人の間に沈黙が流れた。
互いに一言も発さずただ時間だけが流れていると、チャットルームに新たなメンバーがやって来た。
「あら、ヘファイストス様と・・・ロキ様ですか」
「何よアテナちゃん、俺が居たらご不満?」
「いえ、その様な事はございませんわ・・・ただ、先日フレイヤ様から下らない話をお聞きしたものですから」
「えっ・・・噂が広まるの早くない?」
「貴様は昔から自重と言う言葉を知らぬからな・・・余もそろそろ庇い切れぬぞ。
それはさておき・・・アテナよ久しいな、息災であったか?」
ロキがアテナの言葉に困惑していると、更に新しいメンバーが現れてロキに苦言を呈し、その声の主はアテナに優しくも威厳のある声音で話かけた。
ただ、一つ気になる事がある・・・ロキやヘファイストス、アテナのアカウントのアイコンは顔写真であるのに対し、新たに現れた男の画像は『おでん』なのだ。
「これはオーディン様、お久しゅうございます。
相変わらず『おでん』愛に溢れたアイコンで安心いたしました・・・その画像は新作でしょうか?」
「おお、其方には分かるか!これは、天鈿女命殿に紹介していただいた磐鹿六雁命殿から教わって作ったものなのだ!!ただ『おでん』をカレーにアレンジするのではなく、厳選したスパイスのみを使用する事で『おでん』らしさを失わず、それでいて身体の芯から温まる・・・流石は料理の神と言われる事はある!!」
「兄者は『おでん』の事となるとすぐにテンション上がるから困ったもんだ・・・」
「寒い北欧にこれ程適した料理があろうか!?」
ロキが呆れていると、激昂したオーディンが食い気味に怒鳴る。
「ま、まあまあオーディン様・・・それよりも、先日いただいたグングニルの改造計画の件ですが、本当にあの様な形でよろしいのですか?ゴヴニュ殿やディアン・ケヒト殿達も困惑しておりましたが」
おでんに並々ならぬ拘りを見せるオーディンに困り果てたヘファイストスは、急いで話題をすり替える。
「ん?ああ、勿論だとも!あのデザインこそ余が持つに相応しい!!」
「ヘファイストスの旦那、それはちなみにどんな形なんだ?」
「私も気になりますわ」
「チビ太の『おでん』だ・・・」
ヘファイストスがボソリと呟くと、ロキとアテナは沈黙した。
「あの・・・それは『◁○□-』って事でしょうか・・・?」
「その通りだアテナよ!素晴らしい造形美だと思わぬか!?」
「結局『おでん』からまったく抜け出して無えじゃねーか!ヘファイストスの旦那話題変えんの下手すぎ!!」
「ま・・・まあ、名は体を表すと言いますし、『おでん』と『オーディン』様も響きが似ておりますから良いのではないでしょうか・・・たぶん」
「む・・・まさか不評であるとはな」
4人がグングニルの新しいデザインについて議論していると、また新たなメンバーが現れる。
その新たなメンバーのアイコンは、白い背景に見慣れた目のマークが描かれている・・・そう、あの神様だ。
「タダイーマ」
「メジェド神キター!他の奴等も呼ばねば!!」
ロキは他の神々に報せるために席を外したのか、そのまま静かになる。
「お帰りなさいませメジェド様、他の皆様方はどうなさいました?」
「皆ハ疲レタノデ、風呂入ッテソッコー寝ルト言ッテイタ。
アヌビスカラ皆ヘノ伝言ダ・・・『_(:3」∠)_』ダソウダ」
「アヌビス殿は相変わらず喋らぬのだな・・・」
「それでも伝わるあたり、我々も慣れて来たと言う事であろうな」
メジェドからアヌビスの伝言を聞いた3人は揃って苦笑している。
3人がメジェドの帰還を喜んでいると、チャットルームに続々とメンバーが増えていく。
「ひゃっほーい!メンディーちゃんお帰りーっ!!ロキから聞いてマッハで来たわよーっ!!」
「向こうの情報早よ!!」
「向こうには美女美少女は居ったのか!?」
「ケツコ、シーバ、女体スキーハ相変ワラズ騒ガシイ・・・オデン達ヲ見習エ」
メジェドが忠告すると、新たに現れた女性が可笑しそうに笑う。
「あはっ!ハンネなんて面倒なもの要らないわよー!私はケツァルコアトルで良いわ!でしょシヴァ!?」
「確かに!我々にネットリテラシーなど関係無いからな!!なあゼウスよ!?」
「いや、儂はヘラにバレると煩くてな・・・もしバレたら小遣いが減らされるのだ」
「あら、既にバレてるわよ?」
「えっ・・・」
ゼウスがケツァルコアトルの言葉に絶句すると、どこからともなく着信音が聞こえてきた。
「誰のスマホ?」
「わ、儂の・・・ヘラから恐怖のメールが来た・・・」
「ヘラちゃんは何て?」
「小遣い100年カット・・・」
ゼウスが魂の抜けたかと思える程のため息が漏れると、ケツァルコアトルとシヴァが大爆笑する。
「あっははは!ヘラちゃん厳しい!!」
「全知全能たる貴様も、妻相手では勝てぬか!これは愉快だ!!」
「他人事と思いよって貴様等・・・!これでは風俗に通えんではないか!?」
「父上、流石に娘の前で風俗通いが出来ぬなどと言うのはどうかと・・・仮にヘラ様にバレなくとも、下手な言動はお控え下さいませ・・・私が逐一報告いたします」
父の問題発言に対し、アテナの凍てつく言葉の刃が振り下ろされる。
「何と!アテナよ・・・其方、いつからここに」
「最初から居りましたわ父上」
「ごほんっ!い、今のは物の例えである!!まさか、この儂が愛する妻を裏切るはずが無いであろう!?」
「常日頃通っていなければ出て来ぬ言葉と思いますが・・・まあ良いでしょう」
アテナは明らかに疑っているが、それ以上の追求はせずにため息をついた。
「さてと、ゼウスんとこの内輪揉めは置いといて、あっちの世界の話聞こうぜ!」
「さんせーい!面白そうなのあったかしら!?」
「シーバトケツコハ少シ落チ着ケ・・・デハ『神ッター』ニ画像ヲウpスル」
メジェドが沈黙すると、一斉にスマホをいじり出す音が聞こえてくる。
「ワクワクが止まらねーぜ!」
「シヴァの旦那、俺よりうるせーな・・・」
「おっ・・・来たわよーっ!」
「ほう、これはなかなか・・・」
神々の利用しているSNS上に大量の画像がアップロードされて行く。
何時どの様にして撮っていたのか、そこには清宏達の姿が写し出されていた。
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