第237話 デジャヴ
アルトリウスと朧が意外にも打ち解けた後、朧にも理由を話して調べ物を続けていると、書庫の扉が開いて清宏が現れた。
「おいーっす、こっちは終わったぞー」
「清宏様、お疲れ様でございます」
いち早く気付いたアルトリウスが作業を中断して迎えると、清宏は近くにあった椅子に腰掛けてため息をついた。
「アウェーはやっぱ苦手だわ・・・由良様は相変わらずニコニコしてたけど、他の連中ときたら殺気だった目で見てくるんだもんなぁ。
てか、まさかお前等が書庫に居るとは思ってなかったわ・・・暇潰しか?」
「信濃が調べたい事があると言いましたので、私はその手伝いでございます」
アルトリウスが説明をしていると、山の様に書物を抱えた信濃が清宏の隣に腰掛け、ニヤニヤと笑いながら耳打ちした。
「清宏、そいつは手伝いとか言うとるけど、さっきまで女口説いとったんやで」
「えっ、マジで?女って言ったら、確かあの強そうなのが見張りに付けられてたよな・・・まさかそいつか?」
「違います!私は断じてその様な事はしておりません!!」
アルトリウスが慌てて否定すると、信濃は奥で資料を探していた朧に手を振って声を掛ける。
「楽しそうに話しとったんは事実やろ・・・なあ朧ちゃん?」
「そこで私に振らないでいただきたい・・・ですが、良い勉強になったのは事実ですので、有意義な時間であった事は否定いたしません」
「何だよ、やけに打ち解けてんのな・・・まさか本当に?」
「ですから違うと言っているではないですか!くっ・・・信濃よ、貴様は私が戦う事を禁じられているからと言って調子に乗りおって!!」
「わーっ!冗談や冗談!!怒らんでも良えやんか!?」
「別に殺さずとも身体に思い知らせる事は出来る・・・覚悟するが良い!!」
「ちょっ、待ったってや!あーもう、仕方ないなぁ!!」
「煙たっ!?」
堪忍袋の緒が切れたアルトリウスが鬼の形相で信濃を捕らえようと腕を伸ばした瞬間、信濃が札を取り出し、煙に包まれた。
隣に座っていた清宏は煙に巻かれて椅子から転げ落ち、苛立たしげに立ち上がる。
「小癪な真似を!」
「いきなり何しやがんだ!椅子から落ちただろうが!?」
アルトリウスと清宏が怒鳴り、必死に煙を振り払うと、信濃が居た場所に小さな人影が浮かび上がってきた。
「あはは・・・すまんかったなぁ、気にしとる余裕が無かったんや」
「ん?いや、何で今あいつの声が聞こえるんだ?」
「なっ・・・このお声はリリス様!何故こちらに!?」
煙が晴れて現れたのは、城に居るはずのリリスだった。
清宏とアルトリウスは突然のリリスの出現に、驚きの余り目を丸くしている。
「このお方が魔王リリス殿でございますか・・・広間で清宏殿が仰られていた通り、確かにまだ幼いようでございますね」
朧が興味を惹かれて覗き込むと、リリスは腕を組んで不適に笑った。
「ちゃうちゃう、ウチや!信濃や!これやったらいかなアルトリウスやって手は出せへんやろ!?」
「貴様、事もあろうにリリス様に化けるとは言語道断!私の前でその姿になった事を後悔させてやろう!!と、言いたいところではあるが、貴様が化けているとは言え流石に気が引ける・・・清宏様、お願いいたします」
「ハイヨロコンデー!!」
「はんっ!?」
アルトリウスに頼まれた清宏が元気に返事をし、隣で踏ん反り返っていた信濃の頭に拳骨を喰らわせると、信濃は奇妙な声を発して蹲った。
「き、清宏・・・これはアカンて・・・頭爆けるかと思ったわ・・・てか、一応リリスの姿なんやから手加減せえよ自分・・・」
「何言ってんだ、これでもかなり手加減したんだぞ?普段あいつに喰らわせてるのの半分以下だぞ今の・・・」
「えっ・・・あいつ固すぎひん?てか、ウチの防御力低すぎ!?」
「皆様、調べ物は捗っておられますか?宜しければ、お食事などどうでしょ・・・」
信濃がリリスよりも防御力の低い事を知ってショックを受けていると、またもや扉が開いて何者かが顔を覗かせた・・・現れたのは、この国の女王である由良だった。
由良はリリスの姿になっている信濃と目が合うと、硬直して動かなくなった。
「ど、どないしたん?大丈夫か自分・・・?」
「・・・イイ」
「ん?何やて?」
「ンギャワイイッ!!!」
動かなくなった由良を心配した信濃が様子を伺うと、あまりにも小さな声で何やら呟いているため聞き返す・・・すると、由良は突然奇声を発し、鼻血を吹き出して後ろに倒れた。
「ゆ、由良様ーっ!?お、お気を確かにー!!」
「お、朧・・・あの子は・・・あの尊い少女は何方ですか・・・?」
「あの方は、魔王リリス殿に化けた信濃殿でございます・・・」
「あれが、あの尊い少女が魔王リリス様・・・朧、私は決めました・・・この国を挙げて魔王リリス様を崇めましょう・・・」
「ゆ・・・由良様ーーーっ!!」
朧に抱き上げられていた由良は、鼻血の出し過ぎで顔面蒼白になり気絶した。
あまりの急展開について行けなくなっていた清宏は、隣にで呆然としていたアルトリウスの脇腹を肘で小突く。
「なあ、これをデジャヴって言うのかね・・・」
「確かに、見慣れた光景ではありますな・・・」
「てか、この世界の女って何?ロリコン率異常じゃね?シスとかシスとかシスとかさ・・・」
「否定出来ないのがなんともまた・・・とは言え、これはまさか我々が疑われる流れでは?」
「結局、いつも順調には進まないんだよな・・・慣れてきた自分が嫌になるわ」
その後、2人の予想通りとなってしまい、騒ぎを聞き付けた家臣達によって清宏達はこってり絞られる事になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます