第233話 アルトリウス、キレる
清宏達が城を出て2時間が経ち、話のネタが切れるのを見計らったかの様に、眼前に広大な都が現れた。
そこは、碁盤の目の様に区画整理がされており、平安京がそっくりそのまま転移したかと思える外観をしていた。
「将棋がしてえ・・・」
「ウチは囲碁が打ちたいわ」
「私はチェスをしたくなってまいりました」
3人は都を見るなり苦笑して呟く・・・やはり、条坊制の土地を見れば似通った感想を抱くようだ。
大門に近付くと、信濃は門の前に降りるように火車に指示を出す。
「目の前で良いのか?」
「直接御所の前に降りる訳にはいかんやろ・・・そんなんしたら撃ち落とされるわ」
「それもそうか、友達の家に行くって訳じゃないんだしな」
「たぶん、御所までは馬車かなんかで送ってくれるはずや。
流石に門の近くの人間にはバレるやろうけど、騒ぎが起きる頃には御所に着いとるやろ」
「残念、ゆっくり見てみたかったんだがな」
「自分が向こうを刺激せんかったら出来るんちゃうか?」
「無理だな」
清宏が肩を竦めると同時に車内が小さく揺れ、火車が大門の前に着地した。
信濃が先に降り、清宏とアルトリウスが続けて降りると、車の外は既に兵士達に囲まれていた。
取り囲んでいる兵士達は皆、刀に似た剣を抜いて殺気立った目で3人を見ている。
「き、貴様は魔王信濃!?何の用だ!!」
「あー・・・いきなり来てもうて悪いんやけど、由良に大事な話があるから会わせてくれるか?」
「これはこれは信濃殿、敵である貴女が正面から訪ねて来られるとは・・・もしや、やっとその首を差し出す気になられたのですかな?」
信濃が正面に居た兵士に話をしていると、その兵士の背後から小馬鹿にしたような男の声が聞こえた。
取り囲んでいた兵士達が左右に割れ、信濃達がその先を見ると、直垂姿の偉丈夫が立っていた。
その男を見た信濃は、途端に顔をしかめる。
「げっ・・・何で自分がこないなとこおんねん」
「丁度近くに来ていたところ、怪しい影が降りてくるのに気付いたものでな。
それにしても、鞍馬も連れずその程度の手勢で現れるとは、我々も随分と舐められたものだ・・・いや、主上への良い献上品が出来たと思えば悪くはないか・・・然らば、その首貰い受ける」
常人ならば身が竦む程の殺気を放った男は、腰に佩いた太刀の柄に手を掛けたが、一瞬その動きが止まると、柄から手を離し小さく笑った。
周囲の兵士達はその行動に首を傾げたが、男が佩いている太刀を見て目を疑った・・・その太刀は地面から伸びた鎖により、絡め取られていたのだ。
「お見事、某が気配にすら気付かぬとは恐れ入った・・・この様な芸当、信濃ではあるまい?」
「俺だよ・・・。いきなり喧嘩腰とは関心しねーなぁ?どう言う了見だテメェ、返答次第ではぶち喰らわすぞゴラ!!」
信濃を庇う様に前に出た清宏は、男を睨み付けて怒鳴った。
清宏の怒声が聞こえたのか、門の先から大勢の住民達が顔を覗かせている。
男はそれに気付いたらしく、兵士達に指示を出して住民達を離れさせて清宏に向き直った。
「貴様、知らぬ顔だが大した自信だ・・・某の太刀を絡め取ったとは言え、ネタの割れた今、某が貴様の様な凡夫に遅れを取るとでも?」
睨み付けてくる清宏が気に食わないらしく、男は挑発する様に笑いながら構えた。
すると、男の眼前に突如としてアルトリウスが現れ、片手で首を締め上げて軽々と持ち上げた。
男は突然の事にすぐには状況が理解出来なかったが、自身の首の骨が軋む音に我に返り、恐怖と苦しみでもがき出した。
「貴様、事もあろうに清宏様を凡夫と罵ったな?たかが剣士風情が我が主を愚弄して楽に死ねると思わぬ事だ・・・」
「や、八雲様!?貴様、八雲様を放・・・!」
「囀るな」
兵士達は男を助けようとアルトリウスに斬り掛かったが、一睨みで金縛りに遭ったかの如くその場から動けなくなる。
信濃までもがアルトリウスの変貌ぶりに恐怖し、その場に絶望に似た空気が漂っていたが、ただ1人清宏だけはいつも通り大きなため息をついてアルトリウスの後頭部を叩いた。
「はいストーップ!殺したらリリスが悲しむからそこまでだ・・・あと、俺はお前の主じゃないし、凡夫なのはその通りなんだからキレんな」
「ぐぬっ!?き、清宏様・・・手加減してくださったとは言え、後頭部は結構キツいです。
清宏様、お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません・・・」
後頭部を叩かれた事で正気に戻ったアルトリウスは、八雲と呼ばれていた男を解放し、地面に落として蹲った。
「ちっとはマシになったと思ってたのに、この程度でキレんじゃないよまったく・・・」
「そうは申されましても、清宏様は私を倒したお方・・・清宏様が愚弄されたと言う事は、私が愚弄されたと同義でございますから・・・」
「馬鹿にしたい奴にはさせとけば良いんだよ!自分の為より仲間の為に力使え!」
「申し訳ございません・・・清宏様、最後に一つだけ申し上げてもよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「清宏様が凡夫であれば、この世の大半の人間は立つ背がなくなるのでは?」
「自己評価は低くが俺のポリシーだからな!そうすりゃあ貶されようが気にならんし、傷付く事も無いからな!!」
畏るアルトリウスに清宏が胸を張っていると、解放されて咳き込んでいた八雲がフラフラと立ち上がって清宏を見た。
「ア、アルトリウスとは・・・あの探求者の事か・・・!?」
「そうだ・・・てか、あんた喉は大丈夫か?喋り辛いならこれでも飲め」
清宏はポーションを取り出して渡したが、八雲は疑っているのか一向に飲もうとしない。
それを見た清宏は、まだ弱っている八雲を羽交い締めにして無理矢理ポーションを飲ませる。
「げーっほ!げほっ!!き、貴様いきなり何をっ・・・い、痛みが消えた」
「だから飲めって言っただろーが・・・そもそも、殺すつもりならアルトリウスを止めたりしねーだろ?ちっとは話聞く気になったかよ」
清宏がしゃがみ込んで覗き込むと、その瞬間、八雲は素早く太刀を抜いて清宏の首を刎ねようとしたが、見えない壁に阻まれて刃は届かず、時間が停止したかの様に空中で止まっている。
「な、何だこれは・・・」
「何だはテメェだ馬鹿野郎!ポーション飲ませてやった礼がこれか!!」
「・・・っ!!?」
清宏が強烈なデコピンを喰らわせると、八雲はダンプカーにでも衝突したかの様な勢いで弾き飛ばされ、何度も地面を跳ねながら大門の柱に打つかり、そのまま気絶してしまった。
『八雲様ーーーーっ!!!』
兵士達は気絶している八雲に駆け寄り名前を叫んだが八雲からの返事は無く、皆絶望した様に恐怖に引き攣った表情で清宏を振り返った・・・恐らく、次は自分達だと考えているのだろう。
兵士達の絶望に満ちた目で見つめられた清宏は、慌てて首を振った。
「安心しろ!そいつは馬鹿だったからそうなっただけだからな!?さっき言った通り、俺達は由良って人と話がしたくて来ただけなんだ!!」
「わ、分かった・・・話を通して来るから、命ばかりは・・・
「だから殺さねーって言ってんでしょ!?」
1人の兵士が慌てて駆け出し、報告へ向かう。
清宏は、その兵士が戻って来るまでの間、必死で弁明する事になってしまったのは言うまでもなかった。
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